最近、企業の人事部からのお問い合わせで「役員・部長クラスを対象に360度FBサーベイを導入したい」という相談が増えています。

その背景を伺うと「会社のミッション、ビジョンを改定したので…」「中期経営計画の達成に向けて…」などの状況があり、会社としてまずは幹部クラスから意識改革をして、そして従業員全体に良い影響を拡げたいという狙いがあるようです。

企業の人材育成を支援して感じることですが、一般的に上位層のビジネスパーソンになるほど自分自身を変えることが難しい傾向があります。

なぜなら仕事の経験が豊富になると周囲からのフィードバックは少なくなり、たとえ周りから貴重なアドバイスがあったとしても本人が抵抗感を持ってしまい、素直に受け入れることができない人が多いように感じます。

しかし、幹部社員であっても自らの弱みに気づき、行動変革をしていかない限り、さらに高いレベルへ成長することはできないと思います。

今回のコラムでは、企業幹部を行動変革に導く手法「エグゼクティブ・コーチング」について取り上げてみます。

このテーマについては、GEの前会長兼CEOジャック・ウェルチ氏をコーチしたことで知られる世界的なエグゼクティブ・コーチ、マーシャル・ゴールドスミス博士のコーチング手法を参考にして、その効果を考えてみたいと思います。

マーシャル氏のエグゼクティブ・コーチングは、以下の流れで進めていきます。

『コーチングの神様が教える「できる人」の法則(日本経済新聞出版社)』から引用。

1)フィードバックを受ける

−対象者に関する仕事上の特徴(主に対人関係面についての問題点)を仕事上の関係者(上司、同僚、部下)複数名からアンケートとインタビューによって聞き出し、その結果をコーチから本人へフィードバックする。

※複数の関係者から得た情報を本人へフィードバックすることをここでは「360度フィードバック」と呼んでいます。

2)周囲に謝罪する

−360度フィードバックの結果から明らかになった「周囲に悪い影響を与えている行動」を本人が自覚し、そのことについて職場ミーティングの場で「自分の××の行動は間違っていたので、今後は改善するよう努力します」と関係者に謝罪する。

3)公表する・宣言する

−周囲に謝罪した後は、「××の行動をあらためて、○○な人間になる」と宣言する。そして自分を変えるための具体的な行動計画を発表して、その内容を周囲と共有する。

この後にも、「人の話を聞く」「感謝の気持ちを伝える」「関係者からのフォローアップを受ける」など、対人関係の問題を改善するための行動プログラムを取り入れています。

マーシャル氏はエグゼクティブが持っている「悪い癖」を20に分類していますが、その中で最も多くのエグゼクティブが持ち合わせている悪癖が「極度の負けず嫌い」といいます。

ただし、エグゼクティブは「負けず嫌い」だからこそ仕事でも大きな成果を残して他人よりも早く昇進することができたのであり、別の見方をすれば「負けず嫌いが成功要因だった」とも言えます。

しかし、リーダーになってからの「負けず嫌い」の行動が周囲に対して悪影響を与えていることはよくあるケースです。

そのことを本人に気づかせるのが周囲からのフィードバックであり、本人の悪癖を改善して良いリーダーに生まれ変わらせるのがエグゼクティブ・コーチの役割になります。

マーシャル氏のコーチングはこの一連のステップを踏むことで、どんな悪癖を持ったエグゼクティブでも12〜16ヶ月で確実に生まれ変わらせてきたといいます。

このマーシャル氏のエグゼクティブ・コーチングで特に注目すべきなのは、最初のステップで「360度フィードバック」を効果的に活用されていることです。

対人関係に問題を抱えている多くのエグゼクティブは、本人がそのことに全く気づいていないことが多いようです。

深刻な問題があることを本人に理解させるには、周囲の多数の人(部下・同僚・上司)が本人の行動をどのように思っているかという客観的な事実情報(360度フィードバック)が、非常に強い刺激となります。

健康面に例えるなら「自分は全く健康だ」と思っている人に、人間ドック受診後に「異常」が見つかった診断結果を返却する時と同じ状況といえます。

マーシャル氏の表現を引用すると、

『私が外科医だとしたら、フィードバックはMRIのようなものだ。

MRIは深部組織の損傷を示し、何が壊れているのかを知らせる。

患部を治すには手術が必要だし、患者はよくなるために何週間もかけてせっせとリハビリをしなくてはならない。』

つまり、「360度フィードバック」という客観的な結果は、上記におけるMRI診断結果に相当するものであり、エグゼクティブの行動変容を促すための刺激的な情報といえます。

多くの企業では、経営革新に向けては幹部社員の意識改革がますます重要になっています。

経営幹部の意識改革に取り組まれる企業にとっては、「360度フィードバック」を上手く活用して、まずは本人に “ 気づき ” を与えることが経営革新の第一歩になるのではないでしょうか。

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