◆360度フィードバック(360度評価)の実施効果を高めるために
先日、テレビ番組で宇宙飛行士の若田光一さんの特集がありました。
その番組の中で若田さんが子供達に宇宙飛行士の仕事を紹介して、最後に子供達からの質問に答えるというコーナーがあり、ある子供が質問しました。
『流れ星をみたときに願いごとを言ったら夢が叶うというのは本当ですか?』
おもしろい質問だったので、いったいどんな回答があるのか興味を持って観ていると、
『流れ星が見える時間はとても短いですよね。
その短い時間にきちんとお願い事を言えるのは、その人がいつもその希望を叶えたいと強く願っている証拠 なんですよ。
“すぐに言葉にできる”ということは、いつも目標を意識して一生懸命努力しているという事なのです。
だから流れ星に願い事を言ったら夢は叶うのですよ。』
といったように、若田さんは、とてもわかりやすく説明されていました。
この話を聞いたときに、以前360度フィードバックを実施された企業のある管理職のことを思い出しました。
弊社のクライアント企業であるA社様では、毎年1回、管理職全員を対象に360度フィードバックを実施して、集合研修で結果を返却しています。
研修前に対象者個々の結果を分析すると、前回(1年前)と比較して圧倒的に結果が向上している対象者(Bさん)がいました。
前回は厳しい結果であっただけに、この1年間の向上度は際立ったものがありました。
そこで、360度フィードバックの効果を高めるヒントを得るために、研修終了後、Bさんにインタビューをさせてもらいました。
最初にBさんが見せてくれたのは、使い古された1冊の手帳でした。そこには1年前の研修で立案した「3つの行動目標」と日々のセルフチェックの記録(○×)がビッシリと書き込まれていたのです。
Bさんに「この1年間で行動改善できた原因」について質問すると、
『私は前回の結果を返却された時に、自分のダメな状況に気がつき、とても反省しました。
この1年間、実際には行動できなかった日もたくさんありましたが、毎日行動目標を振り返ることで常にそれを意識していました。
今では無意識に行動できるまで習慣化しています。
その行動の結果が周囲から認められたのだと思います。』
つまり、Bさんはこの1年間いつも「行動目標」を意識して一生懸命努力され、その結果、自分がなりたい姿(理想の管理職)に近づくことができたということです。
ここまで真摯に徹底して取り組まれる方はそれほど多くはないかもしれませんが、このことは、まさに、宇宙飛行士の若田さんが話した『流れ星へのお願い』にも共通する大事なことであると思います。
一般的な研修では多くの受講者は、研修が終わって日常業務に戻ると、研修で学んだことはいつの間にか忘れてしまう傾向があります。
しかし、360度フィードバックを活用した研修は、研修の中で受講者本人の仕事に対する取組み状況を明らかにすることから当事者意識が高まり、一般的な研修と比べ意識や行動改善の実践を継続しやすいという特徴があります。
とはいえ、限界もあります。
研修の効果を持続させるためには、先に紹介したBさんの研修後の取り組みは大きなヒントになります。
ところで弊社では、フィードバック研修後の実施効果を高めるために、さまざまな観点からの調査や分析を行っています。
先日、クライアント企業様 数社に依頼して「研修後の受講者の実態調査」をさせていただきました。
インタビュー取材とアンケート調査でわかったことは、研修終了の1〜3か月後に受講者の約3割がフィードバック研修の中で設定したアクションプランをきちんと継続的に実行され、約5割がアクションプランの一部のみを実行されていました。
しかしながら、約2割はあまり実行されていませんでした。
「実行できた人」と「実行できなかった人」の違いは何が原因なのかを探るために、「実行できた人たち」の状況を更に詳しく調べてみたところ、アクションプランを継続的に実行するための工夫をされていることがわかりました。
特に効果的な方法だと感じたものが3つありました。
1)職場メンバーと共有する
職場メンバー(回答者)に対して、360度フィードバックを受け取った感想と今後どのように行動するか(行動目標)を発表し、対象者本人の状況を職場全体で共有しています。
これによって、職場メンバーは対象者本人の行動改善を意識するようになり、対象者のことを積極的に支援しようという気持ちになっていくようです。
2)上司を活用する
日々のマネジメント行動の実践状況について、定期的に上司へ報告し、その都度上司からアドバイスを受けて行動改善に繋げています。
3)行動目標を“見える化”する
フィードバック研修で考えた行動目標を“見える化”して、そしてその行動目標に対して日々自己評価(振り返り)を行っています。
意識するための方法として「デスクマットに挟み込んで仕事中でも見えるようにしている」、「アクションプランを手帳に書き込んでいる」などがありました。
以上紹介した3つの取り組みは、いずれも「行動目標を忘れないよう常に意識できる状態にしている」ことが共通しており、そのことで職場での継続的な実践に繋がっていると考えられます。
これらを踏まえて、弊社ではフィードバック研修後の実行を支援するための仕組み(※システムを活用した運用しやすいシンプルな仕組み)を提供しています。
具体的には、一定期間後に受講者とその上司へ「アクションプランを思い出させ、アクションを継続化させるようなコンテンツ」をメール送信します。
そのことで、受講者にアクションプランをセルフチェックさせたり、また上司との対話(面談など)のきっかけとしてもらったりします。
多くの企業では、研修実施後のフォロー(実践状況の確認・支援)までは行き届いていない状況だと思います。
しかし、企業が研修を実施する目的は受講者が研修で学んだことを活かして仕事の成果をあげてもらうことです。
成果をあげるためには職場での行動実践が必要になります。
そのためには、研修後の受講者の取り組みを様々な方法でフォローすることが重要です。
人材育成を本気で考えている企業様にとって、今回紹介した事例が360度フィードバックの実施効果を高めるためのヒントになればと願っています。