◆続:知ってますか? 「フィードバック」の本当の意味
最近、「フィードバック」という言葉が人材開発領域のみならず一般的に使われるようになってきました。
フィードバックに関する書籍が増えていたり、シンクタンクやメディアが実施する人材育成実態調査等の調査項目に「上司から部下へのフィードバックの有無」が追加されたりなど、多くの場面で「フィードバック」という言葉を目にすることが増えています。
このフィードバックを真正面から取り上げた「フィードバック入門(PHP研究所)」において、著者である東京大学の中原淳先生は、
「フィードバックとは『耳の痛い情報を伝えて部下と職場を立て直す技術』」
と定義されています。
より高い成長を求められたり、自分自身もっと成長したいと考える中で、
「難易度の高いストレッチの仕事に向かうようになると、その困難度やハードルの高さゆえに、取り組んでいる本人には、何がうまくいって、何がうまくいかなかったかが見えなくなってしまう(それに取り組んでいるとき、すなわち渦中にいるときは特に)」
「ついつい自分のしてきたことや結果から目を背けてなかったことにしてしまったり、環境や他人のせいにしがちになる(失敗した経験に向き合うことは非常に難しい)」
という状況にどうしてもなりやすいところを、「耳の痛い情報を伝える」ことで自身の状態に気づかせるのが「フィードバック」であるという考えです。
私はその一方で、フィードバックは「耳の痛い」情報だけでなく、「良い情報(良いこと)」を伝えることも大事であると強く感じています。
以前にこのコラム(*)でフィードバックの語源について触れていますが、
「フィードバック」の「フィード」とは「feed」であり、これは“food”を語源とする“食べ物”、“栄養”を意味し、
「フィードバック」とは、本来、部下にとって成長のこやし(栄養)になるものを与えること
というものです。
成長のこやし(栄養)になるものということであれば、「耳の痛いこと」に限らず、「良いこと」を伝えるという行為も同じぐらい大切だと私は思うのです。
一般的に「良いこと」を伝えるフィードバックには2つの種類があると言われています。
①感謝
最もシンプルな例は「ありがとう」です。「見ていますよ」「あなたがいてくれてよかった」という承認的な意味合いもあります。
「自分のことを見てもらえていない、気にかけてもらえていない」と思っている方も意外に多くいるので、とても効果があります。
②ほめる
「こんなところができていてとても良かった」「こんなことを期待していたが応えている」というものです。
結果だけでなく、プロセスや姿勢もその対象です(むしろプロセスや姿勢の方が大切です)。
“自分はこれで良かったんだ”という安心感につながり、その後の行動に勢いやエネルギーが出ます。
以前360度フィードバック(360度評価)を実施された企業の集合研修において、ご自身の報告書に記されたフリーコメントの記述を見つめながら、なんと涙を流しておられる管理職の方がおられました(仮にAさんとします)。
相当ショックを受けられたのかな?大丈夫か?と思い声をかけてみると、予想外の言葉が返ってきて驚きました。
「自分がやってきたことが間違っていなかったんだとわかりました。本当に報われました。必ずやもっとパワーアップします!」
Aさんは今の組織にマネジャーとして異動してきました。
年上の部下に囲まれ、部下の方が経験が多いという状況の中、自分には何ができるのかを考え、模索しました。
部下の経験や考えを聞く機会を多く創り情報収集する、お客さまのところに同行し顧客の生の要望を聞く、さらには夜遅くまで残って知識習得に励むなどです。
このように努力は重ねてきましたが、なかなか目に見える成果につながらず、3か月たっても部下たちの反応も今一つつかめずという状況で、毎日不安で苦しい時を過ごしていたそうです。
そんな時に360度フィードバックのフリーコメントで目にしたのは、
「いつも声をかけてもらえて、そして話を聞いてもらえてありがたいです。」
「Aさんの頑張りぶりは素直にすごいと思います。これからも我々をリードしてください」
「自分から情報を取りに来て、さらに得たいろいろな情報を使いやすい状態にして部下に伝えてくれる上司ははじめてです。自分より年下だけど信頼できると思いました。今後ともよろしくお願いします」
といった言葉でした。
部下たちが、360度フィードバックの機会を使って、面と向かっては口にできなかった感謝の気持ちなどを書いてくれたようです。
そしてAさんは「自分もこれでやっとこの組織のマネジャーとして認められたな」と感極まり、涙してしまったようです。
ちなみに、このAさんの360度フィードバック結果の得点自体はそれほど高いものではありませんでした。
また、フリーコメントの「課題に思うこと・今後期待したいこと」という欄には、良いことの倍ぐらいのコメントが割と厳しい調子で並んでいました。
しかしAさんは、上述の良いことのフィードバックも受け気持ちを前向きに転換できたことで、これらの“耳の痛いフィードバック”も素直に自分の課題として認識し、行動を変えていくための決意ができたと言います。
また、厳しいことを伝えてくれる部下たちに感謝の気持ちさえ持てたそうです。
このような例を間近で拝見すると、
「耳の痛いこと」だけでなく「良いこと」もフィードバックすることで、本人のやる気を引き出し、行動を変えることにつなげる
という弊社がご提供するサービスの意義を再認識することができます。
時々、360度フィードバックに感じる懸念点として、「対象者がショックを受け、やる気をなくしてしまうのではないか」ということをお聞きしますが、上述のように「良いことにも着目する」、「励ましのアドバイス」を書き込めるようにするなど、フィードバックする内容を工夫することで、対象者を前向きな気持ちにさせ、やる気を引き出すことが可能なのです。
ぜひこの機会に、360度フィードバック実施の意義や得られるであろう効果についてお考えいただければ幸いです。