◆スポーツから学ぶマネジメントの基本 〜嫌われる勇気〜

以前、ある企業にお伺いして360度フィードバック(360度評価)の結果をご本人に返却する研修において、「管理職は嫌われることこそが仕事だ」ということを口にされた方がおられました。

その時は時間がなく、このフレーズについて深くお聞きすることができなかったのですが、とても印象的であったことを記憶しています。

嫌われたい管理職がいるのだろうか、嫌われてでも管理職には業務推進や結果を出すことを求められているのだろうか、いやこのフレーズを表面的に捉えるのではなくもっと深い意味が込められているのではないだろうか。

そんなことを考えてしまいました。

管理職の方からよくお聞きするのは、「自分が若い頃はもっと厳しく指導されていたが、最近の若手に同じように接すると若手は耐えられなくなってしまう。」というような内容です。

そして、「どう指導すれば良いのだろうか」と悩まれる方もいれば、「いや、嫌われてでも厳しく指導すれば、いつかきっと分かってくれるはず」と考える方もおられます。

確かに、管理職の方から見ると最近の若手は少し甘いように感じてしまうのかもしれません。

ただ、理解しておくべきは若手を取り巻く環境が過去とは比較にならないほど変わっているという現実です。

ネットを通じてありとあらゆる情報を瞬時に得ることができる現代において、若手社員は様々なことを知っており、また何に対してもすぐに答えを求めてしまいがちです。

ある意味では、最近の若手は視野が広く、多くの選択肢を持っており、また一人ひとり違う考えを持っているといえ、そんな彼らに古い考え方を押し付けたり、彼らを古い尺度ではかろうとしたりすることは少々無理があるというのも事実です。

360度フィードバックにおいて、部下が上司の行動に対して感じていることを回答したフリーコメントを分析していくと、業種・業界・規模を問わず多くの企業で、若手社員の声として共通するキーワードが浮かび上がってきます。

それは決して「上司が厳しすぎる」や「上司にはもっと優しくしてほしい」というようなことではありません。

部下が求めているのは、「もっと話を聞いてほしい」や「もっと自分のことを分かってほしい」というとてもシンプルなことなのです。

2017年4月27日に「嫌われる勇気」というタイトルで発行されたスポーツ情報誌「Number」(文芸春秋)の中に、ラグビー前日本代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ氏のインタビュー記事が掲載されていました。

とても共感する部分がありましたので少し引用させていただきます(下記の太字部分が引用。ただし、原文がインタビュー記事であるため、一部表現を変え分かりやすくしています)。

「自分がコーチやスタッフから信頼されていると実感できたとき、初めて真のハードワークに取り組める。」

人には承認欲求というものがあります。

他人から認められたいという感情であり、最近の若手は特に強く求めている傾向があります。

不安定な時代だからこそ、まずは自分の存在を認めて欲しいと感じています。

ただ、ここでいう「認めてほしい」とは、決して自分の考え方や行動が正しいと認めてほしいことを期待しているのではなく、まずは自分の考えや行動にもある一定の理解を示してほしいというものです。

ある一定の理解を感じることで、「なんだ、もっと自分の意見を言ってもいいんだ」「そうか、もう少しやってみよう」という前向きな姿勢が生まれてきます。

「ハードワークを誤解しているコーチは、選手全員を同じように指導している。」

公平・平等に指導するということももちろん大事なことです。

しかし、部下によって知識や経験、考え方、更には指導を求める頻度も異なります。

上司が良かれと思って実施している指導が、部下によっては重荷になっていることもあります。

部下それぞれに応じた指導をしない上司は、部下全員に同じレベルの成果を求めることで、部下をつぶしてしまうこともあるということを知っておいていただきたいと思います。

「個々の選手に『枠』を与え、この枠の中では自由にやっていい、と伝える。」

部下に仕事を任せることが不安で、管理職自ら細かいことまでやってしまっているという話を聞くことが多くあります。

確かに、知識や経験の少ない部下に任せると、時間が多くかかってしまったり、間違った方向に進んでしまい軌道修正することに労力を取られてしまったり、ということがあります。 

ただ、部下は仕事を任せなければ経験を積むことができません。方向性(枠)を示しながら、仕事を任せることが管理職に求められています。

「選手から好かれる必要などないのです。嫌われても全く構いません。ただし、選手から『敬意』を持たれていないとすれば、それは指導者失格です。」

このコメントは非常に深い意味を含んでいると考えます。

「嫌われても全く構わない」とは少し極端な例えではないでしょうか。

例えば部下に対して、厳しい指導をすると嫌われてしまうかもしれません。

ただ、厳しい指導だけでなく、承認欲求を満たしたり、仕事を任せフォローしたりすることで、部下からの信頼感が生まれてくるのではないでしょうか。

この信頼感こそが敬意であると考えます。

最近の若手は確かにこれまでとは異なり、指導することが難しいのかもしれません。

一人ひとり異なった考えを持ち、それぞれに応じた指導が求められる時代になっています。

ただ、部下個人個人の思いや考えていることが分かれば、アプローチはシンプルで良いというのも事実です。

しかし、上司として部下にどのように接しているのか、そして接した結果として部下はどんなことを感じたり何を考えたりしているのかをきちんと把握することは簡単ではありません。

管理職である上司に、自分が部下にどう見られているのかを理解させマネジメント力を向上させるための手法として、360度フィードバックを活用される事例が増えてきています。

そういった意味では、360度フィードバックは、「上司と部下の関係を良くする(強化する)仕組み」といっても過言ではありません。

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