◆“期中の上司・部下面談”の効果を高めるために

以前、ある会社の人事部長から、「中間面談を“部下の育成を支援するフィードバックの場”としてしっかりと機能させたい」といった相談を受けました。

この会社は目標管理制度を導入しており、期の中間時点で、「目標の進捗確認と部下育成を目的とした中間面談」を行われていました。

皆さんの会社も、同様の制度を導入されていらっしゃるのではないでしょうか?

ところで最近、“期中に部下と面談し、その中で適切なフィードバックを行うことで部下の成長を支援しよう”という気運が高まっているように感じます。

例えば、話題の「1on1」ミーティングもその1つでしょう。

その人事部長も、それらに刺激を受けられたのかもしれません。

しかしこの会社において、面談と言えば「評価結果の返却や目標設定を行う期初面談」のイメージが強く、「期中の面談」は中途半端な状況になっており、実施率も低くなっていました。

面談を行う上司からは「期中面談は、何を話したらよいのかわからない」といった悩みの声も聞かれていました。

そこで人事部長が考えたのが、「360度フィードバック(360度評価)」の活用です。(※以下、「360度FB」と表記します)

部下(一般社員)に360度FBを実施し、部下の個人結果を面談のアドバイス資料として活用することで、部下と対話が苦手な上司でも部下の育成につながる面談を行えるのではないかと考えられたようです。

人事部長の考えた施策手順は以下のようなものでした。

1.一般社員(新入社員を除く若手クラスから管理職手前のリーダークラスまで)に対して360度FBを実施する

2.実施結果(個人報告書)を対象者の上司に送付する

3.上司である管理職は自分の部下の報告書内容をしっかりと確認し、部下の課題を把握する

4.「中間面談」において、その報告書を共有しながら部下の育成課題を伝え(フィードバック)し、今後の取り組みについて対話する

「360度FBの結果を活用して、部下との面談を実のあるものにする」

これはアリだと思いました。

部下との面談が必ずしもうまく機能していないという状況はこの会社に限ったことではありません。

上司の面談スキルには大きな差があり、

「部下とどんな会話をすればよいのか?」

「どんなことを伝える(フィードバックする)ことが部下の成長につながるのか?」

など、面談をどのように進めればよいのか困ってしまう上司も少なくないという声を多くの会社から聞きます。

しかし私はこの話を聞きながら、とても素晴らしい施策であるものの何かが足らないように感じました。

この会社に、上記の手順で360度FBを導入しても、「中間面談」は期待通りには機能せず、現場にうまく定着しないのではないか…。

私が足りないと感じたもの。

それは、「フィードバックに対する有用感(役に立つという実感)」です。

この会社では、面談において“部下育成を目的としたフィードバックを行う”といった認識はありません。

このような風土の中で過ごしてきた上司自身も“フィードバック(成長のために有益なアドバイスなど)”を受けて育ったという意識はなく、“フィードバック”ということに対してポジティブな感情を持てていません。

そのため、「中間面談の中で部下育成のためのフィードバックを!」と打ち出したとしても、「また人事部が面倒なことを始めた…」くらいにしか思わないのではないでしょうか?

大事なことは、上司自身が、「このフィードバックは部下の役に必ず立つのだ」という熱意や自信をもって取り組むことであると言えます。

上司がそのような熱意や自信を持つためにも、上司自身が「フィードバックを受けることは有意義なことである」と実感し、この施策に納得することが重要になってくるのです。

つまり、手元に有効な資料があったとしても、有用感(役に立つという実感)をしっかりと持っていなければ、面談を効率的に進めることはできても、部下を動機づけ、成長に向けた行動を促すことは難しいと言えるでしょう。

意見交換を重ね、この施策は以下のように展開することになりました。

1.360度FBは一般社員のみを対象とするのではなく、全での管理職に対しても実施する

2.実施後、まずは管理職に対して「360度FBの結果返却(フィードバック)研修」を実施する

※「結果返却(フィードバック)研修」の主な内容

1)結果を前向きに受け止めさせる工夫を講じながら管理職自身の個人結果を返却し、行動改善につなげるために有効な情報やヒントなども提供することで、フィードバックを受けることのメリットを実感させる

2)その上で、部下との中間面談の進め方、その中で部下の360度FB結果を活用した育成支援の方法などを解説する

その後は当初案の通り、「上司へ部下の360度FBの結果を送付」→「事前に部下の結果を確認して課題を把握」→「各職場で中間面談を実行」といった流れとしました。

「結果返却(フィードバック)研修」を受講した管理職からは、研修内容に対して極めて高い評価を得ました。

その中で、特に印象に残ったのは、フィードバックされる立場、つまり「中間面談」における部下の心理状態が理解できたという感想でした。

「個人結果をフィードバックされることは正直怖かった。される直前にはかなり緊張した」

「何を、どんな順番でフィードバックされる(伝えられる)のかによって受け止め方が違ってくると感じた」

「もっと若いときに、自分の育成課題に関するフィードバックを受けたかった」


「結果返却(フィードバック)研修」が終わってしばらく経った後、中間面談が実施されました。

中間面談では、部下の360度FBの結果を活用し、上司から育成アドバイス(フィードバック)が行われました。

そして面談実施後は、面談を受けた部下からいろいろな感想が聞かれました。

「良くない部分だけでなく、良い部分にも着目してくれたことで意欲が高まりました」

「上司が自分の成長のことを思ってくれているという熱意を感じました」

人事部長は、「管理職の部下に対する育成意識が高まってきた」と満足そうでした。

上司(管理職)になると、他者からフィードバックを受ける機会は少なくなってきます。

それだけに、「フィードバック」が育成につながるという実感を持てなくなります。

そして、フィードバックされる部下の気持ちに対する理解も薄くなってしまいがちです。

上司自身がフィードバックされることの効力や嬉しさを実感していると、面談における熱量も高まってくるでしょう。

フィードバックされる部下の視点に立って、効果の高い面談を進めるためにも、管理職はフィードバックの効力を体感すべきではないでしょうか?

その1つとして、「管理職に対する360度FBの実施」と「結果返却(フィードバック)研修」は有効な手法と言えるでしょう。

フィードバックし合う風土がつくられることで、組織はより強くなります。

現在運用されている“期中の上司・部下面談”の効果を高めるためにも、「360度FB」をうまく使いこなし、強い組織の実現を目指していただきたいと願っています。

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