◆360度フィードバック(360度評価)導入への反対意見
『部下から上司へフィードバックするなんて無理だ。
うちの会社の風土には合わないから360度フィードバックの導入は難しいのではないか?』
現場からこんな意見が出て、もしあなたが人事担当者ならどのように対処しますか?
先日あるクライアント企業で360度フィードバックの導入が決まり、実施に向けて人事担当者と準備を進めてきました。
その企業では、全管理職を対象にマネジメント力強化(人材育成)のために360度フィードバックを実施することになっていました。
ところが、いざ実施する段階になって対象者である管理職から「実施に対する反対意見」が次々と出てきたのです。
このような状況は多くの企業で見られ、次のような反対意見が特徴的な例です。
『360度フィードバックは “個人的な好き嫌い” によって評価されるので、
部下に厳しいマネジメントスタイルをとる上司は低い結果になってしまう。
そのため、上司は部下に対して厳しい指導ができなくなってしまうのではないか?』
『自分のことは周囲からどのように見られているか大体わかっている。
だから私は360度フィードバックを受ける必要はない。』
『キャリアが長い管理職は仕事のやり方が固まってしまっているので、今さらフィードバックされても遅い。
管理職ではなく若手社員に実施するべきだ。』
『そもそも経験も知識も少ない部下が上司を評価するなんて無茶だ。
そのような評価結果に納得できるわけがない。』
360度フィードバックへの反対意見は、対象者である管理職クラスから出ることが多いようです。
クライアント企業の事前の社員向け説明会に参加させてもらうことがありますが、そこでは一般社員からは反対意見が出てくることは少なく、どちらかというと360度フィードバックの実施に肯定的で歓迎するような意見が出てきます。
ではなぜ、対象者である管理職からは反対意見が出るのでしょうか?
それは、管理職になると会社の中では職務権限が強い立場にあり、上司から業務指示は受けたとしても日々の職務行動について他人から指摘を受けることはほとんどなくなるからです。
若手時代には上司や先輩から直接指導を受けますが、ある程度キャリアを積んでからは誰からもフィードバックを受けずに過ごしてきています。
それが、このような360度フィードバックの導入によって上司や同僚だけでなく自分の部下からもアドバイスされるとなると、その結果によっては管理職としての権威が落ちてしまうように感じたり、自分自身のプライドが傷ついたりすることもあるでしょう。
管理職としては、できれば避けて通りたいというのが本心だと思います。
それぞれの反対意見に対し、その場で個別に説明したとしてもなかなか納得してもらえません。
反対している人の多くは「他人からフィードバックされたくない」というネガティブな気持ちに何らかの理由をつけて反対しているだけなので、根本的な解決は難しく、対症療法にしかならないでしょう。
それでは、360度フィードバックを導入する側としては反対意見に対してどのように対処するのが望ましいのでしょうか?
360度フィードバックを実施するケースだけではありませんが、人事が新しい施策を導入する際には各所から必ず反対意見が出てくるものです。
また、反対意見の中には360度フィードバックを正しく理解していないことが起因していることもあります。
このような反対意見に対処することは、人事部門にとって非常に労力を要するものです。
とはいえ、対象者からの反対意見は真摯に受け止めて、丁寧に対処することが重要です。
そのためには、反対意見を出している人の真意を把握し効果的なメッセージで回答することが望ましいといえます。
できれば、関係者全員で共有できるような広報メッセージとして発信するのが効果的な方法の1つです。
実際に、冒頭の反対意見があった企業では以下のような回答(FAQ)を全社広報の掲示板で共有されました。
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(Q)『部下から上司へフィードバックするなんて無理だ。
うちの会社の風土には合わないから360度フィードバックの導入は難しいのではないか?』
(A)360度フィードバックは、普段伝えることができていなかった感謝や期待、要望を自由に発言できる仕組みでもあります。これをきっかけに、職場の対話を促進して風通しのよい職場の雰囲気をつくりだしたいと考えています。
実際に、組織内のコミュニケーションが活発になったという企業の事例も多くあります。
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また、以下の反対意見に対しては、次のように回答されていました。
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(Q)『360度フィードバックは “個人的な好き嫌い” によって評価されるので、
部下に厳しいマネジメントスタイルをとる上司は低い結果になってしまう。
そのため、上司は部下に対して厳しい指導ができなくなってしまうのではないか?』
(A)「部下に厳しいマネジメント」と一言でいっても、例えば「感情にまかせて厳しく怒鳴っている」こと、更には「部下のことを思って真剣に指導している」ことなどもあります。
360度フィードバックによって、現在の上司のマネジメントが上記のどちらの状態として部下に伝わっているのかわかります。前者であれば改善が必要ですし、後者であればそのままでも全く問題ありません。
よって、ご懸念されるような問題は生じないどころか、後者の状態を促進するための手法でもあります。*******************************************************************************************
(※ここでは記載しませんが、その他の反対意見に対しても各企業の状況をふまえて適切な回答例をご用意しています。)
もともと人間には変化することを嫌う習性があるそうです。
ある意味、360度フィードバックに反対することは人間としてごく自然な反応ともいえます。
しかし、弊社が360度フィードバックの導入を支援した企業では、実施後に上記のような反対意見が出ることはまずありません。
それだけ対象者本人にとって有益な情報だということが実感できるからだと思います。
実際に360度フィードバックを受けた管理職からは、
『部下からのフィードバックは意外とうれしかった。』
『360度フィードバックのことを勘違いしていた。こんなにも自分のためになるものだと思っていなかった。』
など、前向きな感想が多く聞かれます。
実施する前には必ず反対意見は出ますが、360度フィードバックの効力を信じて、まずは一度やってみることが肝心です。
「管理職の強化」「組織の活性化」など企業が360度フィードバックを実施する目的はさまざまですが、実施した企業は確実に高い効果を出しています。
ただし、成功させるためには、企画からフィードバックまで多くの工夫や配慮をして進めることが必要になります。
組織を良くするために本気で取り組んでいらっしゃる人事担当者にとって、今回紹介した事例が人事施策を成功させるためのヒントになればと願っています。