◆有効求人倍率上昇。人材採用にばかり追われてしまっていないでしょうか。
12月1日、厚生労働省から発表された2017年10月の有効求人倍率によると、上昇が継続し、ついに1.55倍となりバブル期の最高(1990年7月の1.46倍)を上回るどころか、高度成長期の1974年1月以来、43年9カ月ぶりの高水準となっています。
(参考)厚生労働省の報道発表
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000186006.html
いろいろな企業の人事ご担当者と話をすると、頭を悩ませておられることの1つにやはり人材採用があげられます。
どうすれば優秀な人材を一人でも多く採用することができるだろうかとお考えの企業がとても多くあります。
日本の人材採用は新卒一括採用を重視するという世界的にも特異な性質があります。
新たに大学や高校などを卒業する人材を一定期間にまとめて選考して毎年4月1日に一括で採用するというやり方です。
そして新人研修で集団教育し、現場に配属して育成していくというスタイルが一般的です。
そのためインターンシップに始まり、選考、内定、入社、新人研修に費やすコストと労力は非常に大きなものとなっています。
良くも悪くも新卒採用が定期的な大きなイベントのように行われているといっても過言ではありません。
確かに、一度会社に入れば定年まで勤めあげるということを続けられるのであれば、それでも良いのかもしれません。
しかし、新卒採用者の3年以内離職率は3割を超えているというのも事実です。
新卒で採用された本人たちにとっても、前述のとおり有効求人倍率が高く次の仕事を探しやすければ退職することに躊躇しなくなるということも理解できます。
コストと労力をかけて人材を採用しても退職者が多ければまた採用に力を入れる(=コストをかける、労力をかける)ということに繋がり、一部では悪循環といってもよい状態が起こっています。
ここで少し考えてみましょう。
若手社員が早期退職をしてしまう原因は何なのでしょうか。
ある興味深い調査結果があります。
リクナビNEXTに「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」というものが掲載されています。
https://next.rikunabi.com/tenshokuknowhow/archives/4982/
堂々の1位は、「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」というものです。
しかもこれを約4人に1人が退職理由に挙げているのです。
『上司・経営者』とありますが、ある程度の規模の会社であれば経営者との距離は少し離れているため、実質的にはより身近に接する上司に限定して考えてもよいでしょうか。
また『仕事の仕方』にももちろん様々な意味が含まれますが、多くは部下に対する関わり方、つまり部下マネジメントのことといえるでしょう。
つまり、この調査結果からいえることは、上司と部下の関係が悪ければ、早期離職に繋がる可能性があるということです。
上司と部下の関係を良くする。
こう書くととてもシンプルですが、実際はとても難しいことです。
上司、いわゆる管理職の役割は時代とともに大きく変わってきています。
高度成長期からバブル期までの管理職は部下の管理をしておけばある程度の役割を果たせていたとも言えます。
しかし現在では管理職自身も手を動かし汗をかいて業務をこなすことが求められ、いわゆるプレイングマネージャーという存在であることの方が圧倒的に多くなっています。
プレイングが主な役割で、並行して少しだけマネジメントもやっているというような状況もあるように感じます。
管理職のマネジメントがうまく機能していないのは、実はマネジメントに手がまわっていない、自分の業務が忙しい状況で部下に対して具体的に何をすれば良いのかがわからないということも原因になっているのではないでしょうか。
この状況を改善するためには、マネジメント向上のための何らかの施策が必要です。
しかし、知識やスキルの習得にばかり注力してしまう研修や、実際の業務とはややかけ離れた内容の研修を実施されている企業もないとはいえず、うまくマネジメントの強化につながらないことに、悩まれている人事担当者もおられるようです。
管理職のマネジメント力を向上させる第一歩は、まず現状をしっかりと知ってもらうことが大切です。
部下が何を考えているのか、自分自身の仕事や意思決定の仕方、部下へのコミュニケーションのスタイルなどにどんな特徴があるのかを具体的に知ることが重要になります。
こういう場合にこそ、360度フィードバックを有効活用することができます。
360度フィードバックでは各企業の課題を反映した設問を設計し、回答をさせることで現在課題となっている状態を確認することができます。
管理職個々の状態はもちろんのこと、企業全体の傾向も浮き彫りになります。
弊社がお手伝いしている企業で、360度フィードバックの結果を管理職の方にお返しすると、「えっ、自分はそんなつもりでやっていたわけではないのに部下はそういうふうに受け止めていたんだ」「部下はそんなことをして欲しいと思っていたんだ」という意見をとても多く聞きます。
これまでも部下のことを思っていながら、忙しくて気づいていなかったことに驚くのです。
そして気づいたことを少しだけでも意識しながら部下マネジメントを行うと、部下は「なんだか最近上司が変わったような気がする」「自分のことを少し気にかけてくれるようになった」と感じるようになります。
もちろんこのように360度フィードバックの結果をお返しするだけでも管理職の気づきと行動改善に繋がりますが、フィードバック研修を行うと効果があがります。
マネジメント研修の中に組み込むことも効果的です。
360度フィードバックは、自己のマネジメントの課題を明確にすることができるため、フィードバック研修ではその課題に着目したプログラムを講じると効果的です。
また、日頃なかなか話す機会がない自分と同じ管理職と話すことで、自分の課題や悩みは決して特殊なものではなく他の管理職も同じように悩みながら部下と接しているんだ、ということを知ることができ、他の管理職の思いや考えを知ることで肩の力を抜いて部下に向き合うことができるようになります。
360度フィードバックを有効に活用することが管理職のマネジメント力向上に繋がり、それが人材の定着にも繋がっていくのではないでしょうか。
新卒採用はとても大事なことです。新しい人材を受け入れることで、新しい考え方の導入や現在の人・組織に良い刺激を与えることは必要です。
しかし採用した後、その人材を活かしきれていない、または退職につなげてしまっているのであれば、とてももったいない状態です。
働きやすい職場をつくることができれば、人材の定着と活性化につながり、組織としての成果も高まることは間違いありません。