◆「要因」による「行動」、そしてその「結果」
先日、元プロ野球選手であり元監督でもある星野仙一氏がまだ70歳という若さで惜しくも亡くなられました。
星野氏がドラゴンズの青年監督として選手を熱血指導していた姿、試合中の乱闘騒ぎでは監督自らが先頭をきって相手チームに向かっていった姿を、ある年齢層以上の方はよく覚えおられるのではないでしょうか。
ドラゴンズで2回、そしてタイガース、ゴールデンイーグルの監督も経験され、年齢とともに少し柔らかくなっていったように思いますが、やはりドラゴンズ監督時代の星野氏が強烈な印象とともに一番よく記憶に残っています。
星野氏の選手に対する指導方法はとても厳しいもので、時には鉄拳制裁さえも辞さなかったものの、本当は選手やコーチ、裏方にまで気を配り誰よりも心優しい指導者だったとも言われています。
熱くて優しい指導者としてとても人気のある方でした。
少し話は変わりますが、数年前、ある高校野球の監督がこんな発言をしたとマスコミに報じられ、驚いたことがあります。
「試合中に緊張して舞い上がっている選手を落ち着かせるために、頬を叩くことがある。」
確かに叩かれると我に返ることはあるかもしれません。
しかし、手を上げることでしか選手を落ち着かせる方法を知らないとしたら、とても残念なことのように思います。
最近、様々なスポーツにおいて暴力に関する問題が起こっています。
正確にいうと、昔から起こっていたものが最近は世間に出やすくなっているといった方が正確かもしれません。
残念ながら「スポーツで大事なものは根性だ」「指導者は甘やかすことなく厳しくしなければ選手が成長しない」などという風潮があることも確かで、指導の際に手を上げることもあったのではないかと思います。
それが時代の変化とともに、「手を上げることはおかしい」という当たり前の考え方ができるようになり、問題が顕在化するようになったと考えられます。
ではなぜ、選手を指導する際に厳しい言葉で叱責したり、時には手を上げてしまうといったことが起こるのでしょうか。
もちろん指導者は決して選手のことが憎くてやっているわけではないでしょう。
選手の技術や能力を向上させてあげたい、試合に勝たせてやりたいという思いが強すぎるが故に、そして自分が選手だったときに同じような指導を受け自分が鍛えられ成長したという思いがあるが故に、厳しい練習を課し、つい怒鳴ってしまったり厳しいことを言ったり、更には思わず手を上げてしまったりしているというのが実情ではないでしょうか。
ここで少し、人が「行動」するということについて考えてみます。
人が「行動」を起こすとき、当たり前のことですがその行動を起こさせる「要因」があります。
そして、行動することによって起こる「結果」へとつながっていきます。
この「要因」→「行動」→「結果」という流れで考察してみると、前述の指導者の行為は試合で勝たせるという「結果」を出すためには厳しい練習(「行動」)が必要であり、それを強いるために厳しい指導(「要因」)をしているといえます。
しかし、このことを冷静に考えてみると、すべての選手が自発的に「行動」をしているといえるでしょうか。
極端にいうと厳しい指導(「要因」)がなければ「行動」しないという状況に陥っている状態なのかもしれません
一般的に、人は強制されると一時的に行動を起こしますが、強制されなくなると行動しなくなります。
では、自発的に行動させるためには何をすれば良いのでしょうか。
行動分析学において「ABCモデル」というものがあります。
A:要因(Antecedent)
B:行動(Behavior)
C:結果(Consequence)
このABCモデルにおいて、自発的な「行動」に最も影響を与えるのは「要因」ではなく「結果」とされています。
「行動」を起こし、良い「結果」を得ると人は嬉しくなりもう1度その「行動」を起こそうと思うようになります。
例えば、誰かに「これ美味しいよ、ぜひ飲んでみてください」と勧められて、あるジュースを飲んだとします。
それが自分にとって「美味しくない」と感じたら、強制されない限りもう1度そのジュースを飲もうとはしません。
しかし、飲んでみて「これは美味しい」と感じたならば、勧められなくてももう1度そのジュースを飲もうと思うようになります。
人は「要因」よりもポジティブな「結果」によって自発的に「行動」することが多くなるとされています。
では、前述の指導者としてすべきことは何でしょうか。
それは選手にポジティブな「結果」を体験させる、与えることです。
ここでいう「結果」とは試合に勝つという大きなものである必要はありません。
練習をすることで良くなってきたこと、これまで出来なかったことが出来るようになったということを褒めるだけでも選手は嬉しく感じ、これまで以上に練習に熱が入るようになります。
練習を積むことで更に良い「結果」を得られる可能性が高まっていくのです。
これはスポーツに限らず、職場での部下マネジメントにも同じことがいえます。
管理職の皆さんは組織の成果(結果)をあげるために部下に仕事(行動)をさせなければなりません。
仕事をさせることに一生懸命になるあまり、「がんばれ」「結果を出せ」というようなことを言って部下を動かそうとしてしまいがちです。
たいていの部下は上司から言われるとその仕事に取り組まざるを得なくなります。
しかし、これは強制されるから「行動」しているのであって、自発的な「行動」ではありません。
部下が自ら動くようにするための方法はいくつかありますが、シンプルで且つ有効な方法として、部下の行動の結果を「褒める」というやり方をお勧めします。
弊社の提供する360度評価(360度フィードバックバック)を導入いただいた企業でも、個人別の結果を見ると「褒める」という行動をした管理職は、360度評価の結果自体も総じて良いという傾向があります。
部下に仕事を強制的にやらせるのではなく、結果を「褒める」ことで部下のやる気を引き出し、部下の管理職に対する信頼度まで向上させているという結果が多く見られます。
部下が自分のことを信頼してくれるということはとても大切です。
信頼できる相手だからこそ意見や相談ができ、信頼できる上司がいるからこそ仕事に対して前向きに取り組むようになるのです。
弊社は、360度評価(フィードバック)実施後の研修もあわせて行います。
その際にも「褒める」という行動のメリットをお話し、管理職の皆さんに「褒める」という行動をお勧めしています。
ただ、「褒めることはとても大事だということはよく分かります。しかし、何を褒めればいいのか、どうやって褒めればいいのかが分かりません」と言われることが本当に多くあります。
そういったときは次のように説明しています。
「褒める」というのはおだてることでもなければ、大げさに相手を持ち上げることでもありません。
もちろん褒め方にも様々なやり方があり、やみくもに褒めることは控えるべきです。
ただ、もし具体的にどうすれば良いか分からないという理由で部下を褒めることが出来ないのであれば、部下の良い行動に対して『いいね』『ありがとう』、良い考えや意見に対して『面白いね』『自分には思いつかなかったよ』というように感じたことをシンプルに口にすることからはじめてみてください。
それを聞いた部下は「褒められた」「上司は自分のことを見てくれているんだ」と感じ、とても嬉しい気持ちになります。
話を冒頭の星野仙一氏に戻します。
星野氏が亡くなったことを惜しむ声が本当に多く報道されています。
中には青年監督星野の鉄拳制裁を受けたとされる元選手でさえも感謝の言葉を述べています。
もちろん鉄拳制裁という選手に手を挙げる行為は絶対に肯定できません。
ただ、星野氏の死去をここまで惜しむ人がたくさんいるということは、選手たちの行動、そして結果を褒めたりフォローすることをとても大切にしていたからではないかと考えます。
もしかすると鉄拳制裁というマスコミ受けする言葉が独り歩きしてしまっただけで、星野氏は選手を褒めたり、フォローしたりすることで実力を発揮させていたのかもしれません。