◆360度フィードバックを継続しても、行動改善がない人にどう向き合うか?
「360度フィードバック(360度評価)は、継続的に実施するものなのでしょうか?」
初めて導入を検討される会社から質問を受けることが多くあります。
弊社が導入支援させていただいているほとんどの会社は、継続的・定期的に実施されています。
実施頻度としては毎年1回が多いです。
何故、継続して実施されるのでしょうか?
継続実施されている会社からはその理由として、
- 対象者へのヒヤリングやアンケートにおいて高い満足度や継続して欲しいとの要望が多い
- 定期的なマネジメントの見直し支援、また人材育成の仕組みとして定着させたい
- 1回で終わってしまうと中途半端(「結局あの実施は何だったのだろうか・・・」といった人事部に対する不信感も生まれてしまう)
といった声が聞かれます。
そして何よりも、継続実施を決められる大きな理由は、「現場で良い変化が生じているという事実(実感)」があるということが言えるでしょう。
360度フィードバックは「周囲からどう見えているのかをありのまま伝えること」によって対象者の感情を揺り動かすため、行動改善を促しやすい手法です。
一回実施して終わりではなく、2回、3回と継続的に実施を繰り返すことで、改善の進捗状況を自ら確認でき、またリマインドによって再度意識づけが行われるために一層効果が高まります。
もちろん、2回目、3回目の実施においては一層の工夫が必要です。
単に実施して結果を返すだけだと十分な効果は出ないどころか、マンネリ化してしまう恐れもあります。
さて、ここからは本コラムの冒頭タイトルのとおり、360度フィードバックを継続的に実施してもなかなか行動改善に移せない人に対し、人事部としてどう対応していくのかについて書いていきます。
前述のとおり継続的に実施することで、多くの対象者は行動を改善されます。
しかしその一方で、行動改善がほとんどみられない方も少なからずいらっしゃいます。
程度の差こそあれ、多くの会社でもこのような方がいらっしゃるのではないでしょうか?
そのまま放置しておくことは、組織そして会社としても大きなマイナスです。
その対象者の部下は、モチベーションも下がり本来の力を発揮できません。
それどころかメンタル不全や離職にもつながってしまう恐れもあります。
ここからは、ある企業の事例を紹介します。
A社は課長職約300名を対象に4年前から継続して年1回、360度フィードバックを実施しています。
初年度の実施において、部下からの回答結果が著しく低い方が15名いらっしゃいました。
フィードバック研修で自分の課題に気づかせた上で行動改善を促すプログラムを提供し、更に2年目、3年目と実施を繰り返すことで、上記15名のうち約半数の方は改善が見られてきました。
しかし、残り半数(7名)の方は4年経過してもあまり変化は見られませんでした。
それらの方に共通しているのは、部下の話を聞かない一方的な指示命令型マネジメントであるということです。
部下をほめない、尊重しない、時として感情的に振る舞うこともあり、組織の雰囲気は好ましい状態ではありません。
「360度フィードバックによって多くの対象者のマネジメント状況は、以前より良くなってきました。しかし、この7名は厳しい状況のまま変わっていません」「それらの対象者の行動を改善させるために、どうすればよいのでしょうか?」
A社人事部からの相談を受け、7名の方に対して個別面談を行うことにしました。
個別面談は、「外部専門家の客観的な立場から、現状を正しく認識させること(正しく気づかせること)」「行動改善を自主的に起こすように導くこと(アドバイスや動機づけ)」を狙いとしていますが、その際に弊社が大事に考えていることがあります。
「その方は、何故、部下のやる気を低下させるひどいマネジメント行動を取っているのか?」
一方的な指示命令型マネジメントや高圧的なマネジメントを取ってしまう原因は、「若かった時に上司から厳しく指導されたおかげで成長できたという自負」が背景にあることが一般的であり、指導は厳しくて当然という意識を持たれていることにあります。
また、「上司からほめられた経験がないため、ほめ方がわからないし、ほめるのも苦手」といったこともあるでしょう。
とはいえ、一般的な型にはめるような見方をしてしまうことには注意が必要です。
多くの面談を通じて感じることですが、マネジメントスタイルはその方個人の歴史の積み重ねで出来上がっていると言えます。
型にはめてしまうと、個々人の背景や心理的な原因を見過ごしてしまい、適切な解決策を見つけることができません。
面談の進め方についてはここには記しませんが、7人の方との面談を行う中でさまざまな発見がありました。
営業企画課長のBさんは、「初回の360度フィードバック結果によって、部下とのコミュニケーションに問題があることは理解できた。自分でも薄々わかっていたので、それを解消するために、自分の考えをもっと部下に理解してもらおうと、事あるごとに自分の考えを部下に対して熱く発信している。それなのに部下との距離は縮まらない。あれだけ喋っているのに、何故伝わらないのだ・・・」と悶々とされていることがわかりました。
Bさんは「コミュニケーション = 自ら伝えること」だと思い込んでおり、「相手の話を聞くこと」には考えが及んでいないようでした。
Bさんから一方的に口うるさく言われることに部下はうんざりしており、Bさんとの距離もどんどん離れてしまったのです。
Bさんの固定観念が、「“伝えること”と“聞くこと”を両立させる」という本来のコミュニケーションを阻んでいたのです。
また開発課長のCさんは、360度フィードバックの結果から「部下を褒めることが少なく、ダメな部分を指摘ばかりしている」といったことが現れている方でした。
面談の中で掘り下げていくと、Cさんが何故、上記の好ましくない行動を取っているのか、その原因が徐々にわかってきました。
Cさんは新任課長として張り切っていた頃、目を掛けていた部下がいました。Cさんはその部下の育成に熱心に取り組み、褒め、尊重するなどして動機づけ主体のマネジメントを行っていたようです。
しかしその部下は、自分の実力を勘違いして良くない方向に進んでしまい、Cさんを裏切るような行動などを取り始めたとのことでした。その部下に期待していただけに、Cさんは大きなショックを受けました。
それがきっかけで部下に対する関わり方が変わってきてしまったようです。「ほめること」は部下に変な自信をつけさせ、自分の実力を勘違いさせてしまった...。
そう考えたことが、現在の褒めないマネジメントにつながっているようでした。それほど多くはないですが、時々聞く話でもあります。
お二人ともに、ご自身の思い込みは強いものの、根幹には部下とうまくやっていきたいという思いは持たれていることがわかりました。
お二人に対する具体的なアドバイスやその後講じた施策については、ここには記しませんが、A社人事部からは、弊社が個別面談したことでお二人とも以前よりも少しではあるが行動改善が見えてきたという報告を受けています。
皆さんの会社には、360度フィードバックを継続実施しても、好ましくない状態のまま行動改善がみられない方はいらっしゃいませんか?
「また今回も、○○課長は好ましくない状況のままだな...」などとなかば諦めていらっしゃるようなことはないでしょうか?
360度フィードバックだけでは十分に把握できない個人の内面部分にアプローチした施策を講じることで、改善行動が進み始めることも少なくありません。
今回紹介したのは個人面談によるフォロー施策でしたが、360度フィードバックの実施効果を高めるために、さまざまな方法を考え実践しています。
管理職のマネジメント改善を本気で考えている企業にとって、本コラムの活用事例がヒントになればと願っています。