◆マネジメントに効果的な「ゴールデンサークル」
弊社は多くの企業様において360度フィードバック(360度評価)の結果を使った研修を行っています。
長時間拘束することなくできるだけ短時間で、マネジメント研修の実践的要素を織り込みながら、理想論ではなくマネジメントの現状(360度フィードバックの結果)を見える化して本人に示すことで気づきが多く行動改善に繋がりやすいため、たくさんの企業様からたいへん好評を得ています。
この研修に参加される管理職の皆様と話をしていると
「最近の若手は指示がないと動かない。」
「自分が若い頃はもっと自発的に仕事に取り組んでいた。」
「若手に対してどのように接すればいいか分からない。」
といったような発言を聞くことがたいへん多くあり、どの企業様においても管理職のマネジメントに関する悩みはある程度共通していると感じています。
少し極端な表現になってしまいますが、悩んでいる方はまだ良いのかもしれません。
というのも、自分自身が若かりし頃に受けてきたマネジメント、例えば厳しい指導や叱責を何の悪気もなく(更には良かれと思って)そのまま現在の部下にも行うと、若手社員などはパワハラのように感じてしまいメンタル不全に陥ったり早期離職に繋がってしまったりというケースもあるからです。
ここで突然ですが、「ゴールデンサークル」という理論をご存知でしょうか。
これは、マーケティングコンサルタントであるイギリス人のサイモン・シネック(Simon Sinek)が提唱している理論です。
サイモン・シネックはリーダーシップに関する著書も多く出しており、人が何かを思考する時には「Why→How→What」という3つの階層があると定義しています。
例えば同僚や部下といった自分の周りにいる人を動かすためには、いきなり具体的な施策(What)から取り組むのではなく、まず何のために行うのか(Why)、そして次にどのようなやり方をとると良いのか(How)を考え、そして最後に何をするのか(What)を本人に考えさせると効果的であるという理論です。
サイモン・シネックのゴールデンサークル理論を使って冒頭の状況を考察してみましょう。
多くの企業様に状況を伺っていると、管理職が部下マネジメントを行う際にWhyを割愛してしまっているように感じます。
その原因として例えば次のような2つの原因が考えられます。
まず、「WhyやHowは部下が自分で考えて業務に取り組まなければ成長しない」と考えている管理職がおられるということです。
そしてもう1つは、管理職がマネージャーというよりプレイングマネージャーであることが多く、プレイングに時間を取られてWhyやHowを教えることまで手がまわらない状況にあるということです。
管理職は、自分が管理する業務を素早くこなしていくために部下に対してシンプルに何をすべきか(What)を指示し遂行してもらわなければなりません。
しかし、部下(特に若手社員)はなぜそうしなければならないか(Why)、そしてどのようにすれば良いのか(How)が分からず困惑してしまうという状況に陥ることがあります。
こういったことが繰り返されることで若手はメンタル不全や早期離職に繋がるようなストレスを感じるようになります。
現在管理職になっている方々が若い頃はどうだったでしょうか。
おそらく、上記と変わらず上司から丁寧にWhyやHowに関する説明を受けることはなく、黙々とWhatに取り組まれていた方が多かったのではないでしょうか。
当時は疑問に思うこともなく業務をこなすことで成長できたと感じており、自らが管理職となった現在も同じように部下マネジメントを行っている方が多いと思います。
「自分はそういう環境で育ってきた。」
「部下にも同じようにすればいいはず。」
「なのになぜ最近の部下は自分の若い頃のように業務に取り組んでくれないのだろうか。」
このように考えることはないでしょうか。
過去、例えば高度成長期において、管理職から若手社員に対してWhyを説明する必要はありませんでした。
なぜならWhatを遂行することで賃金の上昇や年功にそった昇進が保証されていたためです。
会社で何をするか(What)、それは自分にとって間違いなくメリットがあったから(Why)です。
現在の若者を取り巻く状況は大きく変わっています。
成果主義の導入で安定した賃金上昇や昇進が約束されていません。
また、安泰といわれていた大手企業が経営難に陥ったり、経済のグローバル化で日本経済の先行きも不透明です。
ただWhatに取り組んでいるだけでは自分のWhyを満たすことが出来ない状況なのです。
現在の若者はやる気がないわけではなく、夢や希望を持つことが難しく漠然とした不安を抱えながら生きている人が多いというのが実情です。
現在管理職の地位にある方と若手では、置かれている(置かれていた)状況が異なるため考え方に大きな隔たりがあります。
まずは「違うんだ」ということを認識することが大切です。
そして、なぜこの仕事をしなければならないのか(Why)から入り、どのようなやり方があるのか(How)を示すことによって、若手社員は仕事(What)に取り組みやすくなります。
管理職と若手社員の考え方の違いに気づかせるために360度フィードバックを活用されている企業がたいへん多くあります。
360度フィードバックは一般的に選択式設問と自由記述式設問(フリーコメント)によって構成されます。
例えばフリーコメントとして、「何をしなければならないのかという指示は出ますが、なぜそれをしなければならないのか、どのように取り組めばいいのかが分からないためにうまく対応できず叱責されることがあります」というようなことを書かれる場合があります。
自分が良かれと思って行ったマネジメント行動が、実は若手社員にとってはストレスに感じるものだったということが分かることがあったり、若手社員が何を考えているのかどんなことを求めているのかを知ることができたりします。
まずそれらを把握した上で、部下に対してどのようにアプローチをしていけばよいかを考えることが大事です。
Whatだけ伝えれば良い部下、Whyは理解できているからHowを教えれば良い部下、そしてWhyを伝えることから始めないといけない部下、それを見極めるツールとして360度フィードバックは効果的です。
部下それぞれがWhy→How→Whatのどの階層にいるのかを見極め、この流れで部下マネジメントを行っていけば部下にとっても仕事がしやすく、そして上司である管理職に対する信頼度も上がることに繋がります。
それが職場の活性化、業務効率改善にも役立つことがあります。