◆“働き方改革”を阻む「社会的手抜き」について考える

労政時報(労務行政)から発行されている書籍『高業績チームはここが違う』を読んでみました。

この書籍は、平成27年度に日本心理学会で優秀論文賞を受賞されており、心理学的な観点を取り入れながら、実際の現場でのデータやインタビューを分析された納得感の高い内容となっています。

人事関係者にとっては既にご存じの内容も多いですが、大事なポイントがうまく整理されており、新しい発見などもある一読に値する書籍だと言えるでしょう。

この書籍の中で、以前から気になっていたキーワードに目が留まりました。

「社会的手抜き」という考え方です。

「リンゲルマン効果」「フリーライダー現象」「社会的怠惰」と呼ばれることもあり、一度は目にされたことがある方も多いかと思います。

「社会的手抜き」とは、集団で作業を行うと個人で作業する時よりも一人あたりの“生産性”が低下する現象と言われています。

端的に言えば、「組織の力は個人の力の総和より小さくなってしまう」ということです。

この考え方を初めて聞いた時は、大きな衝撃を受けたものです。

それまでは、「個人の力を1とした場合、2人になるとその力は2(1+1)よりも大きな値になる。更に組織になると、組織の力は個人の力の総和よりも大きくなる。これが組織の良いところだ!」と考えていましたし、子供(学生)の頃からそう教わってきた方も少なくないはずです。

しかし、多くの企業に対して組織強化のお手伝いをしていると、個人力の総和より組織力が弱くなっている状況を目にすることが多く、今では「社会的手抜き」にいたく共感しています。

確かにアイデア発想などにおいては、1人で考えているよりも2人または複数人で意見を出し合った方が優れたアイデアが出てくることはあるでしょう。

しかし、“生産性”という観点においては、多くの企業や組織で「社会的手抜き」が生じているのではないでしょうか?

今回、「社会的手抜き」に着目したのには、大きな理由があります。

「働き方改革」につながるテーマであるということです。

現在多くの企業が、「働き方改革」に取り組まれています。

「働き方改革」は“残業時間の削減”ということに注目が集まりやすいですが、その本質的な課題は「生産性の向上」であると言えます。

この「社会的手抜き」を掘り下げて考えることは、「働き方改革」「生産性の向上」におけるヒントになるのではないかと思ったのです。

さて、「社会的手抜き」を解消するためには、何故これが生じてしまうのかという原因を明らかにしておく必要があります。

論者によってさまざまな原因が語られていますが、ここでは主な4つのことを紹介します。

1)「業務分担」の問題

各々の作業において重複が多くあることで生じる無駄。

各々の作業の目指す方向が一致していないことで生じるブレ。

2)「当事者意識」の問題

集団の中で自分の役割が見えにくいために生じる貢献意識の低下。

自分がやらなくても、他の誰かがやってくれるだろうという当事者意識の希薄化。

3)「評価」の問題

自分だけがんばってもきちんと評価してくれないことで低下するやる気。

集団だと手抜きしてもばれないのではないかという怠惰な感情

4)「意識持続」の問題

集団に埋没することで自分への注目が薄れ、緊張感や集中力が徐々に低下。

上記1)〜4)は、上位者(管理職)に起因すること、本人に起因することが混在しており、誰に原因があると一概に決められる現象ではありません。

上記のことも踏まえ、「社会的手抜き」を減らし生産性の向上を図るには、どのようなことが必要でしょうか?

現場で働く社員が、どのような状態になればよいのでしょうか?

“自分の役割を認識し、当事者意識が高く前向きに業務遂行している状態”

当然かもしれませんが、各々の社員がこのような状態になれば、生産性は向上していくでしょう。

この状態をつくるためには、上司のマネジメントが欠かせません。

部下自身の努力のみで実現することは、極めて困難です。

  • 部下に明確な役割と目標を与え、その意義や重要性をきちんと説明して納得させること
  • 成果を公正に評価し、きちんと報いること
  • プロセスにも着目し、褒めるなどして動機づけること

一例ではありますが、これらの「マネジメント基本行動」は最低限必要でしょう。

しかし、「社会的手抜き」を減らし生産性を高めるには、更に【重要なこと】があるように感じています。

上記した「社会的手抜き」の4つ目の原因に関係することです。

それは、「程よい緊張感」

「周囲(上位者や同僚)に自分のことを見られている」「周囲が自分のことを見てくれている」と感じたことで、緊張感を覚えて真摯に仕事に取り組まれた経験を皆さんもお持ちではないでしょうか?

上司には「マネジメント基本行動」に加え、「程よい緊張感を与えるマネジメント」が求められていると思うのです。

「程よい緊張感を与えるマネジメント」の具体的な方法の1つとして、部下と接する機会を多く持つことが挙げられます。

上記のとおり、「見られている」「見てくれている」ことを部下に実感させるのです。

部下の様子を日々観察するだけでなく、部下と接する中で感じたことや気づいたことを伝えるというマネジメント行動です。

ここで大事なことは、接する頻度を多くするということです。

「見ているよ」といったメッセージを伝える回数が多い方が、部下の緊張感は高くなります。

例えば、「日々の声掛け」、そして「短期サイクルで1on1ミーティング(部下面談)を行うこと」も効果的な方法と言えるでしょう。

「程よい緊張感」を与えることで、部下の集中力は持続し「社会的手抜き」の軽減が図れます。

ここで大きな問題となるのは、「程よい緊張感」の“程よい”とはどんなレベルなのかということです。

緊張感が高すぎると部下は萎縮し生産性は低下します。

逆に、緊張感が低すぎるとぬるま湯的な雰囲気が組織内に蔓延し、「社会的手抜き」がより促進されてしまうでしょう。

更に問題であるのは、部下に対して「程よい緊張感」を与えることができているかどうかが、上司自身にわからないことです。

「上司が与えている緊張感」と「部下が感じる緊張感」には大きなギャップがあります。

特に、上司と部下の世代(年齢)差が大きいと、このギャップは顕著になる傾向があります。

上司と部下の意識ギャップ状態をどのようにして、上司本人に気づかせるのか?

このギャップを客観的に捉えることができる手法として360度フィードバック(360度評価)があります。

組織の生産性を高めるための部下マネジメントには、さまざまなやり方があるでしょう。

いずれのやり方にせよそれを活かすためには、部下との心理ギャップの状態(上司と部下の心理的な距離、目に見えにくい関係性)を正しく把握することが欠かせません。

360度フィードバックは、部下が感じていることを上司に伝えることができる手法でもあります。

「働き方改革」「生産性の向上」への取り組みの中で、360度フィードバックという手法の有効活用を考えてみませんか?

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