◆マネジメントにおける“真実の瞬間”

今年の夏休み、旅行や里帰りをした方も多いと思いますが「飛行機で旅行した」という話を聞く度にある新聞記事のことを思い出します。

ネットでも話題になったことがあるので、すでに読まれた方もいるかもしれませんが以下の記事です。

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 半世紀以上も連れ添った妻に先立たれた、横浜市の知人男性からこんな話を聞いた。

 男性は葬儀を終えた後、故郷である佐賀県唐津市の寺に納骨するため、羽田空港から空路、九州へと向かった。

 遺骨を機内に持ち込めることは知っていた。

 でも入れたバッグがかなり大きく、念のため搭乗手続きの際に中身を伝えた。

 機内に乗り込み、上の棚にバッグを入れて席に着くと、客室乗務員がやって来てこう言った。

 『隣の席を空けております。お連れ様はどちらですか?』

 搭乗手続きで言ったことが機内に伝わっていたのだ。

 男性が『ああ、上の棚です』と説明すると、乗務員はバッグごと下ろしてシートベルトを締めてくれた。

 飛行中には『お連れ様の分です』と飲み物も出してくれたという。

 『最後に2人でいい“旅行”ができた』と男性。

 その表情を見ていたら、こちらも温かい気持ちになった。(鎌田浩二)

 ※2017年7月13日付 西日本新聞 朝刊【デスク日記】より

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この記事を読んだ時、これはまさに「真実の瞬間」の出来事だと感じました。

皆さんは、この「真実の瞬間」という言葉をご存知ですか?

「真実の瞬間」は、英語では「Moment of Truth」というマーケティング用語で、「消費行動における重要な顧客接点」のことを意味します。

これはスカンジナビア航空のヤン・カールソン社長(当時)によって1990年に発刊された書籍『真実の瞬間』の中で書かれている経営革新における重要なキーワードです。

同社は、年間1,000万人の旅客が飛行機に乗り、その中で平均5人の乗務員に約15秒ずつ接する機会があることを明らかにし、その旅客と接する15秒間で、競合他社と異なるブランド体験を提供することができれば、他社と明確な差別化ができると判断しました。

顧客と接するこの15秒間を「真実の瞬間」とし、それまでの上意下達の組織風土を変えて、現場への権限委譲をすることで、顧客視点でのサービスを提供する経営方針へと大きく転換することに成功しました。

スカンジナビア航空の話は30年以上前のものではありますが、ヤン・カールソン社長が実行した数々の施策は現在でも全世界の航空会社や経営者の間で語り継がれているそうです。

この「真実の瞬間」は今では顧客満足度を高めるためのサービスマネジメントの考え方として浸透していますが、少し視点を変えれば、組織における人材マネジメントを考えるときのヒントになります。

つまり、従業員満足度を高めるための部下マネジメントにおいて「真実の瞬間」とは、上司と部下の重要な接点のことだといえます。

では、「上司と部下の重要な接点」とは、いったいどんな場面なのでしょうか?

ある企業で実施した「360度フィードバック」では、部下から上司に対して以下のようなコメントがありました。

 『私が仕事で大きなミスをして落ち込んでいたら、上司から声をかけてもらい
  解決策をいっしょになって考えてもらえた時はとても嬉しかった。 』

 『昨年から営業部門へ配属になり、慣れない新規顧客開拓に全力で取り組んでいましたが、
  まったく受注できなかったのでモチベーションが下がりとても苦しい状態でした。

  そんな時に、私がいま自主的に取り組んでいる職場環境改善のための地道な活動に対して、  上司から「ありがとう」「よくがんばっているね」と温かい言葉をかけてもらえました。

  まさかそんなところまで見ているとは思ってもいなかったので、とても嬉しい気持ちになり、  これからも頑張ろうと思いました。 』

これらのコメントからは、部下が困っている時に声をかける、注目されない仕事への取り組みに感謝する、そういった上司の行動が部下の意識や感情を高めていることが伝わってきます。

まさにこのような場面は上司と部下の重要な接点であり、「真実の瞬間」といえるのではないでしょうか。

マネジメントにおける「真実の瞬間」は、日常の職場の中に存在しています。

そして、そのような「真実の瞬間」における上司のちょっとした一言が与える影響は極めて大きいものです。

この一瞬、一瞬のマネジメント行動が、部下の仕事のパフォーマンスに大きく影響しているのです。

自組織のなかで「真実の瞬間」は、どんな場面で生じているのか?

「真実の瞬間」を見つけるためには、まずは部下の立場になって部下の仕事ぶりを見ることが大事です。

例えば、
「部下は今どんなことを考えながら仕事に取り組んでいるのだろうか」
「仕事の進捗は計画通りに進んでいるだろうか」
「協働者とのコミュニケーションで困っていることはないか」
「この仕事で部下はどんな成長を感じているだろうか」

その時の部下の気持ちを考えながら見てあげるのです。

そして上司はそれらをしっかり踏まえて、適切なマネジメントを行うことで部下のモチベーションは向上し、組織の業績は確実に高まっていくでしょう。

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