◆名選手が名監督になるためのヒント

プロ野球では、高橋由伸氏(巨人)と金本知憲氏(阪神)が監督を辞任することになりました。

2016年に両氏の監督就任が決まった時、野球解説者の野村克也氏(元プロ野球監督)がこんなことを話していました。

『最近の監督は、手腕ではなく、人気取りだけで選ばれているように思えてならない。

特に今回の人事は、スター選手を監督に据えれば観客も入るだろうという、安直な考えがどうしても透けて見えてくる。

スポーツの世界では「名選手が必ずしも名監督にはならない」と言われている。

私の経験から言わせてもらえば、スター選手はその才能からデータを必要とせず、細かいチームプレーとも関係なくやってきた者が多いため、いざ監督になったら緻密な野球ができない。

そればかりか、その必要性や重要性をまるで理解しようとしない。そのため有効な作戦が立てられないし、相手の作戦を読むこともできない。

そしてもう一つ致命的なことがある。スター選手は自分ができたことは、皆もできると思い込んでしまっている。

それを言葉に発してしまう。「なんでこんなこともできないんだ!」という言葉が、どれだけ選手を傷つけるか。

彼らは思ったことは何でもできてしまうから苦労を知らず、そのため普通の選手の気持ちや痛みがわからない。

自分のレベルで選手を見るためにうまく指導ができず、言葉より感覚を重視してしまいがちなのだ。

高橋や金本も、スター街道を歩んできた選手なので、先輩たちと同じ轍を踏んでしまわないだろうかと気になっている。』

“ 名選手、必ずしも名監督にあらず ”

この格言はスポーツの世界だけでなく、ビジネスの世界でも同じことが言えると思いますし、実際にそう感じている読者も相当数おられるでしょう。

プレーヤーとして高業績をあげてきた人が、優れた管理職になっているかというと、必ずしも ”そうではない” ということです。

若くして管理職になった(昇進が早い)人ほど部下のマネジメントがうまくできない傾向があるように思います。

とくに多いのは「部下に仕事を任せられない」ということです。

仕事をうまく任せられない人には、プレーヤー時代に華々しい活躍をしてきた人が多いという特徴があります。

プレーヤーとしてバリバリ実務をこなしてきた人は、たいていの仕事は自分でしてきたので、人に仕事を任せるということに慣れていないのかもしれません。

研修参加者(管理職)に「なぜ仕事を任せることができないのか」訊いてみました。

すると、最近の管理職には、これまでにはそれほど聞かれなかったキーワードが出てくることが特徴とも言えます。

それは『働き方改革に伴う業務時間の削減』や『効率性の追求』といったことです。

◆「自分でやった方が良い結果が出る」「任せたら失敗するのではないか」と思っている。

自分より経験が浅く知識やスキルも少ない部下に仕事を任せると、よい結果が出ないのではないかと心配しているのです。

自分の能力に自信がある優秀なプレーヤーだった人ほど「自分でやった方が効率的で早く終わるし、仕事のレベルも高く良い結果になる」という思いが強くなるようです。

優秀であるがゆえに部下が自分よりも劣っているように見えてしまい、「部下に任せていたら組織の成果は上がらない」と考えてしまうのです。

そして、働き方改革で部下の勤務時間に制限があるので、結局上司自らが残業してやってしまうのです。

◆「部下に嫌われたくない」と思っている。「部下に配慮しているつもり」になっている。

上司は任せたいと思っていても、部下の忙しい状況を見ると「苦労させたくない」「これ以上仕事を頼んだら部下は嫌がるだろう」と考えてしまうようです。

しかし、対象者の360度フィードバック結果を見ると、次のようなコメントが書かれていました。

『課長(上司)は仕事を抱え込まないで、もっと私たち(部下)に任せてください。

私たちはその仕事でもっと成長したいと思っています。

課長には、課長にしかできない全体設計やビジョン出しにもっと力を注いでいただきたいです。』

上司としては部下のことを気づかい、よかれと思ってやったのですが、じつは部下の受けとめ方は違っていたというケースがよくあります。

◆「部下のミスを回避して楽をしたい」と考えている。

部下に仕事を任せると教えるのに時間がかかり、部下が失敗した時には上司がフォローする必要があります。

また、自分が指示した内容とは違う結果になってしまうこともよくあり、上司がそのことを注意したら不機嫌になる部下もいるようです。

さらに、任せた仕事は上司としての責任が重くなるので、自分一人でやった方が作業的にも精神的にも楽であるということです。

一方で仕事をうまく任せている上司もいます。

そこで、「なぜ仕事をうまく任せることができているのか」訊いてみると次のような回答が多く聞かれました。

「仕事を任せて機会を与えないと部下は成長しないと思う」

「自分が若手の時そうしてもらったので、最初は大変でも成長することを思ってそうしている」

「うまく任せると、最終的には組織の成果につながることがわかった」

うまく任せている上司に共通しているのは、「業績の向上だけでなく、部下の成長も同時に実現することを考えた上で、部下を信頼して任せている」ということです。

そして部下は仕事を任されることで上司を信頼し、ますます意欲的に仕事に取り組んで、良い結果を出しているのだと思います。

とはいえ、部下に任せることに対してリスクを感じて躊躇する方も少なくないでしょう。

そんな時は、自分自身がまだ成長途中にあった若い頃のことを思い出してみましょう。

「自分はどんな時に成長したのか?」

「任された後、上司のどんな支援が嬉しかったのか?」

「任された仕事をやりきるために、上司に対してどんなことを期待していたのか?」

部下に任せることは勇気がいることです。

しかし、それを恐れて任せることなく、自分が仕事をやり続けるとどうなるでしょうか?

「任せること」は、部下の成長のみならず、上司自身の成長の機会でもあります。

部下に任せたつもりになっていないか? 部下の成長につながる任せ方になっているのか?

これを都度確認しながら、自分の任せ方を修正していくことが大事です。

その確認と修正(改善)のためには、部下の思いや考えを吸い上げる仕組み(360度フィードバック)を活用すると効果的です。

仕事をうまく任せることによって上司と部下の信頼関係ができ、それが部下の成長につながります。

そして部下が成長することによって、組織の高業績を実現することができるでしょう。

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