◆360度フィードバックの実施効果を高めるために

昨年観たテレビ番組の中で印象に残っているのが「集団左遷」というドラマです。

ネットでも話題になったのでご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このドラマは、大手銀行という組織の中で主人公(片岡支店長)が廃店になることが既に決まっている蒲田支店に人事異動で赴任するところから始まります。

最終的に片岡支店長は業績が低迷していた蒲田支店の組織目標を達成して、さらには銀行上層部の不正までも知ってしまったことから、それを内部告発するという反骨精神に溢れたストーリーでした。

ネットでの視聴者の投稿を見ると、「上意下達の組織で片岡支店長が上層部に対して間違っていることを正すよう進言する場面で、その勇気ある行動に感動しました」といったような感想が多くありました。

一方で、個人的に私が一番注目したのは、片岡支店長が蒲田支店に赴任してからメンバーを上手くまとめ上げていくプロセスでした。

赴任した当初は、メンバーとの信頼関係ができておらず思うようにマネジメントができない状況にありましたが、日々の仕事を通して部下とコミュニケーションを重ねるなかで徐々に信頼を得て、部下のやる気を引き出し、そして期末の最終日には蒲田支店の業績目標を見事に達成させるのです。

現実の世界ではドラマのように何もかも順調に進むことは少ないでしょう。

しかし、多くの企業のコンサルティングに関わって感じていることですが、ドラマと実際の職場を比べてみると共通している点もあります。

それは組織が目標達成するときには必ずその組織のメンバー一人一人がイキイキと働いているということです。

ドラマ「集団左遷」でも片岡支店長がメンバーへ上手く働きかけることによって彼ら/彼女らのやる気を引き出し、職場の雰囲気が明るくなっていきます。

実際にこのドラマの中で、片岡支店長のどのような行動が支店メンバー(部下)に対してよい影響を与えていたのか振り返ってみると、いくつかのシーンが思い出されます。

組織目標や方針について熱意を込めて語り、部下の意識を高めていた部下に対して、業績目標の達成を最後まで諦めないように働きかけていた立場の異なる関係者間の対立する意見や考えをうまく調整し、円滑にまとめていた自ら積極的に、部下に挨拶するなど声を掛けていた部下がお客様から融資を受注してきたら、いっしょになって喜んでいたトラブルや重大なミスが発生した時でも、逃げることなく、矢面に立って対応していた常に前向きな姿勢で仕事に取り組むことで、蒲田支店全体に良い刺激や影響を与えていた

片岡支店長の行動を言語化して並べてみて気づいたことですが、これらの行動(上記1〜7)は現実の企業にも当てはまるということです。

先日、コンサルティングで関わったクライアント企業(金融A社)の話ですが、A社では高業績をあげている支店長の職務行動を洗い出し、支店長に求められる行動基準(コンピテンシー)を作成しました。

そのときのコンピテンシーをあらためて見てみると、まさに片岡支店長の行動(上記1〜7)そのものでした。

実際にA社ではそのコンピテンシーをベースに人事制度を作って運用しています。

ただ、A社にとってなによりも大事なことは、そのコンピテンシーを支店長に実行させることです。

実行させるためには自分のこととして強く意識させる必要があり、そのために「360度フィードバックの仕組みを活用してみよう」ということになりました。

360度フィードバックという仕組みは、支店長のコンピテンシーをアンケートの設問(30問)に落とし込んで、それを上司、部下、同僚の複数人に匿名性で回答してもらうのです。

複数人の回答データを集計して本人へ返却することで、対象者自身が気づいていなかった「できている行動」「できていない行動」を認識させて、今後の行動改善につなげてもらうことを目的としています。

この認識を高めるために効果的なのが、個人結果を返却する「フィードバック研修」です。

特に360度フィードバックを初めて受けた人で、しかもプライドが高い管理職のみなさんに結果を「前向きに」受け止めてもらうためには、フィードバック研修という「特別な場」が重要になってきます。

実際にA社で実施したフィードバック研修では、今回の設問(コンピテンシー)がいかに大事であるか、さらには自組織にとってどのような意味があるのかを支店長にしっかり伝えることで理解してもらいました。

そして研修終了後の感想を聞くと、

『自分は行動しているつもりだったが部下には伝わっていなかったことがわかり、このままではマズイと思った』

『今まではできていなかったが、我々に求められている行動が理解できたので、やるべきことが明確になった』

など、様々な葛藤もあったようですが360度フィードバックの結果が大きな刺激になり、多くの支店長が行動改善につなげることができたようです。

その結果、組織の業績も少しずつですが上昇の兆しが出てきているそうです。

360度フィードバックが成功するかどうか、その成功要因の一つに「設問設計」があります。

今回ご紹介したA社のケースは、高業績をあげている支店長の具体的な行動をピックアップしてそれを360度フィードバックアンケートの設問に設定しました。

設問設計には手間がかかりますが、こうするからこそ対象者にとっても回答者にとっても納得感があり、そして結果をフィードバックされても「活用できる」設問になるのです。

360度フィードバック(360度評価)をこれから実施される企業様におきましては、このように設問設計を工夫することで実施効果を最大限に高めていただくことを願っています。

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