◆「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」(後編)

はじめに

本コラムでは、「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」という人事担当者からのご質問に対して、解決に向けて一緒にどのように考えたのかを記しています。

前編はこちらからご覧ください

■本当に解決すべきことは何か

最初に、人事担当者に、「回答者がコメントをあまり記入しない理由(仮説)」を考えていただきました。

以下が最終的にまとまったものです。

①反応が怖い、あとで誰が書いたのか追及されるかもしれない(犯人は誰だ)
②書いても対象者の行動が変わるように思えない。良くなるような気がしない
③そもそも対象者に無関心。興味がない
④書いても自分たち(回答者)の得にならない(時間を使って、パワーをかけて書いても報われない)

これらの理由から、回答者が「安心してコメントを書ける」、そして「コメントを書く価値や意味を感じる」状況でないと、コメントは書かれないということがわかります。

①〜③は多くの企業に共通する部分で、そのため、いろいろな対策を打っておられます。

以下はその一例です。

【趣旨説明を丁寧に】

実施前の説明会やフィードバック研修などで、実施の目的を丁寧に説明する。

【回答者が特定されにくい書き方の提示】

個人特徴の出にくい書き方の例示等。

【駆け込み寺の設置】

万が一、上司からの不適切な追及などがあった場合に、相談できる機関の設置とその広報(対象者への追及行動の抑止にもなる)を行う。

上記ももちろん大切なのですが、「④書いても自分たち(回答者)の得にならない」こそ、大きな意味があり、しっかりと手を打つべきであると考えます。

これまでのコンサルティング経験から、多くの企業では、360度フィードバックへの回答を求められた時など(場合によっては研修でのアドバイスシートへの記入なども)、④のように「これを書くことが、最終的には自分の嬉しさや自分の得につながる」などとは思えていないことがほとんどです。

逆に考えてみると、コメントを書くことが「自分にとっても役に立つこと、嬉しいこと」と感じさせる工夫ができれば、回答者の回答マインドもずいぶん変わるのではないかと思うのです。

■回答者にとっての嬉しさにつながるようにするには

このお客様では以下のようなコンセプトを打ち出し、それに沿った施策にしました。

<施策コンセプト>

「360度フィードバックは、対象者の成長を組織全体で支援するプログラム。対象者の成長によって組織風土がよくなり、ひいては組織メンバーの働きがいや働きやすさにつながる」

◆全社総会を利用して、社長・人事部長から上記を具体的に説明。会社の本気度を伝える

◆あわせて、回答開始の3か月前には、誰に対して回答するのか、どんな設問なのかを開示し、対象者の仕事ぶり(良いところも含めて)に注目しておくように依頼

◆どのように結果が対象者にフィードバックされるのか、報告書フォームを開示したり、書いた人が特定されないコメントの書き方のレクチャーを行い、安心感を高める

◆対象者は、フィードバック研修で結果が返却された後に、以下を行うことを約束とする

・職場に戻ってメンバーに、回答してくれたことのお礼と率直な感想を述べる

・結果をもとに、これからどのように成長していきたいかを表明する

■はたしてコメントは増えたのか、嬉しさにつながったのか

このお客様では、360度フィードバックの実施1か月後に、対象者のみならず、回答者にもアンケートを取りました。

(抜粋)

Q.今回の360度フィードバックの主旨を理解して回答できましたか

はい  75%

Q.コメントは率直に書けましたか

はい 83%

Q.対象者に何らかの変化は感じますか

はい 67%

Q.組織のコミュニケーション等に何らかの変化(の兆し)を感じますか

はい 63%

コメントは必須回答にしたこともあり、量は当然増えましたが、「率直に書けた」というアンケート結果が施策の成功を物語っています。

他にも自由記述の中には、

「普段はあまり意識しない上司の仕事ぶりをじっくり見ることで、その大変さや細やかさをあらためて知りました」

「(対象者が管理職の場合)回答することを通じて、この先訪れるであろう自分のキャリアを意識する」

など、対象者(管理職)の仕事や自身の今後に関心を強く持つコメントが多く見られたという点が大変有意義でした。

また、この実施1か月後のアンケートでは、「対象者のその後の変化」や「(対象者の変化による)部門内の変化」の設問についても、意図をもって設定しました。

「変化」を聞くという第一義とは別に、この設問への回答を通じて、回答者自身が「自分たちの回答やコメントが、対象者や組織のコミュニケーションの変化に役だったかな?」と考えたり実感する「機会」にしてほしいというものでした。

結果を見る限り、十分、その役割は果たせたのではないかと思っています。

■最後に:人事が理想論を語り、本質を突き詰める

私たちコンサルタントは、お客様の課題を解決するための考え方をご提示し、成功に向けてナビゲートしていく役割を持っていますが、お客様にも本気で向き合っていただくことがとても重要です。

今回は、この企業の取締役人事部長が、「人事が理想論を語らなくてどうする、人事が従業員のために道を整備しようとしなくてどうする」と力強くおっしゃり、この施策を弊社と二人三脚で進めてくださったことが鍵でもありました。

弊社にとっても大変考えさせられる、気づきの多い案件でした。

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