◆有効求人倍率上昇。人材採用にばかり追われてしまっていないでしょうか。

12月1日、厚生労働省から発表された2017年10月の有効求人倍率によると、上昇が継続し、ついに1.55倍となりバブル期の最高(1990年7月の1.46倍)を上回るどころか、高度成長期の1974年1月以来、43年9カ月ぶりの高水準となっています。

(参考)厚生労働省の報道発表

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000186006.html

いろいろな企業の人事ご担当者と話をすると、頭を悩ませておられることの1つにやはり人材採用があげられます。

どうすれば優秀な人材を一人でも多く採用することができるだろうかとお考えの企業がとても多くあります。

日本の人材採用は新卒一括採用を重視するという世界的にも特異な性質があります。

新たに大学や高校などを卒業する人材を一定期間にまとめて選考して毎年4月1日に一括で採用するというやり方です。

そして新人研修で集団教育し、現場に配属して育成していくというスタイルが一般的です。

そのためインターンシップに始まり、選考、内定、入社、新人研修に費やすコストと労力は非常に大きなものとなっています。

良くも悪くも新卒採用が定期的な大きなイベントのように行われているといっても過言ではありません。

確かに、一度会社に入れば定年まで勤めあげるということを続けられるのであれば、それでも良いのかもしれません。

しかし、新卒採用者の3年以内離職率は3割を超えているというのも事実です。

新卒で採用された本人たちにとっても、前述のとおり有効求人倍率が高く次の仕事を探しやすければ退職することに躊躇しなくなるということも理解できます。

コストと労力をかけて人材を採用しても退職者が多ければまた採用に力を入れる(=コストをかける、労力をかける)ということに繋がり、一部では悪循環といってもよい状態が起こっています。

ここで少し考えてみましょう。

若手社員が早期退職をしてしまう原因は何なのでしょうか。

ある興味深い調査結果があります。

リクナビNEXTに「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」というものが掲載されています。

https://next.rikunabi.com/tenshokuknowhow/archives/4982/

堂々の1位は、「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」というものです。

しかもこれを約4人に1人が退職理由に挙げているのです。

『上司・経営者』とありますが、ある程度の規模の会社であれば経営者との距離は少し離れているため、実質的にはより身近に接する上司に限定して考えてもよいでしょうか。

また『仕事の仕方』にももちろん様々な意味が含まれますが、多くは部下に対する関わり方、つまり部下マネジメントのことといえるでしょう。

つまり、この調査結果からいえることは、上司と部下の関係が悪ければ、早期離職に繋がる可能性があるということです。

上司と部下の関係を良くする。

こう書くととてもシンプルですが、実際はとても難しいことです。

上司、いわゆる管理職の役割は時代とともに大きく変わってきています。

高度成長期からバブル期までの管理職は部下の管理をしておけばある程度の役割を果たせていたとも言えます。

しかし現在では管理職自身も手を動かし汗をかいて業務をこなすことが求められ、いわゆるプレイングマネージャーという存在であることの方が圧倒的に多くなっています。

プレイングが主な役割で、並行して少しだけマネジメントもやっているというような状況もあるように感じます。

管理職のマネジメントがうまく機能していないのは、実はマネジメントに手がまわっていない、自分の業務が忙しい状況で部下に対して具体的に何をすれば良いのかがわからないということも原因になっているのではないでしょうか。

この状況を改善するためには、マネジメント向上のための何らかの施策が必要です。

しかし、知識やスキルの習得にばかり注力してしまう研修や、実際の業務とはややかけ離れた内容の研修を実施されている企業もないとはいえず、うまくマネジメントの強化につながらないことに、悩まれている人事担当者もおられるようです。

管理職のマネジメント力を向上させる第一歩は、まず現状をしっかりと知ってもらうことが大切です。

部下が何を考えているのか、自分自身の仕事や意思決定の仕方、部下へのコミュニケーションのスタイルなどにどんな特徴があるのかを具体的に知ることが重要になります。

こういう場合にこそ、360度フィードバックを有効活用することができます。

360度フィードバックでは各企業の課題を反映した設問を設計し、回答をさせることで現在課題となっている状態を確認することができます。

管理職個々の状態はもちろんのこと、企業全体の傾向も浮き彫りになります。

弊社がお手伝いしている企業で、360度フィードバックの結果を管理職の方にお返しすると、「えっ、自分はそんなつもりでやっていたわけではないのに部下はそういうふうに受け止めていたんだ」「部下はそんなことをして欲しいと思っていたんだ」という意見をとても多く聞きます。

これまでも部下のことを思っていながら、忙しくて気づいていなかったことに驚くのです。

そして気づいたことを少しだけでも意識しながら部下マネジメントを行うと、部下は「なんだか最近上司が変わったような気がする」「自分のことを少し気にかけてくれるようになった」と感じるようになります。

もちろんこのように360度フィードバックの結果をお返しするだけでも管理職の気づきと行動改善に繋がりますが、フィードバック研修を行うと効果があがります。

マネジメント研修の中に組み込むことも効果的です。

360度フィードバックは、自己のマネジメントの課題を明確にすることができるため、フィードバック研修ではその課題に着目したプログラムを講じると効果的です。

また、日頃なかなか話す機会がない自分と同じ管理職と話すことで、自分の課題や悩みは決して特殊なものではなく他の管理職も同じように悩みながら部下と接しているんだ、ということを知ることができ、他の管理職の思いや考えを知ることで肩の力を抜いて部下に向き合うことができるようになります。

360度フィードバックを有効に活用することが管理職のマネジメント力向上に繋がり、それが人材の定着にも繋がっていくのではないでしょうか。

新卒採用はとても大事なことです。新しい人材を受け入れることで、新しい考え方の導入や現在の人・組織に良い刺激を与えることは必要です。

しかし採用した後、その人材を活かしきれていない、または退職につなげてしまっているのであれば、とてももったいない状態です。

働きやすい職場をつくることができれば、人材の定着と活性化につながり、組織としての成果も高まることは間違いありません。

◆ダメな人ほど自己評価が高い? 〜ダンニング・クルーガー効果について考える〜

「ダンニング・クルーガー効果」という聞きなれない言葉。

皆さん、ご存知でしょうか?

簡単に言えば、「能力の低い人ほど自信にあふれ、本物の実力を持つ人ほど自らの能力に疑いを持つ」という心理的エラーのことです。

ダンニング・クルーガー効果は、「高齢者の自動車運転に対する自信」などで説明されることも多いです。

http://www.msadri.jp/research/docs/%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E9%81%8B

%E8%BB%A2%E4%BA%8B%E6%95%85%EF%BC%88HP%E7%94%A8%EF%BC%89.pdf

これは、MS&AD基礎研究所が実施した「自動車運転と事故」をテーマとするアンケート調査(2017年2月)です。

「自分の運転に自信がある」と回答した率は、

  • 20〜29歳は49.3%
  • 30〜59歳は40.0%
  • 60〜64歳は38.0%

でした。

では、80歳以上は何%だったと思いますか?

何と、皆さんの想像をはるかに超えるのではないかと思われる72.0%が「運転に自信あり」と回答しているのです。 

最近の高齢者による自動車運転事故の多さを考えると、とても恐ろしい結果であると言えます。

これまでの運転経験の長さや「自分は人並みにはできているだろう」といった思いが、そのような回答結果になってしまうのでしょう。


しかし、この「ダンニング・クルーガー効果」による心理的エラーは他人ごとではありません。

このコラムを読んでいる皆さんの近くでも同様のことが生じているかもしれません。

例えば、無記名のアンケート(※注)によって、次の質問を管理職の方に投げかけた場合、どのような回答があるでしょうか?

「あなたの部下マネジメントは、人並みにできていると思いますか?」

おそらく、「人並みにはできている」と回答される方が多いのではないでしょうか?

特に管理職の経験年数が長い方ほど、そのような回答をされると思われます。

口には出さないものの、内心は「一定レベルの自信」を持たれていることが想像されるためです。

このダンニング・クルーガー効果は、ダンニング氏とクルーガー氏が提唱した心理的エラーですが、彼らはさまざまな調査から能力の低い人ほど以下の特徴があることがわかったとしています。

  • 自分の能力が不足していることを認識できない
  • 自分の不十分の程度を認識できない
  • 他者の能力を正確に推定できない

本人は「能力が不足していて困った」という実感がないのです。

特に、大きな会社にいると自分一人の能力が低かったとしても、組織全体でカバーできることも多いため、なおさら自分の問題に対する意識(自覚)が希薄なのです。

同じ組織にこのような方がいたら、あなたはどのように感じますか?

あなたの直属の部下にいたら、どのように感じますか?

そして何より、

あなたが人事部の方であれば、この状況をどうされますか?

人事部として、この状況は放置できないでしょう。

特に、該当する方が若手社員ではなく管理職であった場合は、組織として大きな問題です。

このような方が管理職であった場合、ポテンシャルを持った部下が活かされず、つぶされてしまうこともあるでしょう。

中長期的には組織の弱体化につながり、組織としての成果も低下してしまうことが容易に想像されます。

ところで、何故このような状況が起きてしまうのでしょうか?

自分の外の世界に対する関心、そして自分の能力に対する危機意識が薄いことが原因の一つであると言えます。

「他人が普通にできていることは、自分も普通にできる」

こう思ってしまうのがダンニング・クルーガー効果です。

自分本位の思考であり、狭い領域でしか物事を見ることができなくなってしまうのです。

ではどうすれば、このダンニング・クルーガー効果から逃れる(影響を受けなくする)ことができるのでしょうか?

当然ではありますが、「自分を客観視させること」です。

しかし、「自分は出来ていない」ということを認識させることは難しいことです。

特に、ダンニング・クルーガー効果に陥っている人は、まさか自分が出来ていない状況であるとは思ってもいない上に、妙な自信を持っているので、上司がそのことを指摘したとしても素直に認めることはできないでしょう。

そこで、360度フィードバック(360度評価)という手法が活用できます。

その人をよく知る職場での複数名による回答(指摘)は上司一人の意見よりも納得感は高いため、本人は「自分はもしかして、十分に出来ていないのではないか…」といったことを感じさせる(意識させる)ことができます。

ただ、360度フィードバックの実施結果を伝えるだけでは、十分とは言えません。

「私はそう思われているのか…」

多少なりとも気づきを与えることができたとしても、行動が変わることまでは期待できないでしょう。

そのため、結果を本人に伝えるだけではなく、伝えるのと同じタイミングで「しっかりと内省させる機会」を設定することが重要となってきます。

その中で、

「そもそも自分に求められる能力とはどんなことなのか?」

「どのくらい発揮していることが人並みなのか?」

などにも気づかせることが必要であり、意識や行動を変えるためのさまざまな仕掛け(支援)によって、より効果は高まるでしょう。

本コラムで取り上げた「ダンニング・クルーガー効果」。

皆さんの会社の中にも、多少なりともそのような傾向を持っている方はいらっしゃるのではないでしょうか?

放置しておくと本人のためにも“もったいない状態”であり、組織にとって好ましいことではありません。

自分のことを客観的に見つめさせ、改善を支援する機会を設けてあげることが人事部にとって大事なことだと考えます。

(※注)

余談ですが、以前、360度評価において自己評価と他者評価の相関に関する研究が行われ、「自己評価と他者評価の相関関係は無い」と発表されていました。

つまり、「自己評価が高い人には他者から認められている人、そうでない人の両方が混在している」ということです。

この研究結果は、一見、ダンニング・クルーガー効果と矛盾するように感じられます。

しかし、これは調査の前提条件が異なることから生じていると考えられます。

360度評価における自己評価は回答者が特定されるアンケート形式でもあるため、本音ではある程度自信を持っていたとしても、他者の目が気になり意図的に控えめに低く回答しているでしょう。

一方で、前述の「高齢者の運転に対する自信に関する調査」は無記名アンケートであり、本音をそのまま回答できるものであると言えます。

回答における前提条件が異なるため、単純な比較はできないでしょう。

◆360度フィードバック(360度評価)のフリーコメントから考えるべきこと

管理職を対象とした360度フィードバックを実施し、結果を本人にお渡しすると、次のような声を聞くことがあります。

「結果を見ると『いつも気軽に相談にのってくれて感謝しています』というコメント、そしてそれとはまったく逆に『もっと相談にのってほしい』というコメントもある。

自分は部下の面倒見の良い上司だと自負している。それなのに、どうして後者のようなコメントが書かれるのでしょうか。

私は、自信をもって部下のマネジメントを行っているのに、『もっと部下の相談にのること』を改善点としなければならないのでしょうか?」

弊社は、360度フィードバックにおいて、選択式設問の他に自由記述式設問(フリーコメント)を設けることを強くお勧めしています。

選択式設問の回答結果によって、それぞれの行動が周囲の人にどう見えているかを数値として確認することはできるのですが、それだけではなぜその数値になったのか原因・理由まではよく分からないことがあります。

フリーコメントはそれを補完してくれるというメリットがあります(もちろん、フリーコメントのメリットはそれだけではありません)。

フリーコメントを読むと、「なるほど、自分の言動が周囲の人にそのように受け止められているから、こういう数値になるのだな」といったことに気づくことができます。

ただ、ここで冒頭にあるような悩ましい状況になることがあります。

なぜこのように全く逆のコメントが書かれるのでしょうか。

こういった場合、管理職本人はできていると思っていても、部下の思いや考えを理解できておらず、部下それぞれの期待に応えられていないことが想定されます。

例えば、新入社員のように知識や経験の少ない部下に対しては「日頃から気を配り、困っていると感じた時にすぐ話を聞いて相談にのる必要がある」と考えており、一方でベテラン社員に対しては「仕事を任せ、あえて口を挟まなくても困った時は部下自ら相談に来るはずだから、その際にしっかりと話をすれば良い」と考えている可能性があります。

管理職からするとどちらもちゃんと相談にのっていると認識しているのです。

しかし、部下自身の受け止め方が管理職の思いとは異なっていることがあります。

管理職自身は良かれと思ってやっていることが、実は部下にしてみるとそうではなく、残念ながらそのことに管理職が気づけていないということです。

部下の思いや考えを知るためにはどうすれば良いでしょうか。

最初にしなければならないのは、部下一人ひとりをよく観察することです。

「新入社員だから」「ベテラン社員だから」といった先入観を持つことなく、部下それぞれの状態を把握しておかなければなりません。

ただ、部下を知るためにはただ黙って観察するだけでは分からない部分も多くあります。

更に深く部下を理解するためには、あたりまえのことですが部下と直接話をしなければなりません。

こういうと、多くの方が「部下と個人面談などを頻繁に行って、もっと話をするように気をつけます」というようなことを言われます。

もちろん個人面談ができるのであればぜひ定期的に時間をとって部下一人ひとりと向き合って話をするべきです。

ただ、管理職の皆さんは日々業務に忙しく「部下としっかり話をしないといけない。面談をしないといけないな。」と思いつつも、なかなか時間が作れないという状況になることの方が多いのではないでしょうか。

そういった場合は、面談にこだわらず部下に気軽に声をかけるといったことだけでも実施してみてください。

簡単な挨拶でも、気軽な立ち話でもよく、話す内容もいきなり仕事のことではなく簡単な雑談でも充分です。

上司から気軽に声をかけられることで、部下は「ちょっと自分の意見を言ってみようか」「(仕事上の)悩んでいることを話してみようか」という気持ちになります。

このようにちょっとしたきっかけで自分の悩みや考えを気軽に伝えてくれるようになります。

そしてその話を聞いて、状況に応じた指導やアドバイスを行うことが大切です。

冒頭の事例に話を戻します。

この管理職は、確かに「もっと部下の相談にのる」必要があります。

しかし、部下全員が常に相談にのってほしいと考えているというわけではなく、相談したい内容、相談したいタイミングは部下によって異なるはずです。

大切なことは、「自分が望ましいと考えている部下への接し方が、実は部下の望んでいるものと異なっているかもしれないと考えることです。

そのためには部下をよく観察する、気軽に声をかけるなどして、その時の部下の気持ちを確認し、『相談に乗るべきタイミングはいつなのか』、『どのように相談に乗れば良いか』などを部下の気持ちになって判断する」ことです。こういう行動をすることによって、部下は「相談にのってくれている」と感じるようになるのです。

この事例のように、管理職自身が良かれと思って行動をしていても、部下が何を求めているのかが分かっていなければ管理職の行動はもったいないものになってしまいます。

部下が何を考え、どんな状態にいるのかを把握することがマネジメントの第一歩です。

日常の部下マネジメントでは気づくことが難しい、部下一人ひとりの意見や考え、部下によって思っていることが異なるということが、360度フィードバックのフリーコメントから浮き彫りになることがあります。

360度フィードバックは、上司・同僚・部下(特に部下)の意見や考えを把握するために非常に有効なツールです。

◆「ノーレイティング」と「360度フィードバック(360度評価)」


人事担当者の皆さまは、最近
「ノーレイティング」という言葉を耳にされているのではありませんか。

または、GEやグーグル、ゴールドマンサックスなどの外資系企業が「これまでの人事評価をやめた」といった記事をご覧になったことがあるのではないでしょうか?

「ノーレイティング」とはいったいどのようなことなのでしょうか。

“日本の人事部”の人事辞典では、以下のように解説されています。

年度単位の業績に応じて社員をS、A、B、C、Dなどとランク付けする年次評価(レイティング)を廃止すること。

また、そのような人事評価の新しい動きを意味する言葉です。

年次評価は従来の目標管理・評価制度の根幹を成すものですが、パフォーマンスの向上につながっていないなどの理由から、近年、こうしたランク付けの廃止に踏み切る企業が欧米を中心に増えてきました。

「ノーレイティング」の広がりは、従来の目標管理・評価プロセスそのものの行き詰まりを背景に、それを突破するパフォーマンスマネジメント変革のグローバルトレンドとして認知されつつあります。

上記の外資系企業で導入されたのを皮切りに、先駆的な取り組みに関心の高い日本企業でも少なからず導入を検討されているようです。

いろいろなところで言われていますのでご存知の方も少なくないと思いますが、誤解をされておられる方も多いようですのでご説明しますと、

「レイティング」とは、期末の評価によって社員をランク付けすることであり、「ノーレイティング」になったからといって、「評価を行わなくてよい」ということにはならないのです。

期末にまとめて(または一度だけ)部下の評価を行うのではなく、日々の業務において気づいたことはリアルタイムに部下にフィードバックすることで、部下のパフォーマンスを向上させるしくみです。

従来の評価制度では、期中のパフォーマンスが好ましくない状態であっても、それを評価するのは期末であり、本人に伝えるのは評価結果のフィードバック面談になってしまいます。

しかし、これでは、パフォーマンス改善のタイミングが遅れてしまうために、組織力向上にとって好ましいとは言えません。

(注:従来の評価制度、例えば目標管理であっても、期末にしかフィードバックできないというわけではありません。期中の気づいた時に部下に対してアドバイスを送ることも可能ですし、そちらの方が本質的な運用なのですが、実際は期末にまとめてフィードバックするやり方をされているケースが多いです)

そのため、経営者や経営的視点をもった人事責任者の間では、興味深いテーマとして関心が寄せられているのです。

先日訪問した人事担当者からは、「社長から『ウチの会社にノーレイティングを導入できないのか』と急に投げかけられて困っているんですよ」というお話もお聞きしました。

ノーレイティングの人と組織のパフォーマンスを最大化するそもそもの目的をしっかりと果たそうとすると、

  • 成果や短中期の成長につながる課題を重要度高く選ぶこと(重要性)
  • できるだけ見続けて、情報を集めて、評価をすること(日常性)
  • 集めた情報をフィードバックし有益な対話の時間を持つこと(納得性)

が重要になってきます。

さて、みなさんの会社では、すぐにノーレイティングを導入できそうでしょうか?

ノーレイティングを正しく導入・運用して、人と組織のパフォーマンスを最大化し、業績向上に寄与させられそうでしょうか?

一部の企業の方を除いては、現段階ではなかなかイメージしづらい…というのが正直なところだと思います。

とはいえ、ノーレイティングの背景にある考え方は、人材育成や組織力強化(特に「OJT強化」)にとってとても重要なことです。

導入検討の有無にかかわらず全ての企業にとって理解しておいた方がよいことと思います。

そこで本コラムでは、ノーレイティング導入の是非についてではなく、360度フィードバックという手法を活用した「ノーレイティングへの移行準備の考え方」についてお伝えしたいと思います。

【360度フィードバックを活用した「ノーレイティングへの移行準備」の考え方】

まずは、「ノーレイティングを機能させるための管理職のあるべき行動(つまりノーレイティングが実現した状態)」を設問することで大切な行動を意識させます。

例えば先述したこのような内容について、自社での職場課題を踏まえた“職場で取るべき具体的な行動”として設問にしていきます。

  • 成果や短中期の成長につながる課題を重要度高く選ぶこと(重要性)
  • できるだけ見続けて、情報を集めて、評価をすること(日常性)
  • 集めた情報をフィードバックし有益な対話の時間を持つこと(納得性)

→ここから具体的な行動として設問へ

作成した設問によって、360度フィードバックを実施します。

そのことで自社の管理職の「理想のノーレイティング行動」とただいま現在の行動との差異がわかります。

もちろん、最初は差異があっても構いません。

管理職本人が、「ノーレイティングのための行動とは何か」「自分はそのためには何が足りないか」を知ることが大切だからです。

その上で、「理想のノーレイティング行動」への強化策を検討することとなります。

この場合、管理職個人に委ねる部分と、会社として研修などの打ち手が必要になる部分の両方が考えられます。

また、この取り組みの中で、ノーレイティングという考え方自体、時期尚早という判断になるかもしれません。

360度フィードバックは、定点観測的に継続実施することで、「ノーレイティング」で求められる理想の部下マネジメントの状態(部下の仕事ぶりを良く見て、リアルタイムにフィードバックすること)に近づいていきます。


いかがでしょうか。

ノーレイティングに限らず、360度フィードバックは「伝えたいメッセージを明確に伝え、施策を定着させる手法である」ことを知っていただきたくご紹介させていただきました。

ご関心をお持ちいただければ幸いです。

◆360度フィードバック(360度評価)導入への反対意見

『部下から上司へフィードバックするなんて無理だ。

 うちの会社の風土には合わないから360度フィードバックの導入は難しいのではないか?』

現場からこんな意見が出て、もしあなたが人事担当者ならどのように対処しますか?

先日あるクライアント企業で360度フィードバックの導入が決まり、実施に向けて人事担当者と準備を進めてきました。

その企業では、全管理職を対象にマネジメント力強化(人材育成)のために360度フィードバックを実施することになっていました。

ところが、いざ実施する段階になって対象者である管理職から「実施に対する反対意見」が次々と出てきたのです。

このような状況は多くの企業で見られ、次のような反対意見が特徴的な例です。

『360度フィードバックは “個人的な好き嫌い” によって評価されるので、
 部下に厳しいマネジメントスタイルをとる上司は低い結果になってしまう。

 そのため、上司は部下に対して厳しい指導ができなくなってしまうのではないか?』

『自分のことは周囲からどのように見られているか大体わかっている。

 だから私は360度フィードバックを受ける必要はない。』

『キャリアが長い管理職は仕事のやり方が固まってしまっているので、今さらフィードバックされても遅い。

 管理職ではなく若手社員に実施するべきだ。』

『そもそも経験も知識も少ない部下が上司を評価するなんて無茶だ。

 そのような評価結果に納得できるわけがない。』

360度フィードバックへの反対意見は、対象者である管理職クラスから出ることが多いようです。

クライアント企業の事前の社員向け説明会に参加させてもらうことがありますが、そこでは一般社員からは反対意見が出てくることは少なく、どちらかというと360度フィードバックの実施に肯定的で歓迎するような意見が出てきます。

ではなぜ、対象者である管理職からは反対意見が出るのでしょうか?

それは、管理職になると会社の中では職務権限が強い立場にあり、上司から業務指示は受けたとしても日々の職務行動について他人から指摘を受けることはほとんどなくなるからです。

若手時代には上司や先輩から直接指導を受けますが、ある程度キャリアを積んでからは誰からもフィードバックを受けずに過ごしてきています。

それが、このような360度フィードバックの導入によって上司や同僚だけでなく自分の部下からもアドバイスされるとなると、その結果によっては管理職としての権威が落ちてしまうように感じたり、自分自身のプライドが傷ついたりすることもあるでしょう。

管理職としては、できれば避けて通りたいというのが本心だと思います。

それぞれの反対意見に対し、その場で個別に説明したとしてもなかなか納得してもらえません。

反対している人の多くは「他人からフィードバックされたくない」というネガティブな気持ちに何らかの理由をつけて反対しているだけなので、根本的な解決は難しく、対症療法にしかならないでしょう。

それでは、360度フィードバックを導入する側としては反対意見に対してどのように対処するのが望ましいのでしょうか?

360度フィードバックを実施するケースだけではありませんが、人事が新しい施策を導入する際には各所から必ず反対意見が出てくるものです。

また、反対意見の中には360度フィードバックを正しく理解していないことが起因していることもあります。

このような反対意見に対処することは、人事部門にとって非常に労力を要するものです。

とはいえ、対象者からの反対意見は真摯に受け止めて、丁寧に対処することが重要です。

そのためには、反対意見を出している人の真意を把握し効果的なメッセージで回答することが望ましいといえます。

できれば、関係者全員で共有できるような広報メッセージとして発信するのが効果的な方法の1つです。

実際に、冒頭の反対意見があった企業では以下のような回答(FAQ)を全社広報の掲示板で共有されました。

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(Q)『部下から上司へフィードバックするなんて無理だ。

    うちの会社の風土には合わないから360度フィードバックの導入は難しいのではないか?』

(A)360度フィードバックは、普段伝えることができていなかった感謝や期待、要望を自由に発言できる仕組みでもあります。これをきっかけに、職場の対話を促進して風通しのよい職場の雰囲気をつくりだしたいと考えています。

実際に、組織内のコミュニケーションが活発になったという企業の事例も多くあります。

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また、以下の反対意見に対しては、次のように回答されていました。

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(Q)『360度フィードバックは “個人的な好き嫌い” によって評価されるので、
    部下に厳しいマネジメントスタイルをとる上司
は低い結果になってしまう。

    そのため、上司は部下に対して厳しい指導ができなくなってしまうのではないか?』

(A)「部下に厳しいマネジメント」と一言でいっても、例えば「感情にまかせて厳しく怒鳴っている」こと、更には「部下のことを思って真剣に指導している」ことなどもあります。

360度フィードバックによって、現在の上司のマネジメントが上記のどちらの状態として部下に伝わっているのかわかります。前者であれば改善が必要ですし、後者であればそのままでも全く問題ありません。

よって、ご懸念されるような問題は生じないどころか、後者の状態を促進するための手法でもあります。*******************************************************************************************

(※ここでは記載しませんが、その他の反対意見に対しても各企業の状況をふまえて適切な回答例をご用意しています。)

もともと人間には変化することを嫌う習性があるそうです。

ある意味、360度フィードバックに反対することは人間としてごく自然な反応ともいえます。

しかし、弊社が360度フィードバックの導入を支援した企業では、実施後に上記のような反対意見が出ることはまずありません。

それだけ対象者本人にとって有益な情報だということが実感できるからだと思います。

実際に360度フィードバックを受けた管理職からは、

『部下からのフィードバックは意外とうれしかった。』

『360度フィードバックのことを勘違いしていた。こんなにも自分のためになるものだと思っていなかった。』

など、前向きな感想が多く聞かれます。

実施する前には必ず反対意見は出ますが、360度フィードバックの効力を信じて、まずは一度やってみることが肝心です。

「管理職の強化」「組織の活性化」など企業が360度フィードバックを実施する目的はさまざまですが、実施した企業は確実に高い効果を出しています。

 ただし、成功させるためには、企画からフィードバックまで多くの工夫や配慮をして進めることが必要になります。

組織を良くするために本気で取り組んでいらっしゃる人事担当者にとって、今回紹介した事例が人事施策を成功させるためのヒントになればと願っています。

◆“期中の上司・部下面談”の効果を高めるために

以前、ある会社の人事部長から、「中間面談を“部下の育成を支援するフィードバックの場”としてしっかりと機能させたい」といった相談を受けました。

この会社は目標管理制度を導入しており、期の中間時点で、「目標の進捗確認と部下育成を目的とした中間面談」を行われていました。

皆さんの会社も、同様の制度を導入されていらっしゃるのではないでしょうか?

ところで最近、“期中に部下と面談し、その中で適切なフィードバックを行うことで部下の成長を支援しよう”という気運が高まっているように感じます。

例えば、話題の「1on1」ミーティングもその1つでしょう。

その人事部長も、それらに刺激を受けられたのかもしれません。

しかしこの会社において、面談と言えば「評価結果の返却や目標設定を行う期初面談」のイメージが強く、「期中の面談」は中途半端な状況になっており、実施率も低くなっていました。

面談を行う上司からは「期中面談は、何を話したらよいのかわからない」といった悩みの声も聞かれていました。

そこで人事部長が考えたのが、「360度フィードバック(360度評価)」の活用です。(※以下、「360度FB」と表記します)

部下(一般社員)に360度FBを実施し、部下の個人結果を面談のアドバイス資料として活用することで、部下と対話が苦手な上司でも部下の育成につながる面談を行えるのではないかと考えられたようです。

人事部長の考えた施策手順は以下のようなものでした。

1.一般社員(新入社員を除く若手クラスから管理職手前のリーダークラスまで)に対して360度FBを実施する

2.実施結果(個人報告書)を対象者の上司に送付する

3.上司である管理職は自分の部下の報告書内容をしっかりと確認し、部下の課題を把握する

4.「中間面談」において、その報告書を共有しながら部下の育成課題を伝え(フィードバック)し、今後の取り組みについて対話する

「360度FBの結果を活用して、部下との面談を実のあるものにする」

これはアリだと思いました。

部下との面談が必ずしもうまく機能していないという状況はこの会社に限ったことではありません。

上司の面談スキルには大きな差があり、

「部下とどんな会話をすればよいのか?」

「どんなことを伝える(フィードバックする)ことが部下の成長につながるのか?」

など、面談をどのように進めればよいのか困ってしまう上司も少なくないという声を多くの会社から聞きます。

しかし私はこの話を聞きながら、とても素晴らしい施策であるものの何かが足らないように感じました。

この会社に、上記の手順で360度FBを導入しても、「中間面談」は期待通りには機能せず、現場にうまく定着しないのではないか…。

私が足りないと感じたもの。

それは、「フィードバックに対する有用感(役に立つという実感)」です。

この会社では、面談において“部下育成を目的としたフィードバックを行う”といった認識はありません。

このような風土の中で過ごしてきた上司自身も“フィードバック(成長のために有益なアドバイスなど)”を受けて育ったという意識はなく、“フィードバック”ということに対してポジティブな感情を持てていません。

そのため、「中間面談の中で部下育成のためのフィードバックを!」と打ち出したとしても、「また人事部が面倒なことを始めた…」くらいにしか思わないのではないでしょうか?

大事なことは、上司自身が、「このフィードバックは部下の役に必ず立つのだ」という熱意や自信をもって取り組むことであると言えます。

上司がそのような熱意や自信を持つためにも、上司自身が「フィードバックを受けることは有意義なことである」と実感し、この施策に納得することが重要になってくるのです。

つまり、手元に有効な資料があったとしても、有用感(役に立つという実感)をしっかりと持っていなければ、面談を効率的に進めることはできても、部下を動機づけ、成長に向けた行動を促すことは難しいと言えるでしょう。

意見交換を重ね、この施策は以下のように展開することになりました。

1.360度FBは一般社員のみを対象とするのではなく、全での管理職に対しても実施する

2.実施後、まずは管理職に対して「360度FBの結果返却(フィードバック)研修」を実施する

※「結果返却(フィードバック)研修」の主な内容

1)結果を前向きに受け止めさせる工夫を講じながら管理職自身の個人結果を返却し、行動改善につなげるために有効な情報やヒントなども提供することで、フィードバックを受けることのメリットを実感させる

2)その上で、部下との中間面談の進め方、その中で部下の360度FB結果を活用した育成支援の方法などを解説する

その後は当初案の通り、「上司へ部下の360度FBの結果を送付」→「事前に部下の結果を確認して課題を把握」→「各職場で中間面談を実行」といった流れとしました。

「結果返却(フィードバック)研修」を受講した管理職からは、研修内容に対して極めて高い評価を得ました。

その中で、特に印象に残ったのは、フィードバックされる立場、つまり「中間面談」における部下の心理状態が理解できたという感想でした。

「個人結果をフィードバックされることは正直怖かった。される直前にはかなり緊張した」

「何を、どんな順番でフィードバックされる(伝えられる)のかによって受け止め方が違ってくると感じた」

「もっと若いときに、自分の育成課題に関するフィードバックを受けたかった」


「結果返却(フィードバック)研修」が終わってしばらく経った後、中間面談が実施されました。

中間面談では、部下の360度FBの結果を活用し、上司から育成アドバイス(フィードバック)が行われました。

そして面談実施後は、面談を受けた部下からいろいろな感想が聞かれました。

「良くない部分だけでなく、良い部分にも着目してくれたことで意欲が高まりました」

「上司が自分の成長のことを思ってくれているという熱意を感じました」

人事部長は、「管理職の部下に対する育成意識が高まってきた」と満足そうでした。

上司(管理職)になると、他者からフィードバックを受ける機会は少なくなってきます。

それだけに、「フィードバック」が育成につながるという実感を持てなくなります。

そして、フィードバックされる部下の気持ちに対する理解も薄くなってしまいがちです。

上司自身がフィードバックされることの効力や嬉しさを実感していると、面談における熱量も高まってくるでしょう。

フィードバックされる部下の視点に立って、効果の高い面談を進めるためにも、管理職はフィードバックの効力を体感すべきではないでしょうか?

その1つとして、「管理職に対する360度FBの実施」と「結果返却(フィードバック)研修」は有効な手法と言えるでしょう。

フィードバックし合う風土がつくられることで、組織はより強くなります。

現在運用されている“期中の上司・部下面談”の効果を高めるためにも、「360度FB」をうまく使いこなし、強い組織の実現を目指していただきたいと願っています。

◆スポーツから学ぶマネジメントの基本 〜嫌われる勇気〜

以前、ある企業にお伺いして360度フィードバック(360度評価)の結果をご本人に返却する研修において、「管理職は嫌われることこそが仕事だ」ということを口にされた方がおられました。

その時は時間がなく、このフレーズについて深くお聞きすることができなかったのですが、とても印象的であったことを記憶しています。

嫌われたい管理職がいるのだろうか、嫌われてでも管理職には業務推進や結果を出すことを求められているのだろうか、いやこのフレーズを表面的に捉えるのではなくもっと深い意味が込められているのではないだろうか。

そんなことを考えてしまいました。

管理職の方からよくお聞きするのは、「自分が若い頃はもっと厳しく指導されていたが、最近の若手に同じように接すると若手は耐えられなくなってしまう。」というような内容です。

そして、「どう指導すれば良いのだろうか」と悩まれる方もいれば、「いや、嫌われてでも厳しく指導すれば、いつかきっと分かってくれるはず」と考える方もおられます。

確かに、管理職の方から見ると最近の若手は少し甘いように感じてしまうのかもしれません。

ただ、理解しておくべきは若手を取り巻く環境が過去とは比較にならないほど変わっているという現実です。

ネットを通じてありとあらゆる情報を瞬時に得ることができる現代において、若手社員は様々なことを知っており、また何に対してもすぐに答えを求めてしまいがちです。

ある意味では、最近の若手は視野が広く、多くの選択肢を持っており、また一人ひとり違う考えを持っているといえ、そんな彼らに古い考え方を押し付けたり、彼らを古い尺度ではかろうとしたりすることは少々無理があるというのも事実です。

360度フィードバックにおいて、部下が上司の行動に対して感じていることを回答したフリーコメントを分析していくと、業種・業界・規模を問わず多くの企業で、若手社員の声として共通するキーワードが浮かび上がってきます。

それは決して「上司が厳しすぎる」や「上司にはもっと優しくしてほしい」というようなことではありません。

部下が求めているのは、「もっと話を聞いてほしい」や「もっと自分のことを分かってほしい」というとてもシンプルなことなのです。

2017年4月27日に「嫌われる勇気」というタイトルで発行されたスポーツ情報誌「Number」(文芸春秋)の中に、ラグビー前日本代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ氏のインタビュー記事が掲載されていました。

とても共感する部分がありましたので少し引用させていただきます(下記の太字部分が引用。ただし、原文がインタビュー記事であるため、一部表現を変え分かりやすくしています)。

「自分がコーチやスタッフから信頼されていると実感できたとき、初めて真のハードワークに取り組める。」

人には承認欲求というものがあります。

他人から認められたいという感情であり、最近の若手は特に強く求めている傾向があります。

不安定な時代だからこそ、まずは自分の存在を認めて欲しいと感じています。

ただ、ここでいう「認めてほしい」とは、決して自分の考え方や行動が正しいと認めてほしいことを期待しているのではなく、まずは自分の考えや行動にもある一定の理解を示してほしいというものです。

ある一定の理解を感じることで、「なんだ、もっと自分の意見を言ってもいいんだ」「そうか、もう少しやってみよう」という前向きな姿勢が生まれてきます。

「ハードワークを誤解しているコーチは、選手全員を同じように指導している。」

公平・平等に指導するということももちろん大事なことです。

しかし、部下によって知識や経験、考え方、更には指導を求める頻度も異なります。

上司が良かれと思って実施している指導が、部下によっては重荷になっていることもあります。

部下それぞれに応じた指導をしない上司は、部下全員に同じレベルの成果を求めることで、部下をつぶしてしまうこともあるということを知っておいていただきたいと思います。

「個々の選手に『枠』を与え、この枠の中では自由にやっていい、と伝える。」

部下に仕事を任せることが不安で、管理職自ら細かいことまでやってしまっているという話を聞くことが多くあります。

確かに、知識や経験の少ない部下に任せると、時間が多くかかってしまったり、間違った方向に進んでしまい軌道修正することに労力を取られてしまったり、ということがあります。 

ただ、部下は仕事を任せなければ経験を積むことができません。方向性(枠)を示しながら、仕事を任せることが管理職に求められています。

「選手から好かれる必要などないのです。嫌われても全く構いません。ただし、選手から『敬意』を持たれていないとすれば、それは指導者失格です。」

このコメントは非常に深い意味を含んでいると考えます。

「嫌われても全く構わない」とは少し極端な例えではないでしょうか。

例えば部下に対して、厳しい指導をすると嫌われてしまうかもしれません。

ただ、厳しい指導だけでなく、承認欲求を満たしたり、仕事を任せフォローしたりすることで、部下からの信頼感が生まれてくるのではないでしょうか。

この信頼感こそが敬意であると考えます。

最近の若手は確かにこれまでとは異なり、指導することが難しいのかもしれません。

一人ひとり異なった考えを持ち、それぞれに応じた指導が求められる時代になっています。

ただ、部下個人個人の思いや考えていることが分かれば、アプローチはシンプルで良いというのも事実です。

しかし、上司として部下にどのように接しているのか、そして接した結果として部下はどんなことを感じたり何を考えたりしているのかをきちんと把握することは簡単ではありません。

管理職である上司に、自分が部下にどう見られているのかを理解させマネジメント力を向上させるための手法として、360度フィードバックを活用される事例が増えてきています。

そういった意味では、360度フィードバックは、「上司と部下の関係を良くする(強化する)仕組み」といっても過言ではありません。

◆続:知ってますか? 「フィードバック」の本当の意味

最近、「フィードバック」という言葉が人材開発領域のみならず一般的に使われるようになってきました。

フィードバックに関する書籍が増えていたり、シンクタンクやメディアが実施する人材育成実態調査等の調査項目に「上司から部下へのフィードバックの有無」が追加されたりなど、多くの場面で「フィードバック」という言葉を目にすることが増えています。

このフィードバックを真正面から取り上げた「フィードバック入門(PHP研究所)」において、著者である東京大学の中原淳先生は、

「フィードバックとは『耳の痛い情報を伝えて部下と職場を立て直す技術』」

と定義されています。

より高い成長を求められたり、自分自身もっと成長したいと考える中で、

「難易度の高いストレッチの仕事に向かうようになると、その困難度やハードルの高さゆえに、取り組んでいる本人には、何がうまくいって、何がうまくいかなかったかが見えなくなってしまう(それに取り組んでいるとき、すなわち渦中にいるときは特に)」

「ついつい自分のしてきたことや結果から目を背けてなかったことにしてしまったり、環境や他人のせいにしがちになる(失敗した経験に向き合うことは非常に難しい)」

という状況にどうしてもなりやすいところを、「耳の痛い情報を伝える」ことで自身の状態に気づかせるのが「フィードバック」であるという考えです。

私はその一方で、フィードバックは「耳の痛い」情報だけでなく、「良い情報(良いこと)」を伝えることも大事であると強く感じています。

以前にこのコラム(*)でフィードバックの語源について触れていますが、

「フィードバック」の「フィード」とは「feed」であり、これは“food”を語源とする“食べ物”、“栄養”を意味し、

「フィードバック」とは、本来、部下にとって成長のこやし(栄養)になるものを与えること

というものです。

成長のこやし(栄養)になるものということであれば、「耳の痛いこと」に限らず、「良いこと」を伝えるという行為も同じぐらい大切だと私は思うのです。

(*)知っていますか? 「フィードバックの本当の意味」

一般的に「良いこと」を伝えるフィードバックには2つの種類があると言われています。

①感謝

最もシンプルな例は「ありがとう」です。「見ていますよ」「あなたがいてくれてよかった」という承認的な意味合いもあります。

「自分のことを見てもらえていない、気にかけてもらえていない」と思っている方も意外に多くいるので、とても効果があります。

②ほめる

「こんなところができていてとても良かった」「こんなことを期待していたが応えている」というものです。

結果だけでなく、プロセスや姿勢もその対象です(むしろプロセスや姿勢の方が大切です)。

“自分はこれで良かったんだ”という安心感につながり、その後の行動に勢いやエネルギーが出ます。

以前360度フィードバック(360度評価)を実施された企業の集合研修において、ご自身の報告書に記されたフリーコメントの記述を見つめながら、なんと涙を流しておられる管理職の方がおられました(仮にAさんとします)。

相当ショックを受けられたのかな?大丈夫か?と思い声をかけてみると、予想外の言葉が返ってきて驚きました。

「自分がやってきたことが間違っていなかったんだとわかりました。本当に報われました。必ずやもっとパワーアップします!」

Aさんは今の組織にマネジャーとして異動してきました。

年上の部下に囲まれ、部下の方が経験が多いという状況の中、自分には何ができるのかを考え、模索しました。

部下の経験や考えを聞く機会を多く創り情報収集する、お客さまのところに同行し顧客の生の要望を聞く、さらには夜遅くまで残って知識習得に励むなどです。

このように努力は重ねてきましたが、なかなか目に見える成果につながらず、3か月たっても部下たちの反応も今一つつかめずという状況で、毎日不安で苦しい時を過ごしていたそうです。

そんな時に360度フィードバックのフリーコメントで目にしたのは、

「いつも声をかけてもらえて、そして話を聞いてもらえてありがたいです。」

「Aさんの頑張りぶりは素直にすごいと思います。これからも我々をリードしてください」

「自分から情報を取りに来て、さらに得たいろいろな情報を使いやすい状態にして部下に伝えてくれる上司ははじめてです。自分より年下だけど信頼できると思いました。今後ともよろしくお願いします」

といった言葉でした。

部下たちが、360度フィードバックの機会を使って、面と向かっては口にできなかった感謝の気持ちなどを書いてくれたようです。

そしてAさんは「自分もこれでやっとこの組織のマネジャーとして認められたな」と感極まり、涙してしまったようです。

ちなみに、このAさんの360度フィードバック結果の得点自体はそれほど高いものではありませんでした。

また、フリーコメントの「課題に思うこと・今後期待したいこと」という欄には、良いことの倍ぐらいのコメントが割と厳しい調子で並んでいました。

しかしAさんは、上述の良いことのフィードバックも受け気持ちを前向きに転換できたことで、これらの“耳の痛いフィードバック”も素直に自分の課題として認識し、行動を変えていくための決意ができたと言います。

また、厳しいことを伝えてくれる部下たちに感謝の気持ちさえ持てたそうです。

このような例を間近で拝見すると、

「耳の痛いこと」だけでなく「良いこと」もフィードバックすることで、本人のやる気を引き出し、行動を変えることにつなげる

という弊社がご提供するサービスの意義を再認識することができます。

時々、360度フィードバックに感じる懸念点として、「対象者がショックを受け、やる気をなくしてしまうのではないか」ということをお聞きしますが、上述のように「良いことにも着目する」、「励ましのアドバイス」を書き込めるようにするなど、フィードバックする内容を工夫することで、対象者を前向きな気持ちにさせ、やる気を引き出すことが可能なのです。

ぜひこの機会に、360度フィードバック実施の意義や得られるであろう効果についてお考えいただければ幸いです。

◆360度フィードバック(360度評価)の実施効果を高めるために

先日、テレビ番組で宇宙飛行士の若田光一さんの特集がありました。

その番組の中で若田さんが子供達に宇宙飛行士の仕事を紹介して、最後に子供達からの質問に答えるというコーナーがあり、ある子供が質問しました。

『流れ星をみたときに願いごとを言ったら夢が叶うというのは本当ですか?』

おもしろい質問だったので、いったいどんな回答があるのか興味を持って観ていると、

『流れ星が見える時間はとても短いですよね。

その短い時間にきちんとお願い事を言えるのは、その人がいつもその希望を叶えたいと強く願っている証拠 なんですよ。

“すぐに言葉にできる”ということは、いつも目標を意識して一生懸命努力しているという事なのです。

だから流れ星に願い事を言ったら夢は叶うのですよ。』

といったように、若田さんは、とてもわかりやすく説明されていました。

この話を聞いたときに、以前360度フィードバックを実施された企業のある管理職のことを思い出しました。

弊社のクライアント企業であるA社様では、毎年1回、管理職全員を対象に360度フィードバックを実施して、集合研修で結果を返却しています。

研修前に対象者個々の結果を分析すると、前回(1年前)と比較して圧倒的に結果が向上している対象者(Bさん)がいました。

前回は厳しい結果であっただけに、この1年間の向上度は際立ったものがありました。

そこで、360度フィードバックの効果を高めるヒントを得るために、研修終了後、Bさんにインタビューをさせてもらいました。

最初にBさんが見せてくれたのは、使い古された1冊の手帳でした。そこには1年前の研修で立案した「3つの行動目標」と日々のセルフチェックの記録(○×)がビッシリと書き込まれていたのです。

Bさんに「この1年間で行動改善できた原因」について質問すると、

『私は前回の結果を返却された時に、自分のダメな状況に気がつき、とても反省しました。

この1年間、実際には行動できなかった日もたくさんありましたが、毎日行動目標を振り返ることで常にそれを意識していました。

今では無意識に行動できるまで習慣化しています。

その行動の結果が周囲から認められたのだと思います。』

つまり、Bさんはこの1年間いつも「行動目標」を意識して一生懸命努力され、その結果、自分がなりたい姿(理想の管理職)に近づくことができたということです。

ここまで真摯に徹底して取り組まれる方はそれほど多くはないかもしれませんが、このことは、まさに、宇宙飛行士の若田さんが話した『流れ星へのお願い』にも共通する大事なことであると思います。

一般的な研修では多くの受講者は、研修が終わって日常業務に戻ると、研修で学んだことはいつの間にか忘れてしまう傾向があります。

しかし、360度フィードバックを活用した研修は、研修の中で受講者本人の仕事に対する取組み状況を明らかにすることから当事者意識が高まり、一般的な研修と比べ意識や行動改善の実践を継続しやすいという特徴があります。

とはいえ、限界もあります。

研修の効果を持続させるためには、先に紹介したBさんの研修後の取り組みは大きなヒントになります。

ところで弊社では、フィードバック研修後の実施効果を高めるために、さまざまな観点からの調査や分析を行っています。

先日、クライアント企業様 数社に依頼して「研修後の受講者の実態調査」をさせていただきました。

インタビュー取材とアンケート調査でわかったことは、研修終了の1〜3か月後に受講者の約3割がフィードバック研修の中で設定したアクションプランをきちんと継続的に実行され、約5割がアクションプランの一部のみを実行されていました。

しかしながら、約2割はあまり実行されていませんでした。

「実行できた人」と「実行できなかった人」の違いは何が原因なのかを探るために、「実行できた人たち」の状況を更に詳しく調べてみたところ、アクションプランを継続的に実行するための工夫をされていることがわかりました。

特に効果的な方法だと感じたものが3つありました。

1)職場メンバーと共有する

 職場メンバー(回答者)に対して、360度フィードバックを受け取った感想と今後どのように行動するか(行動目標)を発表し、対象者本人の状況を職場全体で共有しています。

これによって、職場メンバーは対象者本人の行動改善を意識するようになり、対象者のことを積極的に支援しようという気持ちになっていくようです。

2)上司を活用する

 日々のマネジメント行動の実践状況について、定期的に上司へ報告し、その都度上司からアドバイスを受けて行動改善に繋げています。

3)行動目標を“見える化”する

 フィードバック研修で考えた行動目標を“見える化”して、そしてその行動目標に対して日々自己評価(振り返り)を行っています。

意識するための方法として「デスクマットに挟み込んで仕事中でも見えるようにしている」、「アクションプランを手帳に書き込んでいる」などがありました。

以上紹介した3つの取り組みは、いずれも「行動目標を忘れないよう常に意識できる状態にしている」ことが共通しており、そのことで職場での継続的な実践に繋がっていると考えられます。

これらを踏まえて、弊社ではフィードバック研修後の実行を支援するための仕組み(※システムを活用した運用しやすいシンプルな仕組み)を提供しています。

具体的には、一定期間後に受講者とその上司へ「アクションプランを思い出させ、アクションを継続化させるようなコンテンツ」をメール送信します。

そのことで、受講者にアクションプランをセルフチェックさせたり、また上司との対話(面談など)のきっかけとしてもらったりします。

多くの企業では、研修実施後のフォロー(実践状況の確認・支援)までは行き届いていない状況だと思います。

しかし、企業が研修を実施する目的は受講者が研修で学んだことを活かして仕事の成果をあげてもらうことです。

成果をあげるためには職場での行動実践が必要になります。

そのためには、研修後の受講者の取り組みを様々な方法でフォローすることが重要です。

人材育成を本気で考えている企業様にとって、今回紹介した事例が360度フィードバックの実施効果を高めるためのヒントになればと願っています。

◆長時間労働を改善するために忘れてはならないこと

長時間労働については、これまでもいろいろな形で話題になることがありましたが、最近、とても悲しいニュースとともに、非常にクローズアップされています。

これまで一般的に人事・労務に関するものとして考えられてきましたが、今では経営に関する重要な課題として扱われるようになっているといっても過言ではありません。

日本の1人あたりの年間総労働時間は他の先進国と比較すると多く、また、年間休暇取得日数は少ないというデータがあります。

日本では過去、長時間労働することや休みを取らないで労働することが、評価されるべきものである、更には美徳であるとういうような風潮が残念ながら存在したことも事実です。

しかし、ここ数年、労働者のメンタルヘルスの大切さや、労働時間短縮が実は業務効率アップにつながるというようなことも議論されるようになり、長時間労働改善の取り組みが少なからず行われるようになってきました。

例えば、ワーク・ライフ・バランスという言葉が一般的なものになり、ノー残業デーの設定や朝方勤務制度の導入に取り組む企業が少しずつ増えてきています。

更に、新たな動きとして、国、経団連が中心となって、消費活動を促すことを目的として、毎月末の金曜日は15時に退社するという「プレミアムフライデー」が実施されるようになりました。

国が主導しなければ労働環境が改善されないというのはいかにも日本らしい動きではありますが、手段はどうあれ長時間労働を改善する取り組みが進むこと自体は、とても良いことです。

ただ、ここで敢えて言及したいことがあります。

それは、「時間」ばかりに焦点をあてて議論されていないかということです。

 もちろん労働「時間」を短縮することはとても大切なことです。

しかし、「時間」を重視しすぎるあまり、例えば、上司(管理職)が部下に対して単純に労働時間の短縮のみを強要する、更には短縮した時間の中でこれまでと同様もしくはそれ以上の成果を求める、というようなことになってしまうと労働者の負担は減少するどころか、逆に大きなストレスを与えてしまうことになります。

部下の立場になって考えてみましょう。

上司(管理職)から早く帰宅すること、休暇を多く取得することを勧められたとします。

これ自体はもちろん歓迎すべきことです。

ただ、その一方で、「そうは言っても、やるべき仕事は山積していて、早く帰れないし休みなんて取れない」、「短時間で成果を上げろと言われても無茶だ」と心の中で呟いている部下もいるのではないでしょうか。

前述のとおり、労働時間を短縮することはとても良いことです。

しかし、「時間」だけを短縮するのではなく、部下がなぜ長時間労働を行わなければならない状況になっているのか、その原因を把握し、それを解消するために何をすれば良いのかを考え、実行することこそ上司(管理職)の役割ではないでしょうか。

もし部下の業務効率が悪いのであれば、取り組むべき業務の優先順位を明確にし、仕事の“質を高める”ための支援を行うということです。

一方で、もうひとつとても大切なことがあります。

それは、長時間労働を行っている部下の気持ちを理解できているかということです。

長時間労働を改善するために、「効率良く仕事を進めろ」「とにかく早く退社しろ」と一方的に言うだけの管理職はいないでしょうか。

こういったことを言われた部下は、どのような気持ちになるでしょうか。

「私の仕事の内容を理解した上で発言しているのか?」

「私のがんばりを認めた上で、効率化しろと指示してほしい」

「私が早く退社することで滞ってしまう仕事を、上司としてどう支援してくれるのか?」

部下が長時間労働から解放されたいのはもちろんですが、それだけではなく、部下は上司(管理職)に自分のことを気にかけてほしい、分かってほしいという思いがあることも忘れてはいけません。

やや乱暴な例えになってしまいますが、部下は上司(管理職)が自分のことを見ていてくれる、励ましたり労ったりしてもらえるというようなことがあれば、厳しい仕事に対しても前向きに取り組めるという傾向があります。

(もちろん、「これができていれば長時間労働をさせても良い」ということでは絶対にありません。)

上司(管理職)は、部下の仕事の状況はもちろんのこと、部下自身の思いや考えを把握する必要があります。

日頃から部下とのコミュニケーションを密にし、なんでも言い合える風通しの良い組織であることが理想です。

ただ、そういった組織をどうつくればいいのか分からない、頭では分かっているけど業務推進や管理に時間を取られ、組織づくりにまで手が回らないといった実態をよく耳にします。

これは、多くの企業様で課題となっていることではないでしょうか。

360度フィードバック(360度評価)の実施目的として最も多いのは、管理職のマネジメント力向上です。

マネジメントとは、単純に部下を管理するということではありません。

マネジメントとは、部下の仕事の状況を把握し、部下の意見や考えに耳を傾け理解し、指導・育成し、部下の能力を最大限に引き出すことで強い組織を作ることです。

強い組織を作るためには、現在のマネジメント状況を正しく自己理解させる必要があります。

360度フィードバックは、対象となる方(主に管理職)の行動が周り(他者)にどう見えているかを明らかにできるため、自己理解の手法として極めて有効です。

自分が良かれと思ってとった行動や無意識にとってしまっている行動が、他者(特に部下)に良くない影響を与えていることが結果として出てくるのです。

360度フィードバックは、上記のような「部下の気持ちを理解したマネジメント」の実践状況を自己理解されることができます。

また、自由記述設問への回答を通じて、部下が上司に期待していることなども吸い上げることができ、普段なかなか面と向かって行うことができないコミュニケーションを補完する役割を担うこともできます。

部下の気持ちを理解し、長時間労働の解消に向けた適切なマネジメントを支援するためのツールとして360度フィードバックを活用してはいかがでしょうか。

ここ2〜3年、ヤフー株式会社の「1on1ミーティング」という施策が人事の世界で話題になっています。

上司が部下一人ひとりと週に1回あたり30分の対話の時間を持つというものですが、この対話によって、

「上司・部下間の関係性が深まる」のはもちろんのこと、

「部下の実情や悩みを知り、目標達成のためのアドバイスをより具体的で効果性の高いものになる」

「上司の方針が部下にきちんと伝わって実行されているかなどの自身のマネジメントを振り返る機会になる」

そして「組織の活力がアップする」など、大きな成果を上げているようです。

(参考文献:爆速経営 日経BP社 蛯谷 敏 著)

環境変化により業務難易度が高まる上にさらなる生産性の向上も求められ、管理職のプレイング的要素が増す中、上司・部下間のコミュニケーション量や濃度は減っている…、というのが世の実態かと思います。

しかし、なんとヤフーでは、部下とこの「1on1ミーティング」を行うことを必須としています。

上司(または周囲のメンバー)が自らの業務がいかに忙しくてもです。

そして、この取り組みへの本気度を示すために、社長自らが直属の部下(つまり役員ですね)と「1on1 ミーティング」を率先垂範で実施しているそうです。

忙しいからこそ、逆に上司・部下間のコミュニケーション密度を高めることが、部下の意欲を高め、組織を元気にし、ひいては業績向上につながるということなのでしょう。

さて、ヤフーほどの取り組みでなくても、忙しい中で、上司が部下のことを知り、それをきっかけに部下とのコミュニケーションを濃くする、そんなことはできないでしょうか。

おススメしたいのが、「部下の360度フィードバック(360度評価)のデータをじっくり見る」ということです。

360度フィードバックは対象者本人にとって「気づき〜行動変容」という大きな効果を生むことはいろいろなところでお伝えしてきた通りですが、実は上司にとっても「部下のありのままの行動の状況」を垣間見ることができる有益な材料なのです。

(部下が360度フィードバックの対象者であることが前提です。360度フィードバックは、管理職が対象者となることが多いですが、最近では「リーダー層」への実施や、社員全員への導入をされる企業も増えており、このように自分の知らない部下の実態を知るためのツールとしても活用可能です。)

よくあるケースは、「部下得点(部下たちが観察した結果)」と「上司得点(上司の観察の結果)」に大きなギャップが出るというものです。

具体的には…、

例1

<上司から見た部下(対象者)の行動>

・後輩への指導が熱心。Aさんに熱弁をふるって指導している場面をよく見る。

<360度フィードバックの情報>

・Aさんへの指導は熱心だが、他の多くの後輩には見向きもしない。

・熱血指導してもらってありがたいが、私の考えはあまり聞いてもらえない。

 考えを押しつけられているように感じる時がある。

例2

<上司から見た部下(対象者)の行動>

・自分の意見を出さないため物足りない感じがする。何を考えているのかわからない。

<360度フィードバックの情報>

・寡黙だが、プロジェクトなどで議論が行き詰った時は、状況を整理して議論を進めやすくしてくれることが多い。

いかがでしょうか。

360度フィードバックのデータは、「上司が知らない部下の行動の状況」を教えてくれる、上司にとっても「気づき」の材料なのです。

もちろん上司には、「結果を鵜呑みにしすぎず、自分の目で部下の『実際』を知りに行く」といった姿勢が求められます。

また、「結果を上司には開示する(現場での行動改善・成長のために上司が支援する)」という事前の約束も必要でしょう。

しかし、このように360度フィードバックのデータやコメントをきっかけに、部下の「頑張り度合い」や「もっと成長していくための課題」を見つけ、目標面談や人事考課面談の材料とする、日常の業務の時に注意して見て必要に応じて声をかける等部下の成長を支援する上司になれれば、部下の満足度(ES)も高まっていくに違いありません。

今後は、このような組織の活性化を実現するために、360度フィードバックを会社全体で取り入れられる企業が増える、そんな予感がします。

「Harvard Business Review」2016年7月号で、『組織の本音』という特集が組まれていました。

その中の論文「Can Your Employees Really Speak Freely?」(※)に、管理職のマネジメント力強化につながるのではないかと思われる2つのことが書かれています。

まず、部下に率直に発言をさせるためにすべきことは何かというものです。

例えば、ミーティングを定例で開催し、部下とのコミュニケーションをとる機会を設けること。

もし議題がなかったとしても、シンプルにその時部下が持っている意見を聞くだけでも良いので、継続的に開催することが重要である。

また、たとえどんな意見であったとしても、口火を切った部下に感謝しその意見を尊重することが大切であると書かれています。

上司がコミュニケーションを怠ると、話をしても無駄だという部下の諦めの気持ちが30%増加したというデータもあるようです。

そして、もうひとつも興味深いことが書かれています。

ある著名な医師が、長年優れた実績を残し同僚からも高く評価されていたものの、なぜか患者の満足度調査ではいつもスコアが低い。

そこで病院の役員が、この医師に対して1つだけ行動を変えてみるように促したところ、翌月、患者満足度のスコアは急上昇したそうです。

実は、この医師は回診の際、ベッドのそばに立って患者を見下ろして話していました。

これを、椅子に座り患者と面と向かって話すようにしただけだったのです。

この論文に書かれていることは、決して難しいことではありません。

上記2つのうち1つめにあるように、話しやすい雰囲気を作る、話を聞こうとする姿勢を見せる、これだけで部下は上司に対して大きな安心感や信頼感を持つようになります。

また、2つめは、医師と患者の関係を、上司と部下の関係に置き換えて考えてみるとよいでしょう。

同じ目線で話をする、言い換えれば、話す内容は同じでも接し方を変えるだけで、部下の上司に対する印象を良い方に大きく変えることができるのです。

こうしたことを通じて、部下は上司に対して自分の考えや思いを率直に述べるようになり、現場で起こっていることや部下自身の斬新な考えが耳に入ってくるようになります。

更に、こういったことが積み重なっていくと、組織が活性化され、更には組織強化にも繋がっていきます。

ただ、各企業がこういったことを実現しようとしても、なかなかうまくいかないというのが実情ではないでしょうか。

多くの企業がいわゆるマネジメント研修などを通じて、管理職のマネジメント力を強化することに時間やコストを費やしていますが、実際の職場での管理職の行動にうまくつながっていかないという話を人事担当の方から聞くことが少なからずあります。

研修はどうしてもマネジメントに関する知識やスキルを伝えるだけの場になってしまうという傾向があるため、現場での些細な行動、特に部下の視点に立った行動につながりにくいと考えます。

ここでいう部下の視点に立った行動や基本的な行動というのは、上記のような、話しやすい雰囲気を作る、話を聞こうとする姿勢を見せる、同じ目線で話しをするといったことです。

しかし、多くの管理職の方が、自分がそのような行動をとれていないことに気がついていません。

また、基本的で些細な行動であるため意識していない方も多いのではないでしょうか。

こういった状況は、非常にもったいないことです。

「360度フィードバック(360度評価)」は、管理職の行動状態(部下・周囲に自分の行動がどう伝わっているか)を本人に気づかせ、行動変容を支援するためのツールです。

マネジメント研修などで知識やスキルを付与することも大事ではありますが、部下にとって影響の大きな行動(それも些細な行動)に気づかせ、実践を支援する「360度フィードバック」も活用することで、部下からの信頼感が高いマネジメント力の強化は実現するでしょう。

(※)コーネル大学ジェームス R.ディダート教授、テキサス大学オースティン校イーサン R.バリス准教授共著

弊社は創業以来約300社の360度フィードバックの導入に関わってきました。

想定以上の効果があり、なくてはならない経営・人事施策として定着している企業も多いです。

弊社でご支援した成功事例をじっくりと眺めてみると、「成功」する企業に共通する「3つの特徴」があることが見えてきました。以下が成功する企業の特徴です。

1. 「導入の目的を明確かつ具体的に設定」し、その「目的に合わせた設問や報告書の設計」をしている

2.「個人結果の返却方法」を工夫している

3.「結果返却後のフォロー」を工夫している

1つずつ、ご紹介していきます。

<① 「導入の目的を明確かつ具体的に設定」し、その「目的に合わせた設問や報告書の設計」をしている>

アタリマエのように思えますが、意外なほどこの目的があいまい、または具体的でない企業が多いです。

検討の「背景」や「解決したい人事課題」を踏まえて、“自社での導入目的”を“具体的”に設定することが大変重要です。

では、なぜ目的を明確・具体的に設定する必要があるのか…。

360度フィードバックは、やり方を工夫(カスタマイズ)することで、その効果を大きくできるツールなのですが、カスタマイズのベース(軸足)となるのが、この「導入目的」です。

導入目的を具体的にしておくと、「設問設計」「回答者選定」「報告書フォーマット」「結果返却方法」などに、いろいろと工夫でき、効果も高まります。

最近のご支援事例で多いのは、「設問」のカスタマイズです。

テーマは以下のようなものが多いです。

  • 「管理職の部下育成力を強化したい」
  • 「管理職の自覚なきパワハラをなくし、部下が本音を言えるようにしたい」
  • 「挑戦する組織を創りたい」
  • 「風通しの良い組織を創りたい」

など

このように目的を踏まえた設問にすることで、自社の管理職に求めたいこと、変えていってほしいことなどが「経営からのメッセージ」として、対象者のみならず回答者にも明確に伝わっていくことも利点です。

<② 「個人結果の返却方法」を工夫している>

これも成功のために大変重要なポイントです。

経験上、「社内便で送付」や「イントラネットでダウンロード」のように単純に結果を返却するだけでは、効果がなかなか高まりません。

その理由は、この方法だと「じっくり結果に向き合わない」人もいるからです。

  • そもそも360度フィードバックの目的を誤って理解しており、実施自体に反発しているから
  • 結果の正しい見方を知らないから

例:「結果を少し見ただけで、わかった気になる」「自分の意に反した結果で、目をそらしてしまう」といったことが考えられます。

では、どのように返却すると効果が出やすいのか。

オススメは、「フィードバック研修・説明会」をきちんと行うこと、そして内容を工夫することです。

フィードバック研修を行うと行わないでは、対象者の結果の受け止め方や施策に対する満足度などに大きな差が出ます。

内容は、

  • 施策の意味を正しく理解する
  • 結果に対してしっかりと向き合い、自己の結果を受けとめる(気づく)
  • 気づいた強みをさらに生かす、課題を改善する計画を立てる

といったオーソドックスなものですが、設計する際の、「モチベーションを高める(下げない)工夫」や「気づきを現場実践につなげる工夫」などが重要になってきます。

このようなフィードバック研修を行った上で、現場に戻って上司と実施結果を見ながら面談し、現場でどう行動するかなどを話し合えれば、さらに効果は高まります。

<③ 「結果返却後のフォロー」を工夫している>

ドイツの心理学者エビングハウスの「忘却曲線」という説をご存知でしょうか?

覚えたり学んだりしたことを、「1日後には75%近くは忘れてしまっている」というものです。

この“人は忘れる生き物である”という前提に立った支援が重要になります。

  • 行動計画立案1週間以内に、リマインドメールを送信する
  • 実施3か月後に、上司との面談を設定する

など、結果から気づいたことや立案した計画を思い出させることが継続的な現場実践への支援となります。

とはいっても、結構パワーがかかる(本人・上司・人事)施策ですので、これらをやりとりできる“システム”を活用すると、運用負荷が軽減できることでしょう。

簡単に「成功のポイント」をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

360度フィードバックは、その効果性も高いツールとして、多くの企業でご好評をいただいていますが、一方で、導入の仕方いかんでは“劇薬”ともなります。

しかし、上記のようないくつかのポイントを踏まえれば、大変有効な成長支援・組織力強化のツールとなります。

各ポイントの詳細をお伝えしたいのですが、紙面の都合上、多くは語りきれません…が、「360度フィードバック活用ガイド」にできるだけポイントを記載しております。

ぜひご覧いただければ幸いです。

突然ですが、「ダイエット」という取り組み。

“目指す状態に対して日々努力して自分を磨き、自分の状態を向上させる”という意味では、「人材育成」に共通する部分も多いのではないかと思います。

それだけに、両者の取り組みを比較すると、お互いにとってヒントになることも見えてきます。

さて、「ダイエット」を成功させるためにはさまざまな方法がありますが、誰であろうと必ず行うことがあります。

それは、「体重計に乗る(体重測定)」ということです。

体重測定を全く行わないダイエットなど、有り得ないでしょう。

自分の体重を知ることで、理想(目標)体重とのギャップを認識し、「ここままではヤバイ…」とか「よ〜し、頑張ったぞ!」といった感情を芽生えさせ、更なるダイエットに取り組めるのではないでしょうか?

一方で「人材育成」について考えてみましょう。

多くの企業では、理想の状態(目標とする人物像など)を設定されています。

例えば、「管理職にとって求められる人材像」とか「リーダーにとって必要な要件」といったことの設定です。

ダイエットで言えば、「目標体重を決める」ということでしょう。

しかし、ダイエットにおいて間違いなく行われているにも関わらず、人材育成ではなおざりにされていることがあります。

それは、「体重測定」に相当することです。

つまり、「人材育成において、現在の状況を正確に把握する」ということです。

この部分は、結構曖昧になっているのではないでしょうか?

自社人材の強みや課題は大体わかっているよ…と思われている人事部門の方も多いかもしれません。

しかしながらここで大きな問題であることは、現場で働く個々人が「自分自身の現状」を正確に理解できてないのではないかということです。

特に管理職になると、他者から自分の言動に対する意見やアドバイスを受ける機会が少なくなります。

自分では問題だと感じていないことでも、周囲にとっては問題行動となっていることも多くあります。

例えば、よかれと思って熱血指導しているつもりが、部下からはパワハラだと感じられているといった悩みが、多くの企業の現場から聞かれているのではないでしょうか?

管理職は会社や組織にとって大きな影響を及ぼしていることに間違いありません。

それがゆえに、管理職の部下マネジメントの強化は、企業において急務のこととなっています。

なお、現状把握が曖昧であるということは、理想状態とのギャップも曖昧となり、取り組むべき施策も曖昧になってしまい、好ましくない状態が放置されてしまうことになります。

それに加えて残念なのは、「向上に向けた意識が高まらない」ということです。

「このままではマズイ…」といったような危機感、「私は頑張った甲斐があったな・・・」といった喜びなどの感情が生まれないと、自ら本気で取り組むモードにはなりにくいと言えるでしょう。

人材育成もダイエットも、成功させるための秘訣は、「本人がその気になる」ことです。

そのためにも、感情を芽生えさせるための仕掛けは、とても重要なことと言えます。

360度フィードバック(360度評価)は、自分の状態に気づかせる人材育成の手法です。

アンケートを通じて収集した周囲からの声を整理して伝えることで、「自分では良かれと思って行っていた行動が周囲に意図したとおりに伝わっているのか?」「周囲にどのような影響を与えているのか?」を自己認識させることができます。

そのことは、行動変容につながっていきます。

そして同時に、感情を揺り動かすことができる仕掛けでもあることは、言うまでもありません。

「日本の人事部」が主催するHRカンファレンスで、2014年秋の弊社の講演において、弊社のお客様であるJT様(R&D部門執行役員)の方とソフトバンク様(人事企画部長)の方にご登壇いただきました。

そのパネルディスカッションにおいて、実際に360度フィードバックを活用されているお二人に、360度フィードバックは、他の人材育成手法と何が違うのか?一番の魅力であると感じているのは何でしょうか?と質問しました。

なんと偶然にも、お二人とも同様のご回答でした。

「見える」ということ。周囲の思いが数値になって表れる。

見えることで、納得せざるを得ない。

また、定性的な自由記述回答も、本人にとっての納得感が高い。

人は自分の行動を客観的に見ることができない。

現状を変えるためには、客観的に自分の行動を見る(理解する)ことが大事だと考える。

360度フィードバックは、それをわからせてくれる「唯一の」手法である。

うまく導入されている企業の方のコメントには、リアリティがあり、説得力があります。

その一方で、360度フィードバックの独特の魅力は、実際に活用されてみないとなかなか伝わりにくいものであることを感じました。

多くの企業の方に、まずは試していただき、効果を実感いただきたい手法です。

最近、企業の人事部からのお問い合わせで「役員・部長クラスを対象に360度FBサーベイを導入したい」という相談が増えています。

その背景を伺うと「会社のミッション、ビジョンを改定したので…」「中期経営計画の達成に向けて…」などの状況があり、会社としてまずは幹部クラスから意識改革をして、そして従業員全体に良い影響を拡げたいという狙いがあるようです。

企業の人材育成を支援して感じることですが、一般的に上位層のビジネスパーソンになるほど自分自身を変えることが難しい傾向があります。

なぜなら仕事の経験が豊富になると周囲からのフィードバックは少なくなり、たとえ周りから貴重なアドバイスがあったとしても本人が抵抗感を持ってしまい、素直に受け入れることができない人が多いように感じます。

しかし、幹部社員であっても自らの弱みに気づき、行動変革をしていかない限り、さらに高いレベルへ成長することはできないと思います。

今回のコラムでは、企業幹部を行動変革に導く手法「エグゼクティブ・コーチング」について取り上げてみます。

このテーマについては、GEの前会長兼CEOジャック・ウェルチ氏をコーチしたことで知られる世界的なエグゼクティブ・コーチ、マーシャル・ゴールドスミス博士のコーチング手法を参考にして、その効果を考えてみたいと思います。

マーシャル氏のエグゼクティブ・コーチングは、以下の流れで進めていきます。

『コーチングの神様が教える「できる人」の法則(日本経済新聞出版社)』から引用。

1)フィードバックを受ける

−対象者に関する仕事上の特徴(主に対人関係面についての問題点)を仕事上の関係者(上司、同僚、部下)複数名からアンケートとインタビューによって聞き出し、その結果をコーチから本人へフィードバックする。

※複数の関係者から得た情報を本人へフィードバックすることをここでは「360度フィードバック」と呼んでいます。

2)周囲に謝罪する

−360度フィードバックの結果から明らかになった「周囲に悪い影響を与えている行動」を本人が自覚し、そのことについて職場ミーティングの場で「自分の××の行動は間違っていたので、今後は改善するよう努力します」と関係者に謝罪する。

3)公表する・宣言する

−周囲に謝罪した後は、「××の行動をあらためて、○○な人間になる」と宣言する。そして自分を変えるための具体的な行動計画を発表して、その内容を周囲と共有する。

この後にも、「人の話を聞く」「感謝の気持ちを伝える」「関係者からのフォローアップを受ける」など、対人関係の問題を改善するための行動プログラムを取り入れています。

マーシャル氏はエグゼクティブが持っている「悪い癖」を20に分類していますが、その中で最も多くのエグゼクティブが持ち合わせている悪癖が「極度の負けず嫌い」といいます。

ただし、エグゼクティブは「負けず嫌い」だからこそ仕事でも大きな成果を残して他人よりも早く昇進することができたのであり、別の見方をすれば「負けず嫌いが成功要因だった」とも言えます。

しかし、リーダーになってからの「負けず嫌い」の行動が周囲に対して悪影響を与えていることはよくあるケースです。

そのことを本人に気づかせるのが周囲からのフィードバックであり、本人の悪癖を改善して良いリーダーに生まれ変わらせるのがエグゼクティブ・コーチの役割になります。

マーシャル氏のコーチングはこの一連のステップを踏むことで、どんな悪癖を持ったエグゼクティブでも12〜16ヶ月で確実に生まれ変わらせてきたといいます。

このマーシャル氏のエグゼクティブ・コーチングで特に注目すべきなのは、最初のステップで「360度フィードバック」を効果的に活用されていることです。

対人関係に問題を抱えている多くのエグゼクティブは、本人がそのことに全く気づいていないことが多いようです。

深刻な問題があることを本人に理解させるには、周囲の多数の人(部下・同僚・上司)が本人の行動をどのように思っているかという客観的な事実情報(360度フィードバック)が、非常に強い刺激となります。

健康面に例えるなら「自分は全く健康だ」と思っている人に、人間ドック受診後に「異常」が見つかった診断結果を返却する時と同じ状況といえます。

マーシャル氏の表現を引用すると、

『私が外科医だとしたら、フィードバックはMRIのようなものだ。

MRIは深部組織の損傷を示し、何が壊れているのかを知らせる。

患部を治すには手術が必要だし、患者はよくなるために何週間もかけてせっせとリハビリをしなくてはならない。』

つまり、「360度フィードバック」という客観的な結果は、上記におけるMRI診断結果に相当するものであり、エグゼクティブの行動変容を促すための刺激的な情報といえます。

多くの企業では、経営革新に向けては幹部社員の意識改革がますます重要になっています。

経営幹部の意識改革に取り組まれる企業にとっては、「360度フィードバック」を上手く活用して、まずは本人に “ 気づき ” を与えることが経営革新の第一歩になるのではないでしょうか。

多くの企業が、「研修の実施効果」を高めたいと思っています。

しかし、多くの受講者は実際の職場に戻ると日常業務に流され、研修で学んだことも時間と共に忘れ去られてしまうのが現状です。

人材育成を企画する人事部の方々にとって、「研修効果を高めること」は永遠のテーマと言えます。

今回のコラムでは、世界100カ国で28万1千人が働く巨大グローバル企業、世界最大の食品会社であるネスレをとりあげてみます。

ネスレで実施されている「リーダーシップ研修」の概要は次のようなものだそうです。

  • ネスレ社員130名へのインタビュー結果から、幹部社員にはリーダーシップ・アティテュードの不足が経営人事課題であると認識。この課題解決のために人材育成施策に取り組むことになる。
  • 今後、ネスレが変化の激しいビジネスに対応していくためには「自律性の高い組織でリーダーシップを発揮できる人材」が求められており、そのために「コーチング的マネジメントができる人材」を育成するための研修プログラムを開発。
  • 研修の対象者は、本社及び全世界のグループ会社の幹部社員で500名。
  • 研修の参加者は、事前に「360度FBサーベイ」を受けて、研修時に本人へフィードバック。
  • 研修は4日間にわたり、以下のプログラム内容で構成。
    • 1日目…イノベーションについて考える
    • 2日目…ネスレに求められているリーダーシップとは
    • 3日目…360度FBサーベイのフィードバック、自己分析
    • 4日目…アクションプランの作成
  • 研修終了後に参加者は、研修結果に基づいて専門コーチのフォローを受けながら、12ヶ月経った段階で再度2日半の集合研修に参加。ここでもう一度「360度FBサーベイ」を実施し、どれだけ自分のリーダーシップ・アティテュードが変革できたかを確認。
  • さらには、研修参加者はお互いの「360度FBサーベイ」結果を共有して、今後に向けてのアクションプランに対して相互アドバイス。
  • 実際に、この研修を受講したネスレの幹部社員には研修後の行動変容が認められ、大きな研修効果が出た。
  • よって、今後は、次期幹部候補であるマネージャーやグループリーダー(4500名)も受講する予定。

『人が育つ会社をつくる』高橋俊介著日本経済新聞出版社から引用。

この事例について、2つの点が素晴らしいと感じました。

1つは、研修プログラムの中で「リーダーシップ」を学ぶセッションと、「360度FBサーベイ」のフィードバック・アクションプランを考えさせるセッションを組み合わせたことです。

受講者は研修を通じて、「求められるリーダーシップ」が何であるのか、会社として期待されていることは何であるのかを学びます。

つまり、「目標とすべき人材要件」をしっかりと理解させておくのです。

その上で、「360度FBサーベイ」による自己分析を行わせることで、現在足りていないリーダーシップ行動が何であるのかをしっかりと認識できるのです。

そのことは、具体的なアクションプランを考えやすくなるという効果があります。

そして2つめは、研修の1年後にもう一度「360度FBサーベイ」を実施しているということです。

多くの受講者は、研修が終わって日常業務に戻ると、研修で学んだことはいつの間にか忘れてしまいます。

しかし、研修が終了して1年後にもう一度「360度FBサーベイ」で自分自身の行動変容度を確認することが決まっていれば、職場に戻ってからも日々の行動(アクションプラン)を意識するようになります。

また、1年後の結果と前回の結果を比較し、向上が目に見えて表示されることは、成長も感じさせ、やる気を高めるという効果も期待できます。

(※このためには、実施や報告において「ちょっとした仕掛け」が必要となります。)

ネスレはこれらの工夫によって受講者の行動変革を実現させています。

単に実施して結果をフィードバックするだけの運用ではありません。

さすが、世界的な優良企業と言われているネスレ。

単なる研修実施だけではなく、様々な工夫を講じることで大きな効果を出しています。

研修効果を高めたいと本気で考えている企業にとっては、参考になる好事例です。


弊社のホームページを通じて、また、初めてお会いする企業の方から360度評価に関して多くの質問をいただきます。

効果的な導入の仕方、結果の活用方法や事例、そして料金体系などお問い合わせ内容は様々です。

そんな中で、「360度評価」に関して、多くの方々が勘違いされているな〜と感じることがあります。

360度評価を「上司、同僚、部下・後輩などが、対象者の能力を評価する手法」と定義されていることです。

「えっ、それのどこが勘違いなの?」そう思われる方も多いと思います。

しかし、上記の定義は、360度評価の本質的な特性を十分に理解されていないことから生じてしまう勘違いなのです。

「部下に上司の能力なんて評価できるわけがない…。」

そんな理由から、360度評価に対して否定的な意見をお持ちの方もいらっしゃいます。

360度評価の定義を上記のように考えていらっしゃるために、大事なことを勘違いされているのだと思うのです。

360度評価は「上司、同僚、部下・後輩などが、対象者の行動の発揮状態を観察する手法」と定義されるべきものです。

必ずしも、能力の有無を評価するものではありません。

「能力評価」ではなく、「行動観察」なのです。

対象者の行動が周囲にどの程度伝わっているのかを測定する手法なのです

部下が、上司の日頃の行動の発揮状況を見て、感じたことを率直に回答する仕組みなのです。

部下に上司の能力レベルを評価させるようなことはさせていません。

(というよりも、部下が上司の能力を評価するなんて、そもそも無理があると思うのです。)

この部分に大きな勘違いがあるのです。

ですので、フィードバックすべき内容は、「あたなは能力が、高い(低い)」ではなく、「あなたの行動は、周囲には伝わっています(いません)」ということなのです。

自分ではやっているつもりの行動が、周囲に対してどの程度伝わっているのかを体系立てて集計し、それをフィードバックすることには大きな意味があります。

「能力がない」のではなく、「能力はあるかもしれないが、それを十分に行動として発揮できて(伝わって)ません。このままではもったいないですよ!」と気づかせてあげるのです。

フィードバックをこの様に行うことで、本人は前向きに結果を捉えることができます。

「気づき」によって行動を変えるように促すことができるのです。

360度評価は、意図を持って上手く使えば、人材育成の手法としてかなり効果的に活用することができます。

そもそも、この「360度評価」というネーミングが、誤解を生んでいる元凶なのかもしれないですね(苦笑)。

そして、このネーミングが、日本企業における360度評価の普及を妨げているように感じることが多いです。

本当にもったいなく、残念な気持ちになります。

(今後は、「360度フィードバック」というネーミングも積極的に使っていきたいと思います。苦笑)

360度評価(フィードバック)の本質部分を理解することで、その活用の幅は格段に広がっていきます。

多くの方々の勘違いが解消され、前向きな活用につながるように弊社も支援いたします。

少し前の話題となりますが、2011年7月27日の「人材育成・研修ニュース」に是非注目して欲しい記事を見つけました。

ポジティブドリームパーソンズ

経営人材の新評価制度「リスペクトサーベイ」を開始-上司、同僚、部下の360度方向から評価

http://jinzai-ikusei.info/540.html←引用記事です

主なポイントは、

  • 経営チームの強化策として実施
  • 経営チームにとって必須なことは「人望」
  • 「人望」という抽象的なものを「リスペクト」の度合いとして定量化する
  • 「リスペクト」の評価ポイントとして、儒教の教えである「五常の徳」を引用
  • 「仁」「義」「礼」「智」「信」をベースとした10個の評価項目を設定
  • 業績評価に次ぐ指標として位置づけられ、年に1回評価実施
  • 経営チームへの意識改革
  • 部下は経営チームに何が望まれることなのかを考える機会になる

とても良い使い方をされているな…と正直思いました。

ポジティブドリームさんのこの仕組みについては、「仁」「義」「礼」「智」「信」をベースとした評価項目など、面白いな〜と感じることが多いです。

その中で、今回取り上げたいのは、「人望」ということです。

個人的なことですが、この「人望」については、懐かしい想い出が蘇えってきます。

今から10年以上前。

私は大手メーカー(当時、誰もが認める優良有名企業)において次世代リーダーの選抜・育成の仕組み設計のコンサルティングを行っていました。

当時の日本においては、「次世代リーダー育成」、「サクセッションプラン」に取り組んでいる会社はまだ少なく、先行事例はGE、IBMなど海外企業が中心。

日本では、コマツさん、ソニーさんなどほんの一部の企業が、模索されながら取り組まれているような状況でした。

そのコンサルにおいて、議論となったのは、普通の管理職選抜ではなく、役員選抜という場面において重視すべき要件をどう考えるのかということでした。

いろんな議論を経て、最終的に「人望」という要件に落ち着いたのです。

選抜(昇進含む)は、対象者自身の問題だけではありません。

その対象者が属している組織や関係者にも良くも悪くも大きな影響を及ぼします。

その最たるものは、周囲(部下・関係者)の納得感がない選抜です。

これはメンバーの士気を低下させ、組織力を間違いなく低下させます。

例えば、

「え〜っ、なんであの人が選ばれるの?人事部は現場のことをわかってないな…。」

「あの人、上にはいい顔をしてるけど、部下からは信用ないし、組織のことを本気で考えていない。あんな人の下では働きたくない…。」

こんな話が現場でささやかれ、その不満話は組織全体に蔓延していきます。

同時に、本来評価すべき優秀な方のモチベーションを低下させてしまうでしょう。

このような抜擢・昇進人事によって、組織の状態が悪くなってしまった会社を何社も見てきました。

人事部からは意外と見えにくいことなのですが、このことは、人事部や経営に対する不信感を生み出します。

課長クラスの昇進ならまだしも、部長クラス、役員ともなると、その選抜された人が将来的にはその会社を担っていくことになります。

つまり、その人の指示によって、会社が動いていくことになるわけです。

そう考えると、将来の会社に対する不安感、そして不信感が増すのは当然のことでしょう。

「あの人の下で働きたい!」「あの人のためにも頑張りたい!」

部下をそういう気持ちにさせるのは、まさに「人望」

だからこそ、役員や上級管理職に求める要件として、「人望」はとても重要な意味を持つのだと思っています。

しかし、難しいのは、この「人望」をどうやって評価するのか?ということです。

通常の上司評価だけで、本当に「人望」というものを評価できるのでしょうか…。

そもそも「人望」とは何なのでしょうか?

“信頼できる人物として、人々から慕い仰がれること”

と、辞書(大辞泉)には記されています。

当たり前ですが、大事なポイントは、「人々から」ということです。

「人望」は、複数の人々の感情によってつくられた状態のことです。

そんな状態を1人の上司が正しく把握できるわけがありません。

それだけに、今回のポジティブドリームパーソンズさんの「人望」を評価する仕組みとして、複数人の関係者(特に部下)が関わる360度フィードバック(360度評価)を活用されているのは、とても理にかなっています。

感情をあなどってはいけません。

理屈抜きで、人や組織を動かす原動力となるものです。

組織の活性化や強化を実現するためには、「人望」といった目に見えない集団の感情も含め、現在の組織を把握することが欠かせません。

現状を正しく把握できていない、つまり問題状況が曖昧なままに、その解決に向けて適切な施策を行うことには無理があります。

「人望」などの感情を含めた組織や個々人の状態をいかに把握するのか。

360度評価には、まだまだメジャーとは言えない“深くて有効な”活用方法がありそうです。

東日本大震災、原発問題、経済不況…

非常に厳しく、不安な状況が続いています。

そんな中、誰もが認める圧倒的な成果を残した「なでしこジャパン」。

遂に、チーム全員で国民栄誉賞の授与となりましたね。

「最後まであきらめない」ということに、本当に感動しました。

多くの国民に勇気を与えてくれました。

ところで、ワールドカップ優勝以来、「なでしこジャパン」をテーマにしたビジネス記事やブログが、様々なところで書かれています。

その中で、私が特に印象に残った記事は以下のものです。

日経ビジネスONLINE 武田斉紀氏

「感動だけではもったいない、なでしこジャパンに学ぶ5つのこと」そこには仕事やビジネスを戦うためのヒントがある

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110721/221589/

武田氏は、なでしこジャパンから学ぶべきこととして、以下の5つをあげられています。

うまいだけでなく、精神力のある人材を集めたこと海外経験などで敵と自分を知れたこと徹底的に自分たちの強みを伸ばし、弱みを潰していったことメダル獲得、そして世界一を本気で目指したことリーダーが信じ、こだわり続けたこと

なるほど…。

さすがポイントを突いて上手く整理していらっしゃるな…と思いつつ、個人的にある部分に反応してしまいました。

それは、「2.自分を知れたこと」のフレーズです。

何故それに反応したのか?

このことは、同じサッカー選手である中村俊輔選手にも共通していることを思い出したのです。

私は、以前のコラムで同じサッカーの中村俊輔選手のことについて書かせていただきました。

中村選手は、自分の成長のために、周囲からのアドバイスを積極的に聞き入れていたようです。

周囲からのフィードバックを積極的に受けたり、自分のプレーをビデオで確認したりして、自分を客観視することで、新たな改善点を見つけ出し、そして高いレベルへと改善していくことを謙虚に実行されているようです。

また彼は、上記の著書「察知力」の中で、以下のようにコメントしています。

「自分のことを知らないと成長はできない。

足りないことを認知して、これを補うために工夫すること。」

https://www.sdi-c.co.jp/article/13495372.html

ここで改めて考えてみましょう。

「成長」には何が必要なのでしょうか?

更に、少し異なった観点から質問しますね。

ほとんどの人が、自分自身を成長させたいと思っているはずです。

しかし何故、成長できる人とそうでない人が出てきてしまうのでしょうか?

この「成長」。

心地よい言葉であり、前向きな言葉です。

しかし、非常に漠然としており、抽象的な言葉でもあります。

ここに“大きな罠”があるのです。

必ずしも適切ではない例示かもしれませんが、「世界平和」も同じでしょうし、企業でよく使われている「お客様志向」といった言葉も同様です。

これらの言葉は、タイトルとして掲げるだけで、自己満足に陥ってしまいがちな心地よい言葉なのです。

それだけに、具体的に何を行えば良いのか明らかにしないまま、放置されてしまうのです。

成長のために、自分自身が、何を、どうすれば良いのかわかっていない人も多いのではないでしょうか?

現在の状態を正しく把握し、その上で、何をどうしていくのかを決める。

そもそも、今の状態がわからないのに、成長にひもづくであろう適切な行動なんて取れるはずがありません。

更に言えば、現在の自分の状態を客観的に把握することで、成長に向けての危機感も高まってくるでしょう。

「私は、もっと出来ていると思っていたが、まだまだ周囲には認められていないのか…」

「自分の強みだと思っていたことが、実は弱みとして周囲に影響を与えていた。このままではまずい…」

このような意識が、成長の原動力になることも多いでしょう。

皆さんの会社の社員の方々は、自分自身の現状を正しく把握されているでしょうか?

して危機感を持って、成長のために具体的な一歩を踏み出すことができているでしょうか?

自分の現状を客観的に正しく把握し、成長のために何を行うべきなのかを明らかにすること。

これがしっかりと出来ていないままに、社員に成長を求めても、厳しいのではないでしょうか?

職場での社員個々人の行動発揮状態を明らかにし、リアルな自己理解をさせることができる「360度サーベイ」。

成長のための仕組みとして、改めてその存在に注目が集まっています。

多くの企業、多くの社員に、是非上手く活用していただきたいです。

(ちょっとした工夫の仕方など、気軽にお問合せください。)

「実施した研修が本当に役立っているのか?」

「研修の実施効果(成果)を測定できないだろうか?」

これは、研修を企画・実施された方であれば、必ず意識される大事なことでしょう。

人事専門誌である「労政時報」の2011年6月24日号の特集記事は、『企業における教育研修の最新実態』

大企業から中堅・中小企業まで約200社の人事担当者の回答結果が紹介されています。

その中で、「教育・能力開発の課題・問題点」に関する自由記述回答に着目してみます。

ここでは様々な悩みが挙げられていますが、共通して多くみられる教育課題としては、以下の3つが取り上げられてます。

1.「管理職の育成」

2.「研修効果の測定」

3.「費用対効果の難しさ」

「研修効果の測定」「費用対効果の難しさ」は、『効果』といった点で共通し、多くの企業を悩ませているようです。

企業としては、高いお金をかけて研修をしているので、その効果が気になるのは当然のことと言えるでしょう。

ところで、研修の効果って、測定できるものなのでしょうか?

できるとすれば、どの様に測定するものなのでしょうか?

これには有名な「カーク・パトリックの4段階評価」の考え方がよく使われます。

カーク・パトリック氏は、研修の効果を4つのレベルで評価しています。

レベル1 「研修満足度」

研修直後の受講者にアンケートを記述

レベル2 「学習到達度」
研修で習得した知識やスキルに関してテスト

レベル3 「行動変容度」
研修後、職場での行動変化を本人や他者が評価

レベル4 「成果達成度」
研修後の行動変化による業績向上レベルを確認

レベルが上がるごとに、効果測定は難しくなるものの、研修実施効果の本質(研修本来の目的)に近づいていくとしています。

意識の高い研修責任者の方とお話しすると、「レベル1(研修満足度)」はさほど重視されていない方が多いように感じます。

その方が重視されていらっしゃるのは、「レベル3(行動変容度)」、そして「レベル4(成果達成度)」です。

少なくとも、研修を受講したのであれば、現場での行動が変わらないと研修の意味が無いとお考えのようです。

私も、それは当然のことと思います。

実際、研修アンケートが良い結果だったとしても、研修内容を現場で実践しているとは言えません。

多くの受講者は、実際の職場に戻ると、日常業務に流され、研修で学んだことも時間と共にどこかに流されてしまうのが常です。

「レベル1(研修満足度)」と「レベル3(行動変容度)」の相関が無いとは言えませんが、「レベル1」は所詮、受講者の自己満足と言えるでしょう。

それだけに、「レベル3(行動変容度)」が重要であり、これをしっかりと測定し、測定結果によって適切なフォローを行うことが、望ましいと考えられます。

そこで登場するのが、360度サーベイの活用です

カーク・パトリック氏の「レベル3(行動変容度)」の確認を、360度サーベイで代用させるということです。

これには、2つの大きなメリットがあります。

1つは、研修受講者の仕事ぶりをよく知る複数人の関係者が、研修後の行動変容をチェックすることで、客観性の高い正確な実態把握を行うことができることです。

つまり、受講者本人に、自分ができていること、できていないことを正しく認識させることができるのです。

自己評価だけの場合、この部分が曖昧になってしまいがちで、その後のフォローも曖昧になってしまい、効果が期待できません。

もう1つは、360度サーベイを実施すること自体が、受講者本人にとってインパクトが大きいため、身が引き締まる思いをさせることができます。

それだけに、研修のリマインド効果が高くなると言えます。

実施結果をフィードバックすることで、本人の感情を更に刺激して、研修内容を思い出させます。

そして、意識を高めながら行動実践につなげられるというメリットがあります。

しかし、これらのメリットを上手く発揮させるためには、ちょっとした工夫が必要です。

上手く工夫することによって、「研修効果の測定」だけでなく、研修内容を踏まえた現場実践活動を促すことができるのです

工夫を講じることで、実施した研修の効果は格段に違ってきます。

「研修の実施効果を高めたい!」

「研修を実施することで、業績向上を本気で考えたい!」

そうお考えならば、研修と360度サーベイを組み合わせて活用し、効果測定と実践定着を狙ったプログラムを設計されることをお勧めします。

まさに、研修担当者の力量が試される場面であり、経営に対する大きな価値提供の絶好の機会だと思うのです

是非、経営に対していいアピールをして、研修担当者としての位置づけを向上して頂きたいと願っています。(お手伝いしますよ!)

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