これまでのコラム一覧

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 ◆「リモートワークにおけるマネジメント」と360度フィードバック

 ◆360度フィードバックの実施効果を高めるために

 ◆令和のはじまりとともに思うこと(組織長の大切な役割とは)

 ◆組織の中からイノベーションを起こすために必要なこと

 ◆マネジャーはどう頭を切り替え、時代に合わせた部下マネジメントをしていくべきか  〜DeNA筒香選手の発言から考える〜

 ◆名選手が名監督になるためのヒント

 ◆組織の成功循環モデル

 ◆360度フィードバックの効果を高める実施後施策〜職場報告会〜

 ◆「場の設定」をどのように工夫するのか? 〜360度フィードバックの実施効果を高める結果返却〜

 ◆ マネジメントにおける“真実の瞬間”

 ◆「若い頃に上司から怒られて成長した」?

 ◆「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」(後編)

 ◆「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」(前編)

 ◆ “働き方改革”を阻む「社会的手抜き」について考える

 ◆ マネジメントに効果的な「ゴールデンサークル」

 ◆ ランニングは科学、仕事の進め方やマネジメントも科学

 ◆ 360度フィードバックを継続しても、行動改善がない人にどう向き合うか?

 ◆ 「要因」による「行動」、そしてその「結果」

 ◆ 若手社員を生かすも殺すも・・・、「フィードバック」

 ◆ 有効求人倍率上昇。人材採用にばかり追われてしまっていないでしょうか。

 ◆ ダメな人ほど自己評価が高い? 〜ダンニング・クルーガー効果について考える〜

 ◆ 360度フィードバック(360度評価)のフリーコメントから考えるべきこと

 ◆ 「ノーレイティング」と「360度フィードバック(360度評価)」

 ◆ 360度フィードバック(360度評価)導入への反対意見

 ◆ “期中の上司・部下面談”の効果を高めるために

「リモートワークにおけるマネジメント」と360度フィードバック

新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言により、多くの企業がリモートワーク(在宅勤務、ローテーション勤務なども含む)の導入を余儀なくされています。そして、リモートワークは今後も継続し、(長い時間を経て)世の中に定着するといった考えも伝わってきます。そのようなこともあり、リモートでのマネジメントに注目が集まっています。

かく言う私も、以前在籍していたIT系企業でリモートでのマネジメントに直面し、「メンバーとのコミュニケーションはメールやチャットで出来るし、会議だってオンラインで開催できる。今までのマネジメント方法と何か変わるのだろうか?」といった漠然とした不安と、「今までとは違ったコミュニケーションを心掛けないといけないな」といった少しばかりの心構えを持つことしかできませんでした。

そこで、実際にリモートでのマネジメントを行っている友人、そしてネット上での意見を集めてみました。

・オンラインでもオフラインでもマネジメント上やることは基本的には同じ。

・但しオンラインでは細かな業務進捗の管理ができない。

・メンバーの動きを細かく把握することが難しいため、明確な目標設定が必要だ。

・コミュニケーションの取り方に工夫が必要だ。

・コミュニケーションの量が減るので、1on1などでのコミュニケーションの質を上げることが重要。

・オンライン上に雑談できる場を用意した方がいい。

・フリーライダーが出そう。

・業務効率が悪くなり、業績が落ちそう。

・今まで以上に管理したほうがいい。

・監視や管理をし過ぎてはいけない。

・自律を促すいいチャンスだ。

など、様々な考えや意見があふれていました。

「物理的な距離、心理的な距離が広がるので、従来のマネジメントやコミュニケーションでは通用しない部分が出てくる」ということです。

今後は、緊急事態宣言が解除されたこともあり、リモートワークとオフィスワークのメンバーが混在してくるでしょう。週に2〜3度顔を合わせるメンバーと週に1度ぐらいしか顔を合わせないメンバーが混在し、そのことで意図せずコミュニケーション格差が生じます。そしてそこから生じる意識の違いが更なる混乱を発生させてしまい、悪循環に陥ってしまう危険性もあるように感じられます。

今まではできていたことが意図せずできなくなり、知らず知らずのうちに組織内に問題が発生し、個々人のモチベーションの低下や組織の活力が失われる。そんな状況に陥ってしまうケースも少なくないでしょう。

このように、リモートではいろいろな場面で今までのように目が行き届かなくなり、業務進捗やメンバーの心理状態をつかみにくくなります。

そのため、メンバー一人ひとりに心を配り、業務進捗や心理状態を丁寧に確認するといった従来のマネジメントやコミュニケーションの原理原則は変わらないものの、”リモートならでは”のマネジメントやコミュニケーションを取り入れる必要があると感じています。

では、どのように考えていくべきでしょうか?

この状況の中で360度フィードバック(360度評価)はどのように活用できるのでしょうか。

360度フィードバックの本質的な機能は、「関係性の現状把握」「フィードバックによる育成支援」「人事評価の参考情報」といった3つの要素から構成されるとも言えます。

「関係性の現状把握」とは、「対象者(管理職)と回答者(主に部下)との関係性の現状」を把握する機能です。

「フィードバックによる育成支援」とは、職場での行動が周囲にどのように伝わっているのかを気づかせ、このことで管理職のマネジメントレベルの向上(育成)を支援する機能です。

「人事評価の参考情報」とは、360度フィードバックをダイレクトに月例給与に反映する人事評価というよりも、昇進昇格の参考資料や、適切な異動配置の参考にする機能です。

リモート環境下においては、前述した本質的な機能の中でも特に「関係性の現状把握」の重要性がより一層高まると考えています。

「戸惑いながら意識して変えてみた行動が部下にどのように見えているのか。部下にどのように伝わっているのか」といった管理職の不安。「ほったらかしにされている。もっと声をかけてほしい」といった部下の不安。リモートによってマネジメントやコミュニケーションの変化が求められる中、変えようとしている行動が、部下にどのような影響を与えているのかを知ることが重要になることは間違いありません。

360度フィードバックにより管理職と部下の「関係性の現状把握」ができると、行うべきことが見えてきます。

例えば「毎朝、調子を聞いてみよう」「業務進捗を一緒に行い、うまくいっているところを褒めてみよう」「オンラインでも1on1を設定して、声のコミュニケーションを意図的に増やしてみよう」といったように、リモートに対応したマネジメントやコミュニケーションの”引き出し”を増やすこともできるでしょう。

このような取り組みを通して、リモート環境下におけるマネジメントやコミュニケーションについての気づきや、あるべき姿・ありたい姿とのギャップを埋めるなど、人事部が提供するソリューションのひとつとして、360度フィードバックを有効活用して頂ければと思います。

本コラムでは、360度フィードバックを活用してリモートでのマネジメントを向上させるポイントを簡単に紹介させていただきました。

ご興味がございましたらお問い合わせください。詳細についてご説明いたします。

◆360度フィードバックの実施効果を高めるために

昨年観たテレビ番組の中で印象に残っているのが「集団左遷」というドラマです。

ネットでも話題になったのでご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このドラマは、大手銀行という組織の中で主人公(片岡支店長)が廃店になることが既に決まっている蒲田支店に人事異動で赴任するところから始まります。

最終的に片岡支店長は業績が低迷していた蒲田支店の組織目標を達成して、さらには銀行上層部の不正までも知ってしまったことから、それを内部告発するという反骨精神に溢れたストーリーでした。

ネットでの視聴者の投稿を見ると、「上意下達の組織で片岡支店長が上層部に対して間違っていることを正すよう進言する場面で、その勇気ある行動に感動しました」といったような感想が多くありました。

一方で、個人的に私が一番注目したのは、片岡支店長が蒲田支店に赴任してからメンバーを上手くまとめ上げていくプロセスでした。

赴任した当初は、メンバーとの信頼関係ができておらず思うようにマネジメントができない状況にありましたが、日々の仕事を通して部下とコミュニケーションを重ねるなかで徐々に信頼を得て、部下のやる気を引き出し、そして期末の最終日には蒲田支店の業績目標を見事に達成させるのです。

現実の世界ではドラマのように何もかも順調に進むことは少ないでしょう。

しかし、多くの企業のコンサルティングに関わって感じていることですが、ドラマと実際の職場を比べてみると共通している点もあります。

それは組織が目標達成するときには必ずその組織のメンバー一人一人がイキイキと働いているということです。

ドラマ「集団左遷」でも片岡支店長がメンバーへ上手く働きかけることによって彼ら/彼女らのやる気を引き出し、職場の雰囲気が明るくなっていきます。

実際にこのドラマの中で、片岡支店長のどのような行動が支店メンバー(部下)に対してよい影響を与えていたのか振り返ってみると、いくつかのシーンが思い出されます。

組織目標や方針について熱意を込めて語り、部下の意識を高めていた部下に対して、業績目標の達成を最後まで諦めないように働きかけていた立場の異なる関係者間の対立する意見や考えをうまく調整し、円滑にまとめていた自ら積極的に、部下に挨拶するなど声を掛けていた部下がお客様から融資を受注してきたら、いっしょになって喜んでいたトラブルや重大なミスが発生した時でも、逃げることなく、矢面に立って対応していた常に前向きな姿勢で仕事に取り組むことで、蒲田支店全体に良い刺激や影響を与えていた

片岡支店長の行動を言語化して並べてみて気づいたことですが、これらの行動(上記1〜7)は現実の企業にも当てはまるということです。

先日、コンサルティングで関わったクライアント企業(金融A社)の話ですが、A社では高業績をあげている支店長の職務行動を洗い出し、支店長に求められる行動基準(コンピテンシー)を作成しました。

そのときのコンピテンシーをあらためて見てみると、まさに片岡支店長の行動(上記1〜7)そのものでした。

実際にA社ではそのコンピテンシーをベースに人事制度を作って運用しています。

ただ、A社にとってなによりも大事なことは、そのコンピテンシーを支店長に実行させることです。

実行させるためには自分のこととして強く意識させる必要があり、そのために「360度フィードバックの仕組みを活用してみよう」ということになりました。

360度フィードバックという仕組みは、支店長のコンピテンシーをアンケートの設問(30問)に落とし込んで、それを上司、部下、同僚の複数人に匿名性で回答してもらうのです。

複数人の回答データを集計して本人へ返却することで、対象者自身が気づいていなかった「できている行動」「できていない行動」を認識させて、今後の行動改善につなげてもらうことを目的としています。

この認識を高めるために効果的なのが、個人結果を返却する「フィードバック研修」です。

特に360度フィードバックを初めて受けた人で、しかもプライドが高い管理職のみなさんに結果を「前向きに」受け止めてもらうためには、フィードバック研修という「特別な場」が重要になってきます。

実際にA社で実施したフィードバック研修では、今回の設問(コンピテンシー)がいかに大事であるか、さらには自組織にとってどのような意味があるのかを支店長にしっかり伝えることで理解してもらいました。

そして研修終了後の感想を聞くと、

『自分は行動しているつもりだったが部下には伝わっていなかったことがわかり、このままではマズイと思った』

『今まではできていなかったが、我々に求められている行動が理解できたので、やるべきことが明確になった』

など、様々な葛藤もあったようですが360度フィードバックの結果が大きな刺激になり、多くの支店長が行動改善につなげることができたようです。

その結果、組織の業績も少しずつですが上昇の兆しが出てきているそうです。

360度フィードバックが成功するかどうか、その成功要因の一つに「設問設計」があります。

今回ご紹介したA社のケースは、高業績をあげている支店長の具体的な行動をピックアップしてそれを360度フィードバックアンケートの設問に設定しました。

設問設計には手間がかかりますが、こうするからこそ対象者にとっても回答者にとっても納得感があり、そして結果をフィードバックされても「活用できる」設問になるのです。

360度フィードバック(360度評価)をこれから実施される企業様におきましては、このように設問設計を工夫することで実施効果を最大限に高めていただくことを願っています。

◆令和のはじまりとともに思うこと(組織長の大切な役割とは)

いよいよ「令和」の時代が始まりました。

4月末から今月初旬にかけてさまざまな式典が行われました。

いろいろな思いを持ってご覧になられた読者も多かったのではないでしょうか。

少し前の話になりますが、4月1日に新元号「令和」が発表されて以来、この話をメディアで見ない日はないというぐらい「国民的話題」になりました。

例えば、令和の出典は何か、令和という元号はどこの誰が考えたのか、どんなプロセスで決まったのか、反対したのは誰か、他の5つの候補は何だったのか・・・・等々。

そのようなワイドショー的な話ももちろん面白いのですが、個人的にもっと注目してとりあげ、その意味を考えるべきであると思ったのは、安倍首相による首相談話でした。

「なぜこの令和という元号にしたのか」

「令和という元号にどんな意味を込めたのか」

「この先どんな未来にしたいのか」

といったまさにトップが出すべきメッセージであると思えたからです。

(*お断りしておきますが、政治的な賛成反対の意見を述べるつもりはありませんし、内容についてもこれ以上触れるつもりはありません)

あえてこの話題を取り上げたのは、ビジネスの世界でも、そしてそれが管理職(組織長)クラスの仕事であっても、このように「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」ことは組織をリードする者の最も大事な仕事の1つであると考えるからです。

我々がお客さまに提供している360度フィードバックの設問例でいえば以下のようなものでしょうか。

「自組織の方針や目標を定め、目標実現に向けた戦略を打ち出している」

「組織のありたい姿を自分の言葉でわかりやすく語っている」

(※あくまでも例です。お客さまの課題や強調ポイントによって設問内容や表現は変わります)

しかし、お気づきの方、実際にお悩みの方も多いと思いますが、これらを実行することは簡単なことではありません。

◆なぜ「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」ことはそんなに難しいのか◆

大きく3つの理由があると考えます。

1つめは、「個人任せになっていること」。

多くの組織長にとって、上述したほとんどの行為は組織長になってはじめて行うことであるにもかかわらず、OJTで上司が懇切丁寧に指導してくれるなどということはほとんどなく個人任せであるということです。

(組織長就任前に権限委譲され上司の仕事の一部を担うケースもありますが、多くは後輩指導などの業務に限られ、「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」に類することを任されることはほとんどないように思います)。

2つめは、「忙しいという理由で、後回しにしてしまう(必要性を強くは感じていない)」。

プレイングにそしてマネジメントにと目の前のことに追われるあまり、入社以来慣れ親しんだ「プレイング業務」や、中堅社員時に経験した「メンバー指導」といった業務を優先しがちになるということです。

業務が洪水状態(忙しい)の中で、両方やれと言われれば、やりやすく結果が見えやすい(手の付けやすい)プレイング業務などの比重が無意識的に高まってしまっても不思議ではありません。

3つめは、『方向を指し示し、その意味を語る』『メッセージを浸透させる』とは別のことを要望されていると感じていること」。

組織長になると新任管理職研修において、「『方向を指し示し、その意味を語る』『メッセージを浸透させる』というような行為は組織長の役割・仕事の1つであり、とても重要である」とレクチャーを受けます。

しかし、現場に戻ると“日々の業績を上げなければならない”というあたり前の現実が待っており、経営や部門トップからはむしろ強い業績向上や部下育成要望がなされることがほとんどです。

「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」ことを期待されるケースはあまり聞きません。

◆「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」ことはなぜ大事なのか◆

360度フィードバックを実施しての部下からのフリーコメントには、育成やコミュニケーションを要望する声とともに、以下のようなコメントも多く見受けられるのです。

「組織のありたい姿をメンバー全員に伝える場を設け、業務への動機付けをして頂きたいです。伸び悩んでいる者のモチベーションアップにつながるのでぜひお願いします」

「組織のありたい姿を、もっとメンバーへ伝えていただけると、そのありたい姿を常に思い描きながら仕事ができるのではないかと思います」

「経営や部長の考えをそのまま伝えるのではなくて、○○さん(組織長)の考えや思いを聞かせてほしいです」

このようなメンバーからの声を見ると、「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」という行動は、仕事・役割だからまたはマネジメントの教科書に載っているからするというよりも、メンバーを仕事に動機づける、メンバーに仕事の道筋を示してはたらきやすくする(つまり成果を上げやすくさせる)、そして何より組織長の本気度を示すために必要なのではないでしょうか。

いうまでもなく、このメンバーのための行為は、組織長である自分の成果にも必ずやつながるはずです。

今回は、組織長にとって「方向を指し示し、その意味を語る」「メッセージを浸透させる」ことが大切だと思う理由を書いてみました。

ただ、組織長がせっかく「方向を指し示し、その意味を語り」「メッセージを出し」ても、メンバーに伝わり浸透しているかが重要ですし、組織長としても「本当にわかってくれているかな?」「伝わっているだろうか?」と気がかりになることも多いと思います。

そんな時360度フィードバックは効力を発揮します。

設問への回答やフリーコメントを有効活用することで、組織長のメッセージが伝わっているのか、理解を得られているのかなどを確認・検証できます。

「○○さんが自分の言葉で出してくださる方針のおかげで、迷った時もそこに立ち戻れますし、何より元気になれます。」

こんなコメントをフィードバックされたら組織長冥利に尽きませんか。

◆組織の中からイノベーションを起こすために必要なこと

いま多くの企業では、イノベーションの創出や働き方改革など様々な変革が求められています。

しかし、実際には「新規事業が出てこない」「変わらなければいけないのに変われない」というような声が
聞こえてきます。

先日あるクライアント企業で管理職を対象(被観察者)にして360度フィードバックを実施し、その結果を役員会で報告しました。

対象者全員のデータを集計分析することによって、その組織全体の特徴(強みや課題)が見えてきました。

その企業では、イノベーション創出の源泉ともいえる【創造性】という行動が多くの管理職にとって
発揮できていない状況であり、組織全体の課題として捉えられました。

※【創造性】既存のやり方にとらわれない創造的なアイデアや企画を打ち出している

この結果を受けてクライアントの経営陣からは「うちは新しいことへの取り組みが不得手だから・・」「イノベーションを起こせる会社に変わらなければ・・」といった声が聞かれました。

では、いったいどうすればよいのでしょうか?

そこで360度フィードバックのデータ分析をさらに進めて、対象者に対する周囲からの意見が書かれたフリーコメントに着目してみました。

すると、【創造性】が高い方複数名のフリーコメントを見ていると、高い人の多くに共通して書かれている「ある行動特徴」が見えてきたのです。

それは、「部下が気軽に発言できる雰囲気をつくり、多くのアイデアや意見を引き出している」というマネジメント行動でした。

逆に、【創造性】の低い方のフリーコメントには上記のような行動特徴は見られなかったのです。

これらのことから、創造的なアイデアを打ち出している人は、同時に部下からも多くのアイデアを引き出しているということが推測されます。

おそらく上司は部下のちょっとした思いつきや考えをしっかりと受け止めて、それを活かしながら創造的なアイデアを打ち出していると考えられます。

ここで大事なことは、部下が発言しやすい雰囲気をどのようにつくるかということです。

さらに、【創造性】を発揮するには他にどのような行動が必要なのか、そのヒントを得るために【創造性】を発揮している人複数名に協力してもらい、個別にインタビューすることになりました。

インタビューでは『普段どんなことを意識しているのか』『どんな工夫をしているのか』など【創造性】を高めるための行動のヒントをたくさん聞くことができました。

たとえば、【創造性】を発揮している人たちに 多く見られたこと で「メモをとる」という習慣がありました。

見たこと、聞いたこと、打ち合せや会議など情報が入ってくる全ての場面でメモをとっているのです。

インタビューにご協力いただいたある課長さんは「独自のメモ術」を持っていて、実際にそのメモ帳まで見せてもらいました。

そのメモ帳には、「→(関連性)」「◎△(重要度)」「vs(対立概念)」などの記号と合わせてたくさんのイラストや図も書き込まれており、そのメモを見ながら「独自に考えられたメモ術」をお話いただきました。

このような工夫をして記録メモを取っていれば、次にそのメモを生かして新しいアイデアを練ることが容易になるそうです。

その会社において、【創造性】を生み出す一つの行動として挙げられるのは、アイデアを考えたり思考を深めたりするきっかけをつくるために「メモをとる」ということです。

このようなちょっとした工夫が【創造性】を高めていると考えられます 。

そしてクライアント企業においては、次回の360度フィードバックに向けて、今回のインタビューで得られた「創造性を高めるポイント」を設問項目に盛り込むことになりました。

さらに、360度フィードバックはその設問を回答させることで回答者(全社員)に向けて『創造性を高めるためには、これらの行動が大事だよ』という会社からのメッセージが伝わります。

このように360度フィードバックはその使い方を工夫することによって、組織の課題を発見し、組織強化につなげていくことができるのです。

経済の成熟化や人口の減少にともない、日本の企業が国内で売上を伸ばすための手段としてイノベーションはますます重要になっています。

「新規事業が出てこない」と危機感を持たれている企業は、「360度フィードバック」を上手く活用し、管理職や組織の創造性を高めてイノベーションにつなげることを考えてみてはいかがでしょうか?  

◆マネジャーはどう頭を切り替え、時代に合わせた部下マネジメントをしていくべきか〜DeNA筒香選手の発言から考える〜

最近、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手が、野球界の現状の問題点や未来に向けての提言を連続で行っています。

その中で私が注目したのは、小、中学生のスポーツ指導者向け研修会で発したとされる以下のような発言でした。

「多くの指導者は自分が経験したことばかりを言っていると思う。頭の中がアップデートされていない。時代は明らかに違う。常にアップデートしていかないと、子どもたちの将来は守れない。」

(2019年1月20日18時28分配信 日刊スポーツ電子版より抜粋)

一昔前の野球少年であれば必ず言われていた、

「(打つ時は)ボールは上からたたけ」「(捕る時は)ボールは正面で取れ」などは、

今やプロ野球界で活躍する選手にとっては常識ではなくなっているそうです。

にもかかわらず、自分が経験したことだけをベースに指導、そして押し付ける指導者が多く、そしてそれが今や小中学生にとって、不必要な負荷をかけすぎて成長を阻害していることを危惧したからこそ、筒香選手は声を上げたに違いありません。

ビジネスの世界でも同じようなことは起きています。

マネジャー層を見ると、自身のプレイヤーの頃の成功体験や、自分が上司から受けた指導体験をもとにするだけの部下マネジメントでは、なかなかうまくいかないと感じておられる方や、壁にぶつかっておられる方が非常に多いと感じます。

ここで、少し考えてみていただきたいことがあります。

それは、部下世代(若手)が直面しているビジネス環境、そしてもともと彼・彼女らの育った環境についてです。

実は、現在のマネジャー世代のそれと大きく異なる(全く逆)のです。

ビジネス環境の例
育った環境の例(学校、家庭など)
部下世代(若手)
◆正解が少なく、前例が通用しない。
◆変化が激しく先が読みにくい
→突発的な変動(Volatility)が多く、不確実(Uncertainty)で、複雑(Complexity)かつ曖昧(Ambiguity)なVUCAの時代
◆我慢・無理を求められない
◆失敗経験が多くない
◆親や先生などの大人から厳しく叱られることが少ない
◆テレビゲームなどいろいろな前提が用意されている

このような環境で育った部下世代に対して、自分たちが受けたマネジメントと同じ方法で対処しようという考え方に、そもそも無理がありそうな気がしませんか?

少し乱暴な物言いになりますが、「今の部下の世代(若手)は自分たちとは違う出自の人間なのだ」と「ダイバーシティ」の一種として考え、対応の仕方を丁寧に考える姿勢を持つことが大切なのではないかと思います。

このことは、冒頭の筒香選手の言う「常にアップデート」することに他なりません。

ここで、一点だけ、見落としてはいけない大切なポイントがあります。

若手の社員なら、上司や先輩がいろいろと声をかけてくれたり、丁寧に指導してくれるかもしれません。

しかし、マネジャーには誰も何も言ってくれなくなる傾向があります。

つまり、マネジャーは「アップデートされにくい環境にいる」ということなのです。

一般社員である部下に対しては、自組織の運営、人事に関することなど、話せないことも増えます。

また、マネジャーに遠慮して本音を語らない部下も出てきます。

一方で、上司である部長クラスは管轄範囲が広く、個々のマネジャーの仕事ぶりまで把握できないようなケースも出てきます。

マネジャーたるもの、自分のことは自分で考えて当然という空気も流れることもあり、一般社員の時のような具体的なフィードバックを受けることは滅多にありません。

「マネジャーは孤独である」といわれます。

そして、その孤独にどう打ち克ち(または楽しみ)、前向きに進めばよいのでしょうか。

その一つとしてオススメできるのが「360度フィードバック」の活用です。

得点の高い・低いに一喜一憂するのではなく、

「自分が組織・メンバーに発しているメッセージがきちんと伝わっているか」

「自分の行動の何が認められていて、何がうまくいっていないか」

「自分が力を入れて取り組んだことが、メンバーにはどのように映っているのか」

「メンバーが困っていることは何か、メンバーが自分に期待していることは何か」

などをしっかりと読み取り、そして考えることで、アップデートの大きなヒントとなるのです。

「常にアップデートすること」はとても骨が折れることではありますが、自分を高め、何より組織の力を高めていくためにも、自分自身も頑張らないといけないなと改めて思いました。

ビジネス環境の例

◆名選手が名監督になるためのヒント

プロ野球では、高橋由伸氏(巨人)と金本知憲氏(阪神)が監督を辞任することになりました。

2016年に両氏の監督就任が決まった時、野球解説者の野村克也氏(元プロ野球監督)がこんなことを話していました。

『最近の監督は、手腕ではなく、人気取りだけで選ばれているように思えてならない。

特に今回の人事は、スター選手を監督に据えれば観客も入るだろうという、安直な考えがどうしても透けて見えてくる。

スポーツの世界では「名選手が必ずしも名監督にはならない」と言われている。

私の経験から言わせてもらえば、スター選手はその才能からデータを必要とせず、細かいチームプレーとも関係なくやってきた者が多いため、いざ監督になったら緻密な野球ができない。

そればかりか、その必要性や重要性をまるで理解しようとしない。そのため有効な作戦が立てられないし、相手の作戦を読むこともできない。

そしてもう一つ致命的なことがある。スター選手は自分ができたことは、皆もできると思い込んでしまっている。

それを言葉に発してしまう。「なんでこんなこともできないんだ!」という言葉が、どれだけ選手を傷つけるか。

彼らは思ったことは何でもできてしまうから苦労を知らず、そのため普通の選手の気持ちや痛みがわからない。

自分のレベルで選手を見るためにうまく指導ができず、言葉より感覚を重視してしまいがちなのだ。

高橋や金本も、スター街道を歩んできた選手なので、先輩たちと同じ轍を踏んでしまわないだろうかと気になっている。』

“ 名選手、必ずしも名監督にあらず ”

この格言はスポーツの世界だけでなく、ビジネスの世界でも同じことが言えると思いますし、実際にそう感じている読者も相当数おられるでしょう。

プレーヤーとして高業績をあげてきた人が、優れた管理職になっているかというと、必ずしも ”そうではない” ということです。

若くして管理職になった(昇進が早い)人ほど部下のマネジメントがうまくできない傾向があるように思います。

とくに多いのは「部下に仕事を任せられない」ということです。

仕事をうまく任せられない人には、プレーヤー時代に華々しい活躍をしてきた人が多いという特徴があります。

プレーヤーとしてバリバリ実務をこなしてきた人は、たいていの仕事は自分でしてきたので、人に仕事を任せるということに慣れていないのかもしれません。

研修参加者(管理職)に「なぜ仕事を任せることができないのか」訊いてみました。

すると、最近の管理職には、これまでにはそれほど聞かれなかったキーワードが出てくることが特徴とも言えます。

それは『働き方改革に伴う業務時間の削減』や『効率性の追求』といったことです。

◆「自分でやった方が良い結果が出る」「任せたら失敗するのではないか」と思っている。

自分より経験が浅く知識やスキルも少ない部下に仕事を任せると、よい結果が出ないのではないかと心配しているのです。

自分の能力に自信がある優秀なプレーヤーだった人ほど「自分でやった方が効率的で早く終わるし、仕事のレベルも高く良い結果になる」という思いが強くなるようです。

優秀であるがゆえに部下が自分よりも劣っているように見えてしまい、「部下に任せていたら組織の成果は上がらない」と考えてしまうのです。

そして、働き方改革で部下の勤務時間に制限があるので、結局上司自らが残業してやってしまうのです。

◆「部下に嫌われたくない」と思っている。「部下に配慮しているつもり」になっている。

上司は任せたいと思っていても、部下の忙しい状況を見ると「苦労させたくない」「これ以上仕事を頼んだら部下は嫌がるだろう」と考えてしまうようです。

しかし、対象者の360度フィードバック結果を見ると、次のようなコメントが書かれていました。

『課長(上司)は仕事を抱え込まないで、もっと私たち(部下)に任せてください。

私たちはその仕事でもっと成長したいと思っています。

課長には、課長にしかできない全体設計やビジョン出しにもっと力を注いでいただきたいです。』

上司としては部下のことを気づかい、よかれと思ってやったのですが、じつは部下の受けとめ方は違っていたというケースがよくあります。

◆「部下のミスを回避して楽をしたい」と考えている。

部下に仕事を任せると教えるのに時間がかかり、部下が失敗した時には上司がフォローする必要があります。

また、自分が指示した内容とは違う結果になってしまうこともよくあり、上司がそのことを注意したら不機嫌になる部下もいるようです。

さらに、任せた仕事は上司としての責任が重くなるので、自分一人でやった方が作業的にも精神的にも楽であるということです。

一方で仕事をうまく任せている上司もいます。

そこで、「なぜ仕事をうまく任せることができているのか」訊いてみると次のような回答が多く聞かれました。

「仕事を任せて機会を与えないと部下は成長しないと思う」

「自分が若手の時そうしてもらったので、最初は大変でも成長することを思ってそうしている」

「うまく任せると、最終的には組織の成果につながることがわかった」

うまく任せている上司に共通しているのは、「業績の向上だけでなく、部下の成長も同時に実現することを考えた上で、部下を信頼して任せている」ということです。

そして部下は仕事を任されることで上司を信頼し、ますます意欲的に仕事に取り組んで、良い結果を出しているのだと思います。

とはいえ、部下に任せることに対してリスクを感じて躊躇する方も少なくないでしょう。

そんな時は、自分自身がまだ成長途中にあった若い頃のことを思い出してみましょう。

「自分はどんな時に成長したのか?」

「任された後、上司のどんな支援が嬉しかったのか?」

「任された仕事をやりきるために、上司に対してどんなことを期待していたのか?」

部下に任せることは勇気がいることです。

しかし、それを恐れて任せることなく、自分が仕事をやり続けるとどうなるでしょうか?

「任せること」は、部下の成長のみならず、上司自身の成長の機会でもあります。

部下に任せたつもりになっていないか? 部下の成長につながる任せ方になっているのか?

これを都度確認しながら、自分の任せ方を修正していくことが大事です。

その確認と修正(改善)のためには、部下の思いや考えを吸い上げる仕組み(360度フィードバック)を活用すると効果的です。

仕事をうまく任せることによって上司と部下の信頼関係ができ、それが部下の成長につながります。

そして部下が成長することによって、組織の高業績を実現することができるでしょう。

◆組織の成功循環モデル

最近、「360度フィードバックを導入したい」というお問い合わせが以前より多くなってきたと感じています。

人材の確保が難しくなり、限られた人員で仕事を進め成果を出さなければならない状態の中、若手の早期離職や社員のメンタル不全といった問題も顕著になってきており、人事担当者様もこれまで以上に対応を迫られています。

このような状況の中、人事担当者様は「問題の原因となっているものは何なのか」「管理職はちゃんと部下マネジメントができているのか」「誰もが自由に意見を言い合える組織を作るためにどうすれば良いのか」といった思いを持ち、360度フィードバックを有効活用できないかと考えられるようです。

「360度フィードバックを導入したい」というお問い合わせに対して、実施目的を踏まえながら実施メリット、注意・工夫すべきことなどを説明すると、多くの企業・組織の人事担当者様が「やはり良いですね。導入してみたいです。」というような反応を示されます。

ただ、その反応の後で次のような発言もされることが少なからずあります。

「社長はじめ経営層に諮ると『360度フィードバックを実施すると収益が上がるのか?』と問われる。我々人事担当はぜひ実施してみたいが、社長・経営層がOKしてくれるかどうか…」

確かに経営層の皆様にとって最優先に考えるべきことは会社の収益です。

組織や人に関する施策がもちろん大事だとは分かっていても、収益の方に目が行ってしまうのはある程度仕方がないことと言わざるを得ません。

経営層が「また人事が新しい施策を提言してきたが、これまでにも従業員満足度調査や管理職研修をやっている。

それと何が違うのか。本当に実施するメリットがあるのか信用できない。」というように考えることも否定できません。

このような際に参考として紹介しているのが、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」です。

人と人の関係性を良くしていくことを大事にすると最終的には組織として良い成果を生み出し、それが更に関係性に良い影響を与えていく。

その一方で、結果出すことのみを求めて人に接すると、良い成果を生み出さないという考え方です。

良い流れ(グッドサイクル)をマネジメントに置き換えてみると次のようになります。

①部下を信用し、部下の意見や考えを尊重し一緒に考えるようにすると

②部下は新しい気づきがあり、仕事を面白いと感じるようになります。

③仕事が面白くなると、部下は自分で考え行動することに繋がります。

④部下が前向きに取り組むと良い結果を生むようになります。

この流れで結果が出たことに部下は喜びを感じ、上司への信頼度が向上します。信頼する上司が更に高い要求をしても、これまでに良い結果が出たため前向きに受け止めようとします。

一方で良くない流れ(バッドサイクル)もマネジメントに置き換えてみましょう。

①上司が部下に対して目的やメリットを伝えず、結果を出すことのみを求めます。

②部下は上司から一方的に指示されたと感じます。

③上司の指示に従って仕事に取り組みますが楽しく前向きにはなれません。

④言われたことはしっかりやりますが、それ以外のことまではやろうとしません。

そうなると最低限の結果しかうまれない可能性が高くなります。そしてこの流れが続くと上司と部下の関係は良くない状態となり、引き続き組織として結果(成果)も出ない状況となります。

仕事である以上「結果の質」を上げることが最も大事であることは間違いありません。

ただ、「結果の質」のみを部下に強く求めるとその時は最低限の結果を出そうとするかもしれませんが、中長期的に部下が自発的に「結果の質」を向上させていこうとする組織にはなりません。

「関係の質」、言い換えれば上司と部下の関係性を良いものにしていくことこそが、中長期的に見ると組織として「結果の質」を向上させていくことになります。

360度フィードバックを導入してもすぐに会社の収益が上がるようになるわけではありません。

大事なことは360度フィードバックの結果をどう使っていくかです。

結果を見ることで上司は部下の思いや考えを知ることができます。

そして部下に対してどんな言葉をかければ良いか、どんな時相談に乗れば良いか、どんな指示やアドバイスをすれば良いかを考え行動に移してみます。

それに対する部下の反応をみて、また考えて行動して繋げていくという繰り返しが大事です。

こう書くととてもたいへんなことのように感じる方がおられるかもしれませんが、ほんの些細な行動を部下は気づいてくれます。

小さな歩みを積み重ねていくことで風通しの良い強い組織形成に繋がり、それが組織としての利益を生むはずです。

このように360度フィードバックの結果を使って部下の思いや考えを知ると、関係性の質を高めてグッドサイクル構築に役立ちます。

つい近道をして結果を求めるより、中長期的な視野をもって上司と部下の関係性を高めていくことこそ、組織としての成果を良くしていく方法なのです。

最近、「360度フィードバックを導入したい」というお問い合わせが以前より多くなってきたと感じています。
人材の確保が難しくなり、限られた人員で仕事を進め成果を出さなければならない状態の中、若手の早期離職や社員のメンタル不全といった問題も顕著になってきており、人事担当者様もこれまで以上に対応を迫られています。
このような状況の中、人事担当者様は「問題の原因となっているものは何なのか」「管理職はちゃんと部下マネジメントができているのか」「誰もが自由に意見を言い合える組織を作るためにどうすれば良いのか」といった思いを持ち、360度フィードバックを有効活用できないかと考えられるようです。
「360度フィードバックを導入したい」というお問い合わせに対して、実施目的を踏まえながら実施メリット、注意・工夫すべきことなどを説明すると、多くの企業・組織の人事担当者様が「やはり良いですね。導入してみたいです。」というような反応を示されます。
ただ、その反応の後で次のような発言もされることが少なからずあります。
「社長はじめ経営層に諮ると『360度フィードバックを実施すると収益が上がるのか?』と問われる。我々人事担当はぜひ実施してみたいが、社長・経営層がOKしてくれるかどうか…」
確かに経営層の皆様にとって最優先に考えるべきことは会社の収益です。組織や人に関する施策がもちろん大事だとは分かっていても、収益の方に目が行ってしまうのはある程度仕方がないことと言わざるを得ません。
経営層が「また人事が新しい施策を提言してきたが、これまでにも従業員満足度調査や管理職研修をやっている。それと何が違うのか。本当に実施するメリットがあるのか信用できない。」というように考えることも否定できません。
このような際に参考として紹介しているのが、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」です。
人と人の関係性を良くしていくことを大事にすると最終的には組織として良い成果を生み出し、それが更に関係性に良い影響を与えていく。その一方で、結果出すことのみを求めて人に接すると、良い成果を生み出さないという考え方です。
良い流れ(グッドサイクル)をマネジメントに置き換えてみると次のようになります。
①部下を信用し、部下の意見や考えを尊重し一緒に考えるようにすると
②部下は新しい気づきがあり、仕事を面白いと感じるようになります。
③仕事が面白くなると、部下は自分で考え行動することに繋がります。
④部下が前向きに取り組むと良い結果を生むようになります。
この流れで結果が出たことに部下は喜びを感じ、上司への信頼度が向上します。信頼する上司が更に高い要求をしても、これまでに良い結果が出たため前向きに受け止めようとします。
一方で良くない流れ(バッドサイクル)もマネジメントに置き換えてみましょう。
①上司が部下に対して目的やメリットを伝えず、結果を出すことのみを求めます。
②部下は上司から一方的に指示されたと感じます。
③上司の指示に従って仕事に取り組みますが楽しく前向きにはなれません。
④言われたことはしっかりやりますが、それ以外のことまではやろうとしません。
そうなると最低限の結果しかうまれない可能性が高くなります。そしてこの流れが続くと上司と部下の関係は良くない状態となり、引き続き組織として結果(成果)も出ない状況となります。
仕事である以上「結果の質」を上げることが最も大事であることは間違いありません。
ただ、「結果の質」のみを部下に強く求めるとその時は最低限の結果を出そうとするかもしれませんが、中長期的に部下が自発的に「結果の質」を向上させていこうとする組織にはなりません。
「関係の質」、言い換えれば上司と部下の関係性を良いものにしていくことこそが、中長期的に見ると組織として「結果の質」を向上させていくことになります。
360度フィードバックを導入してもすぐに会社の収益が上がるようになるわけではありません。
大事なことは360度フィードバックの結果をどう使っていくかです。
結果を見ることで上司は部下の思いや考えを知ることができます。
そして部下に対してどんな言葉をかければ良いか、どんな時相談に乗れば良いか、どんな指示やアドバイスをすれば良いかを考え行動に移してみます。
それに対する部下の反応をみて、また考えて行動して繋げていくという繰り返しが大事です。
こう書くととてもたいへんなことのように感じる方がおられるかもしれませんが、ほんの些細な行動を部下は気づいてくれます。
小さな歩みを積み重ねていくことで風通しの良い強い組織形成に繋がり、それが組織としての利益を生むはずです。
このように360度フィードバックの結果を使って部下の思いや考えを知ると、関係性の質を高めてグッドサイクル構築に役立ちます。
つい近道をして結果を求めるより、中長期的な視野をもって上司と部下の関係性を高めていくことこそ、組織としての成果を良くしていく方法なのです。

◆360度フィードバックの効果を高める実施後施策〜職場報告会〜

前回のコラムの最後で「職場報告会」について書きました。

前回のコラムはこちら

「◆「場の設定」をどのように工夫するのか? 〜360度フィードバックの実施効果を高める結果返却」

その後、いくつかお問い合わせもいただき、みなさまの関心の深さを感じていました。

そんな中、ある実施企業さまから「フィードバック研修後に職場報告会を実施して『良い機会になった』という人がいます」という話を聞きましたので、お願いしてその方(Aさん)にインタビューさせていただきました。

今回はその内容をご紹介します。

【Aさんのお話】

〜フィードバック研修で結果を配付されて、見た時は正直落ち込みました。

得点もフリーコメントも予想よりひどかったです。

すぐに片づけてしまいたかったですが、研修なので仕方なく、指示に従って10分以上結果を眺めたり、特に他者回答値が低い部分をマークしたり・・・。

講師からも「まずは今日だけでも、人のせいにしないで、自分に原因があると思って考えてみてください」と言われたので、そうやって考えてみました。

そうすると、メンバーの顔が浮かんできて、

「なんでこんなふうに思わせてるのかなあ? みんな思ってるのかなあ? 自分のどんな行動が影響しているのかなあ?」

とか、いろいろ想像するけど、もちろんはっきりしたことはわからない。

「そういう場合は、職場報告会で、結果を見て考えた自分の課題やその原因を素直に伝えてみると良いですよ」

と講師に教えてもらったので、思い切って自分の考えを話して、みんなの考えも聞いてみることにしました。

職場に戻って報告会をやってみました。

忙しい中、回答してくれたこと・コメントをくれたことへの感謝、

自分が結果をどう受けとめたか、

理解できたことは何で、受けとめきれていないことは何か、

自分の行動の特徴やそのような行動の特徴が出る背景やベースにある考え方は何か

などを、部下からの聞くためにも、まずは自分の考えを丁寧に一生懸命伝えました。

そうしたら、意外だったんですが、いつもはあまり言わないメンバーから、ぼそぼそと声が少しずつ出ました。

「新しい業務・チームとはコミュニケーションが多いが、自分たちには目が全然向けてもらえない」

「他部署と何を話しているのかもっと伝えてほしい」

などの要望が遠慮がちながらも聞けたんです。

私としては、忙しいメンバーに負担をできるだけかけないように・・・・というつもりだったのが、メンバーからするとコミュニケーションや情報が少なくて不安だったんですね。

途中で、

「今日はみんないろいろ話してくれるけど(いつもはあんまり言わない気がするけど)なんでなの」と聞いてみると、

「それは、Aさんが自分の気持ちを正直に話してくれたからですよ」

「私たちだって、話した方がいいと思っているけど、今まではなんか近寄りがたかったんですよね。でも、今日、一生懸命、みんなの声を受けとめようとしているAさんを見て、『話しても大丈夫かな』という気持ちになったんです」

と言われて、はっとするやら、今までの自分のコミュニケーションの仕方を申し訳ないと思うやら。

私も改めて、

「一時的に、新しいチームに手がかかっているが、決して目を向けていないわけではなく、むしろ自立走行できるチームとしての期待値が高いこと」

「思うことがあれば、ちゃんと聞くので遠慮せずに伝えてほしいこと。自分はメンバーと話し合ってよい組織を・良い仕事を創っていきたいこと』

を伝えました。

一連の流れを通して、距離感が縮まりました。すごく良かったです。

正直はじめての経験でした。〜

Aさんがメンバーの声を受けとめ(わからないことはわからないと伝え)る姿勢を示したことが、コミュニケーションの変化の出発点だったと思えます。

360度フィードバックに回答した部下や周囲は、

「あの人はどのように感じているだろうか」

「きちんと受けとめてくれるだろうか」

「ちゃんと伝わるといいけどなあ」

など期待や心配をしながら、フィードバック後の上司の一挙手一投足に注目しています。

もちろん、最終的には発言や行動で部下や周囲の期待に応えていくべきです。

ですが、まずはこのような職場報告会を出発点として、期待をすりあわせ不安を払拭するといったコミュニケーションを行うと、両者の関係性は良くなっていく可能性が高いです。

また、このAさんの職場報告会は、実は部下のみなさんも、「Aさんについて考えることを通じて、組織について考える」ということにつながっています。

つまり、組織の一員としての『当事者意識』を持つことにもつながるということです。

このように、「職場報告会」は単に研修の報告を行い、対象者の行動変容を促すだけのものではありません。

この「場」を通じて、職場のコミュニケーションが活性化につながる事例も少なくないのです。

Aさんのお話を通して、「360度フィードバックによる職場報告会」は、組織開発の有効な手法であることをあらためて認識した次第です。

◆「場の設定」をどのように工夫するのか? 〜360度フィードバックの実施効果を高める結果返却〜

これまでのコラムでも紹介していますが、360度フィードバックの導入を成功させるためには、「結果返却」は最も重要なプロセスの一つであると断言できます。

しかし時間や費用の制約からか、「イントラネットから対象者本人が結果をダウンロードする」ケースがそれなりにあります。

ただこのケース。必ずしもうまくいっていない会社が多いようです。

それは、結果への向き合い方・結果の活用度が、どうしても個人に依存し、「本当に結果を見て気づいて欲しい人に限って、結果をしっかり見ていない・活用していない」ということが起こりうるからです。

最初は誰でも自分の結果を見るのは怖いものです。

また、そもそも、360度フィードバックという手法に対して不安や疑念も大きいでしょう。

そんな中で、ダウンロードした結果が、一見して「自分の想像以上にひどいもの」に見えたり、「コメントも少なくて特徴がない」ように見えたら、さっと結果を見てフォルダーの奥底にしまいこんでしまうというようなことがあっても何ら不思議はありません。

そのために、「結果返却」をいかに工夫するのかが、成否の分かれ道でもあります。

その中でここ数年、特に感じているのは「場」をどのようにつくるのかということです。

「場」のつくり方によっては、対象者にとっての「気づきの効果」を高めるだけでなく、360度フィードバックの新たな可能性も生み出していきます。

「場」とは、何か?

代表的な「場」としては、これまでのコラムでも何度も取り上げたフィードバック研修が挙げられるでしょう。

「自身の結果に向き合い、現状に気づいた後に行動すべきことを決める機会」であるとも言えるでしょう。

フィードバック研修のように積極的な結果返却の機会を設けるのは、人事・事務局の皆さまからみると相当な労力に映るかもしれません。

一方で、このフィードバック研修は、対象者の360度フィードバックへの不安・疑念も取り除け、さらに自身の結果に向き合える貴重な機会ということもあり、実は満足度がかなり高いのも特徴です。

「360度フィードバックの結果に向き合う場を設けることは、『むしろ』手間をかける価値がある施策である」とも断言でき、「360度フィードバックは、『工夫を加えることで組織全体を変えていく力』を秘めているもの」とも言えるでしょう。

最近、工夫として考えていることの一つに「場」の足し算ということがあります。

「場」の代表格でもある“フィードバック研修”に、異なる「場」を加えるのです。

加える「場」としては、「職場報告会」、「個人面談」などがあるでしょう。

以下に、「職場報告会」について、その一部を紹介しましょう。

これは、その名の通り、フィードバック研修後、職場に戻り結果の報告会を行うというものです。

最近、弊社でも実施の支援を行うことも増えています。

目的は、以下の通りです。

①フィードバック研修などで考えた、結果を自分としてはどうとらえたか(納得感のあるところ、まだ受けとめきれないところ)や、今後の行動目標を周囲と共有することで、これからの自分の行動を職場メンバーに支援してもらう

②何よりも、忙しい時間を割いて回答してくれた上司や仲間に感謝の気持ちを伝える

「職場報告会」は単に研修の報告を行い、対象者の行動変容を促すだけのものではありません。

この「場」を通じて、職場のコミュニケーションが活性化につながる事例も少なくないのです。

「360度フィードバックによる職場報告会」は、組織開発の有効な手法であるとも言えるのです。

「たかが360度フィードバック」ですが「されど360度フィードバック」。

このツールの価値の広がりをご提供できる仕事を今後もしていきたいと思った秋の夜長でした。

◆マネジメントにおける“真実の瞬間”

今年の夏休み、旅行や里帰りをした方も多いと思いますが「飛行機で旅行した」という話を聞く度にある新聞記事のことを思い出します。

ネットでも話題になったことがあるので、すでに読まれた方もいるかもしれませんが以下の記事です。

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 半世紀以上も連れ添った妻に先立たれた、横浜市の知人男性からこんな話を聞いた。

 男性は葬儀を終えた後、故郷である佐賀県唐津市の寺に納骨するため、羽田空港から空路、九州へと向かった。

 遺骨を機内に持ち込めることは知っていた。

 でも入れたバッグがかなり大きく、念のため搭乗手続きの際に中身を伝えた。

 機内に乗り込み、上の棚にバッグを入れて席に着くと、客室乗務員がやって来てこう言った。

 『隣の席を空けております。お連れ様はどちらですか?』

 搭乗手続きで言ったことが機内に伝わっていたのだ。

 男性が『ああ、上の棚です』と説明すると、乗務員はバッグごと下ろしてシートベルトを締めてくれた。

 飛行中には『お連れ様の分です』と飲み物も出してくれたという。

 『最後に2人でいい“旅行”ができた』と男性。

 その表情を見ていたら、こちらも温かい気持ちになった。(鎌田浩二)

 ※2017年7月13日付 西日本新聞 朝刊【デスク日記】より

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この記事を読んだ時、これはまさに「真実の瞬間」の出来事だと感じました。

皆さんは、この「真実の瞬間」という言葉をご存知ですか?

「真実の瞬間」は、英語では「Moment of Truth」というマーケティング用語で、「消費行動における重要な顧客接点」のことを意味します。

これはスカンジナビア航空のヤン・カールソン社長(当時)によって1990年に発刊された書籍『真実の瞬間』の中で書かれている経営革新における重要なキーワードです。

同社は、年間1,000万人の旅客が飛行機に乗り、その中で平均5人の乗務員に約15秒ずつ接する機会があることを明らかにし、その旅客と接する15秒間で、競合他社と異なるブランド体験を提供することができれば、他社と明確な差別化ができると判断しました。

顧客と接するこの15秒間を「真実の瞬間」とし、それまでの上意下達の組織風土を変えて、現場への権限委譲をすることで、顧客視点でのサービスを提供する経営方針へと大きく転換することに成功しました。

スカンジナビア航空の話は30年以上前のものではありますが、ヤン・カールソン社長が実行した数々の施策は現在でも全世界の航空会社や経営者の間で語り継がれているそうです。

この「真実の瞬間」は今では顧客満足度を高めるためのサービスマネジメントの考え方として浸透していますが、少し視点を変えれば、組織における人材マネジメントを考えるときのヒントになります。

つまり、従業員満足度を高めるための部下マネジメントにおいて「真実の瞬間」とは、上司と部下の重要な接点のことだといえます。

では、「上司と部下の重要な接点」とは、いったいどんな場面なのでしょうか?

ある企業で実施した「360度フィードバック」では、部下から上司に対して以下のようなコメントがありました。

 『私が仕事で大きなミスをして落ち込んでいたら、上司から声をかけてもらい
  解決策をいっしょになって考えてもらえた時はとても嬉しかった。 』

 『昨年から営業部門へ配属になり、慣れない新規顧客開拓に全力で取り組んでいましたが、
  まったく受注できなかったのでモチベーションが下がりとても苦しい状態でした。

  そんな時に、私がいま自主的に取り組んでいる職場環境改善のための地道な活動に対して、  上司から「ありがとう」「よくがんばっているね」と温かい言葉をかけてもらえました。

  まさかそんなところまで見ているとは思ってもいなかったので、とても嬉しい気持ちになり、  これからも頑張ろうと思いました。 』

これらのコメントからは、部下が困っている時に声をかける、注目されない仕事への取り組みに感謝する、そういった上司の行動が部下の意識や感情を高めていることが伝わってきます。

まさにこのような場面は上司と部下の重要な接点であり、「真実の瞬間」といえるのではないでしょうか。

マネジメントにおける「真実の瞬間」は、日常の職場の中に存在しています。

そして、そのような「真実の瞬間」における上司のちょっとした一言が与える影響は極めて大きいものです。

この一瞬、一瞬のマネジメント行動が、部下の仕事のパフォーマンスに大きく影響しているのです。

自組織のなかで「真実の瞬間」は、どんな場面で生じているのか?

「真実の瞬間」を見つけるためには、まずは部下の立場になって部下の仕事ぶりを見ることが大事です。

例えば、
「部下は今どんなことを考えながら仕事に取り組んでいるのだろうか」
「仕事の進捗は計画通りに進んでいるだろうか」
「協働者とのコミュニケーションで困っていることはないか」
「この仕事で部下はどんな成長を感じているだろうか」

その時の部下の気持ちを考えながら見てあげるのです。

そして上司はそれらをしっかり踏まえて、適切なマネジメントを行うことで部下のモチベーションは向上し、組織の業績は確実に高まっていくでしょう。

◆「若い頃に上司から怒られて成長した」?

弊社の360度フィードバックを導入されている企業様で研修を実施した際、受講されている管理職の方から次のような意見を聞くことが少なからずあります。

「自分は何度も怒られて成長した。だから部下にも同じようにした方が良いと思っている」

「部下を育てるためには、ダメなところを何度も指摘して改善させないといけない」

これらは決して部下を嫌っているわけではなく、部下のことを大切に思う気持ちから出てくるものであると思います。

ハーバード・ビジネス・レビューの2018年7月号に、「NEGATIVE FEEDBACK RARELY LEADS TO IMPROVEMENT」という興味深い記事が掲載されていました。

透明性の高いピアレビュー・プロセス(例えば制作された成果物に対して、同僚やチームメンバーから評価されるような制度)を導入している会社の現場データを分析すると、「批判的な評価を受けた社員は、もっと良い評価をしてくれそうな人の近くで仕事をするように行動を起こす」という結果が出たというものでした。

ネガティブな評価を受け取ると、人はその評価をした人から離れ新しい人間関係を作ろうとするそうです。

話を冒頭部分に戻します。

若手社員が何度も怒られる(ネガティブな評価をされる)とどう感じるでしょうか。

「なんでそんなに怒鳴られないといけないのだろうか」

「欠点ばかり指摘して何の意味があるのだろうか」

「私のことなど全く大事に考えていないのだろう」

実はこんな気持ちになっている人が少なからずいます。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、「批判的な評価を受けると人は離れていこうとしてしまう」と書いています。

すべてがそうだとは言いきれませんが、少なくとも部下の行動や考えを否定ばかりしていると、部下の気持ちは離れていくでしょう。

なぜなら、部下は上司に対する信頼感が低下し、上司は「この部下は何で自分の思いを理解してくれないんだ」と考えるようになり、上司と部下の思いや考えがすれ違ってくるからです。

360度フィードバックの研修で、受講されている管理職の方に感想をお聞きすると、多くの方はこのこと(部下とのすれ違い)に悩んでおられます。

では、部下を褒めたり持ち上げたりすれば良いのでしょうか。

もちろん、褒めるだけではこの問題を解決することはできません。

大事なことは、管理職の指導や言動を部下がどう受け止めているかということです。

部下の状況を確認する最も効果的なツールが360度フィードバックです。

360度フィードバックを導入されている企業様の結果を分析すると、上司のマネジメントに対して部下の意見や思いは本当に多くあることが分かります。

部下一人ひとりの性格や考え方、上司の指導の受け止め方は異なるのです。

もちろん360度フィードバックは匿名性を担保していますので、具体的に誰が何を言っているということまでは分かりませんが、360度フィードバックの結果を見ることで自分のマネジメントがどのように受け止められているのか、また部下によっても感じ方が違っているということがある程度見えてきます。

管理職の方には、360度フィードバックの結果を見て、今の自分の部下への接し方を見直したり工夫したりすることをお勧めします。

自らの経験や思い込みで誤った指摘やただ怒っているだけと受け止められるようなマネジメントをしていないか、振り返って欲しいのです。

部下一人ひとりを考慮した指導の大切さに気づいていただけると思います。

弊社の360度フィードバックを導入されている企業様で研修を実施した際、受講されている管理職の方から次のような意見を聞くことが少なからずあります。
「自分は何度も怒られて成長した。だから部下にも同じようにした方が良いと思っている」
「部下を育てるためには、ダメなところを何度も指摘して改善させないといけない」
これらは決して部下を嫌っているわけではなく、部下のことを大切に思う気持ちから出てくるものであると思います。
ハーバード・ビジネス・レビューの2018年7月号に、「NEGATIVE FEEDBACK RARELY LEADS TO IMPROVEMENT」という興味深い記事が掲載されていました。
透明性の高いピアレビュー・プロセス(例えば制作された成果物に対して、同僚やチームメンバーから評価されるような制度)を導入している会社の現場データを分析すると、「批判的な評価を受けた社員は、もっと良い評価をしてくれそうな人の近くで仕事をするように行動を起こす」という結果が出たというものでした。
ネガティブな評価を受け取ると、人はその評価をした人から離れ新しい人間関係を作ろうとするそうです。
話を冒頭部分に戻します。
若手社員が何度も怒られる(ネガティブな評価をされる)とどう感じるでしょうか。
「なんでそんなに怒鳴られないといけないのだろうか」
「欠点ばかり指摘して何の意味があるのだろうか」
「私のことなど全く大事に考えていないのだろう」
実はこんな気持ちになっている人が少なからずいます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、「批判的な評価を受けると人は離れていこうとしてしまう」と書いています。すべてがそうだとは言いきれませんが、少なくとも部下の行動や考えを否定ばかりしていると、部下の気持ちは離れていくでしょう。
なぜなら、部下は上司に対する信頼感が低下し、上司は「この部下は何で自分の思いを理解してくれないんだ」と考えるようになり、上司と部下の思いや考えがすれ違ってくるからです。
360度フィードバックの研修で、受講されている管理職の方に感想をお聞きすると、多くの方はこのこと(部下とのすれ違い)に悩んでおられます。
では、部下を褒めたり持ち上げたりすれば良いのでしょうか。
もちろん、褒めるだけではこの問題を解決することはできません。
大事なことは、管理職の指導や言動を部下がどう受け止めているかということです。
部下の状況を確認する最も効果的なツールが360度フィードバックです。
360度フィードバックを導入されている企業様の結果を分析すると、上司のマネジメントに対して部下の意見や思いは本当に多くあることが分かります。
部下一人ひとりの性格や考え方、上司の指導の受け止め方は異なるのです。
もちろん360度フィードバックは匿名性を担保していますので、具体的に誰が何を言っているということまでは分かりませんが、360度フィードバックの結果を見ることで自分のマネジメントがどのように受け止められているのか、また部下によっても感じ方が違っているということがある程度見えてきます。
管理職の方には、360度フィードバックの結果を見て、今の自分の部下への接し方を見直したり工夫したりすることをお勧めします。自らの経験や思い込みで誤った指摘やただ怒っているだけと受け止められるようなマネジメントをしていないか、振り返って欲しいのです。部下一人ひとりを考慮した指導の大切さに気づいていただけると思います。

◆「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」(後編)

はじめに

本コラムでは、「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」という人事担当者からのご質問に対して、解決に向けて一緒にどのように考えたのかを記しています。

前編はこちらからご覧ください

■本当に解決すべきことは何か

最初に、人事担当者に、「回答者がコメントをあまり記入しない理由(仮説)」を考えていただきました。

以下が最終的にまとまったものです。

①反応が怖い、あとで誰が書いたのか追及されるかもしれない(犯人は誰だ)
②書いても対象者の行動が変わるように思えない。良くなるような気がしない
③そもそも対象者に無関心。興味がない
④書いても自分たち(回答者)の得にならない(時間を使って、パワーをかけて書いても報われない)

これらの理由から、回答者が「安心してコメントを書ける」、そして「コメントを書く価値や意味を感じる」状況でないと、コメントは書かれないということがわかります。

①〜③は多くの企業に共通する部分で、そのため、いろいろな対策を打っておられます。

以下はその一例です。

【趣旨説明を丁寧に】

実施前の説明会やフィードバック研修などで、実施の目的を丁寧に説明する。

【回答者が特定されにくい書き方の提示】

個人特徴の出にくい書き方の例示等。

【駆け込み寺の設置】

万が一、上司からの不適切な追及などがあった場合に、相談できる機関の設置とその広報(対象者への追及行動の抑止にもなる)を行う。

上記ももちろん大切なのですが、「④書いても自分たち(回答者)の得にならない」こそ、大きな意味があり、しっかりと手を打つべきであると考えます。

これまでのコンサルティング経験から、多くの企業では、360度フィードバックへの回答を求められた時など(場合によっては研修でのアドバイスシートへの記入なども)、④のように「これを書くことが、最終的には自分の嬉しさや自分の得につながる」などとは思えていないことがほとんどです。

逆に考えてみると、コメントを書くことが「自分にとっても役に立つこと、嬉しいこと」と感じさせる工夫ができれば、回答者の回答マインドもずいぶん変わるのではないかと思うのです。

■回答者にとっての嬉しさにつながるようにするには

このお客様では以下のようなコンセプトを打ち出し、それに沿った施策にしました。

<施策コンセプト>

「360度フィードバックは、対象者の成長を組織全体で支援するプログラム。対象者の成長によって組織風土がよくなり、ひいては組織メンバーの働きがいや働きやすさにつながる」

◆全社総会を利用して、社長・人事部長から上記を具体的に説明。会社の本気度を伝える

◆あわせて、回答開始の3か月前には、誰に対して回答するのか、どんな設問なのかを開示し、対象者の仕事ぶり(良いところも含めて)に注目しておくように依頼

◆どのように結果が対象者にフィードバックされるのか、報告書フォームを開示したり、書いた人が特定されないコメントの書き方のレクチャーを行い、安心感を高める

◆対象者は、フィードバック研修で結果が返却された後に、以下を行うことを約束とする

・職場に戻ってメンバーに、回答してくれたことのお礼と率直な感想を述べる

・結果をもとに、これからどのように成長していきたいかを表明する

■はたしてコメントは増えたのか、嬉しさにつながったのか

このお客様では、360度フィードバックの実施1か月後に、対象者のみならず、回答者にもアンケートを取りました。

(抜粋)

Q.今回の360度フィードバックの主旨を理解して回答できましたか

はい  75%

Q.コメントは率直に書けましたか

はい 83%

Q.対象者に何らかの変化は感じますか

はい 67%

Q.組織のコミュニケーション等に何らかの変化(の兆し)を感じますか

はい 63%

コメントは必須回答にしたこともあり、量は当然増えましたが、「率直に書けた」というアンケート結果が施策の成功を物語っています。

他にも自由記述の中には、

「普段はあまり意識しない上司の仕事ぶりをじっくり見ることで、その大変さや細やかさをあらためて知りました」

「(対象者が管理職の場合)回答することを通じて、この先訪れるであろう自分のキャリアを意識する」

など、対象者(管理職)の仕事や自身の今後に関心を強く持つコメントが多く見られたという点が大変有意義でした。

また、この実施1か月後のアンケートでは、「対象者のその後の変化」や「(対象者の変化による)部門内の変化」の設問についても、意図をもって設定しました。

「変化」を聞くという第一義とは別に、この設問への回答を通じて、回答者自身が「自分たちの回答やコメントが、対象者や組織のコミュニケーションの変化に役だったかな?」と考えたり実感する「機会」にしてほしいというものでした。

結果を見る限り、十分、その役割は果たせたのではないかと思っています。

■最後に:人事が理想論を語り、本質を突き詰める

私たちコンサルタントは、お客様の課題を解決するための考え方をご提示し、成功に向けてナビゲートしていく役割を持っていますが、お客様にも本気で向き合っていただくことがとても重要です。

今回は、この企業の取締役人事部長が、「人事が理想論を語らなくてどうする、人事が従業員のために道を整備しようとしなくてどうする」と力強くおっしゃり、この施策を弊社と二人三脚で進めてくださったことが鍵でもありました。

弊社にとっても大変考えさせられる、気づきの多い案件でした。

◆「どうしたらフリーコメントがたくさん集まるでしょうか・・・」(前編)

先日、ある企業様より弊社ホームページに以下のようなご相談をいただきました。

「360度フィードバックを『周囲からの声で自分の実態に気づき成長につなげる』という目的で、昨年より管理職全員に導入しました。

フリーコメント(以下コメント)も収集しているが、とにかくコメント数が少ない。

実施効果を上げるためにもコメント数を増やしたいのですが何か良い方法はないでしょうか」

もう少し詳しい内容をお聞きすると、さらに以下のことがわかりました。

  • 以前にも研修のツールとして、部下や同僚など周囲のメンバーがアドバイスシートにコメントを記入して渡すというようなことをしたが、この時もそれほど多くは集まらなかった。
  • 「コメントを書くのは面倒だ、時間を取られて大変だ」という声もちらほら聞こえてくる。もちろん、中には愛に満ちた厳しいコメントを書く人もいるが、極めて少数派のようだ。
  • このようなことから、全社的に「他者に無関心」であったり、「他者に関わることが面倒」だと考える風土があるのではないかと感じている。

■人事担当者の考えた「対処」方法

少しでもコメント数を増やしたい、しかし回答者にとってコメントの記入は「面倒」「手間がかかる」「好意的に受け入れられていないもの」と考えた人事担当者は次のようなしくみ面での対策の導入を考えていることを話してくださいました。

A.コメントを必須記入とする

記入しないで回答を終了しようとすると、システム側からアラート≒注意が出るしくみを導入する

B.コメントを2問から1問に削減する

今まで:(1)「対象者の強みや良いところ」、(2)「対象者の課題や気づいてほしいこと」の2問

これから:「対象者の強みや課題などや気づいてほしいことを何でも記入してください」の1問

まずはコメント欄を1つに絞ったうえで、必ず何かのコメントを書いてもらうことで、コメント数を増やすとともに、対象者に意味がある結果がフィードバックされることをねらったようです。

また、強制的にでもコメントを書かせることを通じて、相手(対象者)に関心を持つ風土も高まるのではないかと期待されたようです。

■本当にこの対処方法がベストでしょうか・・・

ここまで読んでいただいた読者の皆さまであれば、どんなアプローチでお考えになられるでしょうか。

人事担当者の対処方法でいうと、「コメントの数」は増えるかもしれません。

しかし、ここで考えていただきたいのは、この対処方法で本当に実施効果が高まるのかということです。

「実施効果が高まる」とは、導入目的である『周囲からの声で自分の実態に気づく』が実現できることを指すと考えます。

コメントでいえば、その量も質も良いことが望ましいことになります。

「量」はコメントを必須回答としたので良いとして、「質」はどうでしょうか。

例えば、コメントを記入せずに回答を終了しようとした時に、「コメントは必記入です。記入の上、回答終了ボタンを押してください」といったアラート(注意)が出た場合、回答者の中には、やや不愉快に感じ、人によっては「ちぇっ」と舌打ちする方がいることも覚悟しておかねばなりません。

そうすると、気分的にも前向きなコメントを期待することは難しくなってきます。

さらに、360度フィードバック施策そのものへの満足度や評判を下げることにもなるかもしれません。

折しも、この話を別のお客様に差し上げた時に、「質の定義が難しいですね」という質問・意見をいただきました。

その場合は、まずは「そもそも、どんなコメントであれば質が高いと言えるのか?」ということを考え、その上で「そのためには、経営・人事サイドとして、どんな準備や働きかけをすればよいのか?」を考えていくことでヒントが見つかるでしょう。

なお、誤解のないように申し上げておくと、「コメントを必須とする」という施策自体はよくある有益な手段であり、間違ってはおりません。

大切なことは、

「コメントが少ない」→「コメントを必須にすればよい」

という「対症療法」では、解決し得ないこともあるということであり、

「本当に考えるべきかは何か(今回は実施効果)」を今一度見直してみましょうということでした。

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このコラムの後編(7月12日ごろを予定)では、このお客様がどのようにこの問題の解決に向けて進んでいかれたのかをお伝えしたいと思います。

楽しみにお待ちください。

◆“働き方改革”を阻む「社会的手抜き」について考える

労政時報(労務行政)から発行されている書籍『高業績チームはここが違う』を読んでみました。

この書籍は、平成27年度に日本心理学会で優秀論文賞を受賞されており、心理学的な観点を取り入れながら、実際の現場でのデータやインタビューを分析された納得感の高い内容となっています。

人事関係者にとっては既にご存じの内容も多いですが、大事なポイントがうまく整理されており、新しい発見などもある一読に値する書籍だと言えるでしょう。

この書籍の中で、以前から気になっていたキーワードに目が留まりました。

「社会的手抜き」という考え方です。

「リンゲルマン効果」「フリーライダー現象」「社会的怠惰」と呼ばれることもあり、一度は目にされたことがある方も多いかと思います。

「社会的手抜き」とは、集団で作業を行うと個人で作業する時よりも一人あたりの“生産性”が低下する現象と言われています。

端的に言えば、「組織の力は個人の力の総和より小さくなってしまう」ということです。

この考え方を初めて聞いた時は、大きな衝撃を受けたものです。

それまでは、「個人の力を1とした場合、2人になるとその力は2(1+1)よりも大きな値になる。更に組織になると、組織の力は個人の力の総和よりも大きくなる。これが組織の良いところだ!」と考えていましたし、子供(学生)の頃からそう教わってきた方も少なくないはずです。

しかし、多くの企業に対して組織強化のお手伝いをしていると、個人力の総和より組織力が弱くなっている状況を目にすることが多く、今では「社会的手抜き」にいたく共感しています。

確かにアイデア発想などにおいては、1人で考えているよりも2人または複数人で意見を出し合った方が優れたアイデアが出てくることはあるでしょう。

しかし、“生産性”という観点においては、多くの企業や組織で「社会的手抜き」が生じているのではないでしょうか?

今回、「社会的手抜き」に着目したのには、大きな理由があります。

「働き方改革」につながるテーマであるということです。

現在多くの企業が、「働き方改革」に取り組まれています。

「働き方改革」は“残業時間の削減”ということに注目が集まりやすいですが、その本質的な課題は「生産性の向上」であると言えます。

この「社会的手抜き」を掘り下げて考えることは、「働き方改革」「生産性の向上」におけるヒントになるのではないかと思ったのです。

さて、「社会的手抜き」を解消するためには、何故これが生じてしまうのかという原因を明らかにしておく必要があります。

論者によってさまざまな原因が語られていますが、ここでは主な4つのことを紹介します。

1)「業務分担」の問題

各々の作業において重複が多くあることで生じる無駄。

各々の作業の目指す方向が一致していないことで生じるブレ。

2)「当事者意識」の問題

集団の中で自分の役割が見えにくいために生じる貢献意識の低下。

自分がやらなくても、他の誰かがやってくれるだろうという当事者意識の希薄化。

3)「評価」の問題

自分だけがんばってもきちんと評価してくれないことで低下するやる気。

集団だと手抜きしてもばれないのではないかという怠惰な感情

4)「意識持続」の問題

集団に埋没することで自分への注目が薄れ、緊張感や集中力が徐々に低下。

上記1)〜4)は、上位者(管理職)に起因すること、本人に起因することが混在しており、誰に原因があると一概に決められる現象ではありません。

上記のことも踏まえ、「社会的手抜き」を減らし生産性の向上を図るには、どのようなことが必要でしょうか?

現場で働く社員が、どのような状態になればよいのでしょうか?

“自分の役割を認識し、当事者意識が高く前向きに業務遂行している状態”

当然かもしれませんが、各々の社員がこのような状態になれば、生産性は向上していくでしょう。

この状態をつくるためには、上司のマネジメントが欠かせません。

部下自身の努力のみで実現することは、極めて困難です。

  • 部下に明確な役割と目標を与え、その意義や重要性をきちんと説明して納得させること
  • 成果を公正に評価し、きちんと報いること
  • プロセスにも着目し、褒めるなどして動機づけること

一例ではありますが、これらの「マネジメント基本行動」は最低限必要でしょう。

しかし、「社会的手抜き」を減らし生産性を高めるには、更に【重要なこと】があるように感じています。

上記した「社会的手抜き」の4つ目の原因に関係することです。

それは、「程よい緊張感」

「周囲(上位者や同僚)に自分のことを見られている」「周囲が自分のことを見てくれている」と感じたことで、緊張感を覚えて真摯に仕事に取り組まれた経験を皆さんもお持ちではないでしょうか?

上司には「マネジメント基本行動」に加え、「程よい緊張感を与えるマネジメント」が求められていると思うのです。

「程よい緊張感を与えるマネジメント」の具体的な方法の1つとして、部下と接する機会を多く持つことが挙げられます。

上記のとおり、「見られている」「見てくれている」ことを部下に実感させるのです。

部下の様子を日々観察するだけでなく、部下と接する中で感じたことや気づいたことを伝えるというマネジメント行動です。

ここで大事なことは、接する頻度を多くするということです。

「見ているよ」といったメッセージを伝える回数が多い方が、部下の緊張感は高くなります。

例えば、「日々の声掛け」、そして「短期サイクルで1on1ミーティング(部下面談)を行うこと」も効果的な方法と言えるでしょう。

「程よい緊張感」を与えることで、部下の集中力は持続し「社会的手抜き」の軽減が図れます。

ここで大きな問題となるのは、「程よい緊張感」の“程よい”とはどんなレベルなのかということです。

緊張感が高すぎると部下は萎縮し生産性は低下します。

逆に、緊張感が低すぎるとぬるま湯的な雰囲気が組織内に蔓延し、「社会的手抜き」がより促進されてしまうでしょう。

更に問題であるのは、部下に対して「程よい緊張感」を与えることができているかどうかが、上司自身にわからないことです。

「上司が与えている緊張感」と「部下が感じる緊張感」には大きなギャップがあります。

特に、上司と部下の世代(年齢)差が大きいと、このギャップは顕著になる傾向があります。

上司と部下の意識ギャップ状態をどのようにして、上司本人に気づかせるのか?

このギャップを客観的に捉えることができる手法として360度フィードバック(360度評価)があります。

組織の生産性を高めるための部下マネジメントには、さまざまなやり方があるでしょう。

いずれのやり方にせよそれを活かすためには、部下との心理ギャップの状態(上司と部下の心理的な距離、目に見えにくい関係性)を正しく把握することが欠かせません。

360度フィードバックは、部下が感じていることを上司に伝えることができる手法でもあります。

「働き方改革」「生産性の向上」への取り組みの中で、360度フィードバックという手法の有効活用を考えてみませんか?

◆マネジメントに効果的な「ゴールデンサークル」

弊社は多くの企業様において360度フィードバック(360度評価)の結果を使った研修を行っています。

長時間拘束することなくできるだけ短時間で、マネジメント研修の実践的要素を織り込みながら、理想論ではなくマネジメントの現状(360度フィードバックの結果)を見える化して本人に示すことで気づきが多く行動改善に繋がりやすいため、たくさんの企業様からたいへん好評を得ています。

この研修に参加される管理職の皆様と話をしていると

「最近の若手は指示がないと動かない。」

「自分が若い頃はもっと自発的に仕事に取り組んでいた。」

「若手に対してどのように接すればいいか分からない。」

といったような発言を聞くことがたいへん多くあり、どの企業様においても管理職のマネジメントに関する悩みはある程度共通していると感じています。

少し極端な表現になってしまいますが、悩んでいる方はまだ良いのかもしれません。

というのも、自分自身が若かりし頃に受けてきたマネジメント、例えば厳しい指導や叱責を何の悪気もなく(更には良かれと思って)そのまま現在の部下にも行うと、若手社員などはパワハラのように感じてしまいメンタル不全に陥ったり早期離職に繋がってしまったりというケースもあるからです。

ここで突然ですが、「ゴールデンサークル」という理論をご存知でしょうか。

これは、マーケティングコンサルタントであるイギリス人のサイモン・シネック(Simon Sinek)が提唱している理論です。

サイモン・シネックはリーダーシップに関する著書も多く出しており、人が何かを思考する時には「Why→How→What」という3つの階層があると定義しています。

例えば同僚や部下といった自分の周りにいる人を動かすためには、いきなり具体的な施策(What)から取り組むのではなく、まず何のために行うのか(Why)、そして次にどのようなやり方をとると良いのか(How)を考え、そして最後に何をするのか(What)を本人に考えさせると効果的であるという理論です。

サイモン・シネックのゴールデンサークル理論を使って冒頭の状況を考察してみましょう。

多くの企業様に状況を伺っていると、管理職が部下マネジメントを行う際にWhyを割愛してしまっているように感じます。

その原因として例えば次のような2つの原因が考えられます。

まず、「WhyやHowは部下が自分で考えて業務に取り組まなければ成長しない」と考えている管理職がおられるということです。

そしてもう1つは、管理職がマネージャーというよりプレイングマネージャーであることが多く、プレイングに時間を取られてWhyやHowを教えることまで手がまわらない状況にあるということです。

管理職は、自分が管理する業務を素早くこなしていくために部下に対してシンプルに何をすべきか(What)を指示し遂行してもらわなければなりません。

しかし、部下(特に若手社員)はなぜそうしなければならないか(Why)、そしてどのようにすれば良いのか(How)が分からず困惑してしまうという状況に陥ることがあります。

こういったことが繰り返されることで若手はメンタル不全や早期離職に繋がるようなストレスを感じるようになります。

現在管理職になっている方々が若い頃はどうだったでしょうか。

おそらく、上記と変わらず上司から丁寧にWhyやHowに関する説明を受けることはなく、黙々とWhatに取り組まれていた方が多かったのではないでしょうか。

当時は疑問に思うこともなく業務をこなすことで成長できたと感じており、自らが管理職となった現在も同じように部下マネジメントを行っている方が多いと思います。

「自分はそういう環境で育ってきた。」

「部下にも同じようにすればいいはず。」

「なのになぜ最近の部下は自分の若い頃のように業務に取り組んでくれないのだろうか。」

このように考えることはないでしょうか。

過去、例えば高度成長期において、管理職から若手社員に対してWhyを説明する必要はありませんでした。

なぜならWhatを遂行することで賃金の上昇や年功にそった昇進が保証されていたためです。

会社で何をするか(What)、それは自分にとって間違いなくメリットがあったから(Why)です。

現在の若者を取り巻く状況は大きく変わっています。

成果主義の導入で安定した賃金上昇や昇進が約束されていません。

また、安泰といわれていた大手企業が経営難に陥ったり、経済のグローバル化で日本経済の先行きも不透明です。

ただWhatに取り組んでいるだけでは自分のWhyを満たすことが出来ない状況なのです。

現在の若者はやる気がないわけではなく、夢や希望を持つことが難しく漠然とした不安を抱えながら生きている人が多いというのが実情です。

現在管理職の地位にある方と若手では、置かれている(置かれていた)状況が異なるため考え方に大きな隔たりがあります。

まずは「違うんだ」ということを認識することが大切です。

そして、なぜこの仕事をしなければならないのか(Why)から入り、どのようなやり方があるのか(How)を示すことによって、若手社員は仕事(What)に取り組みやすくなります。

管理職と若手社員の考え方の違いに気づかせるために360度フィードバックを活用されている企業がたいへん多くあります。

360度フィードバックは一般的に選択式設問と自由記述式設問(フリーコメント)によって構成されます。

例えばフリーコメントとして、「何をしなければならないのかという指示は出ますが、なぜそれをしなければならないのか、どのように取り組めばいいのかが分からないためにうまく対応できず叱責されることがあります」というようなことを書かれる場合があります。

自分が良かれと思って行ったマネジメント行動が、実は若手社員にとってはストレスに感じるものだったということが分かることがあったり、若手社員が何を考えているのかどんなことを求めているのかを知ることができたりします。

まずそれらを把握した上で、部下に対してどのようにアプローチをしていけばよいかを考えることが大事です。

Whatだけ伝えれば良い部下、Whyは理解できているからHowを教えれば良い部下、そしてWhyを伝えることから始めないといけない部下、それを見極めるツールとして360度フィードバックは効果的です。

部下それぞれがWhy→How→Whatのどの階層にいるのかを見極め、この流れで部下マネジメントを行っていけば部下にとっても仕事がしやすく、そして上司である管理職に対する信頼度も上がることに繋がります。

それが職場の活性化、業務効率改善にも役立つことがあります。

◆ランニングは科学、仕事の進め方やマネジメントも科学

ご存知のように空前のランニングブームです。

秋から初春にかけて全国のいたるところで、毎週のようにロードレースが開かれ、それこそ初心者からシリアスランナーまでそれぞれの楽しみ方で参加しています。

このコラムの読者の中にも、ランニングを趣味にされておられる方が一定数いらっしゃることと思います。

かく言う今回のコラム執筆者(大橋)も、学生時代は陸上同好会に所属していたこともあり、4年ほど前からランニングを再開し、現在はかつてないほどのめりこんでいます。

今回、ランニングをテーマに取り上げたのは、誰もが必ず取り組んだことがあるスポーツでありイメージしやすいことに加え、ランニングと仕事のレベルアップの仕方には共通項があるなと感じはじめたからです。

※以下は、すべて個人的な見解です。ランニング学会や経営学会の認定があるわけではありませんのでご了承ください。また、ランニングを取り上げていますが、実はすべてのスポーツや趣味・楽しみなどにも共通して言えることなのではないかと思っていますので、ぜひ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

◆どんな人が速く走れるの?(どうすれば速く走れるの?)

世の中一般には、「長距離が速い人」は以下のような人だと理解されています。

  • 身体的素質(ex.長い足、強い心肺機能)の高い人
  • 苦しい練習を積める人(ex.練習量、根性)

前者は「人種」などが典型です。

ケニア・エチオピアといった身体的素質は見るだけで降参したくなってしまいます(本当は身体的素質だけではないのでしょうが)。

一方、後者は「月間走行距離●●●キロ」など、走りこんだ量が速くなるための指標と考えられていたりもします。

一般ランナーも「月間200キロ走ったら、フルマラソンで4時間を切れる可能性が高まる」などと目安にすることが多いです。

オリンピック金メダリストの高橋尚子さんや野口みずきさんは「走った距離は裏切らない」という名言まで残していました。

私の学生時代は、とにかく練習をこなすスタイルでした。

練習を体力の限界までやりきり、それでも望む成果が出なければ、「素質が足りないのかな」と深く考えもしませんでした。

就職後25年して少し時間に余裕ができたので走りを再開させましたが、身体が全く動きません。太って身体も重くなっていますし・・・。

これはただやみくもに走るだけではダメだなと思い、ランニングに関する書物を読んだり、ランニングクラブの練習会に参加してコーチに指導を受け試行錯誤したりする中で、ランニングとは体力はもちろん大切ですが、それ以上に科学的に考え、仮説検証を繰り返しながらレベルアップしていくスポーツなのであるという自分なりの結論に至ったのです。

例えば以下のようなことです。

タイムだけを追い求める練習を行うのではなく、トレーニングの目的を明確にし、それを意識しながら行う「フォームはとても重要」であることを理解し、足・膝・腰への負担を減らす、できるだけ地面の抵抗を少なく着地するフォームを常に意識するようにする「理論」と「自分の状況・体型・クセ」などを考慮しながら、自分のフォームを創りあげたり、必要な筋肉をつけたりする(体幹トレーニングなど)目指したフォームになっているかを撮影・確認し、必要に応じてフォームを修正する

◆ランニングのレベルアップの過程は仕事の進め方に似ている

ランニングを再開して強く感じたことは、ランニングで速くなろうとするプロセスは、世の中のハイパフォーマーたちの仕事の進め方によく似ているということでした。

コンサルタントとして、各企業のハイパフォーマーに「仕事の進め方」などの行動特徴についてインタビューさせていただくことが多いのですが、以下のような共通点(一部を抽出)が見出せました。

必ず「目的(何のために)」を問い、手段のみを考えることに陥らないようにしている。仕事の進め方やマネジメントの仕方について、「軸」となる考え方や原則を持っている。困った時、判断に迷う時はこの「軸」に照らして考えている。とはいえ、自分の状況にあわせて、必要なスキルや知識を習得し、「自分の型(フォーム)」を創っている自分が意図した通りに行動できているかを積極的に確認し、仮に厳しい指摘であっても冷静に聞き、前向きに受けとめて行動改善につなげている。

◆特に重要な「他者・客観的な情報」

この1〜4はランニングにおいても、仕事を進めていくにおいても、どれも重要だと思うのですが、特に興味深かったのは4でした。

ランナーとして、自分の目指すフォームになっているかを確認する際には、「専門のコーチに見てもらう」「映像に撮って見る」という方法をとっていましたが、自分の「このように動いているつもり」と周囲への「こう見えている」に大きな乖離があることが珍しくなかったのです。

もっと言うと、「自分はこうしているつもりなのに、実際の映像を見ると全く違う動きをしている自分がいる」ことを発見した際はある意味衝撃であり、自身の思い込みをそのままにしないで、客観的な事実を知らないと大変な間違いを起こしてしまうなと怖くなりました。

と同時に、映像のような武器をうまく使いこなせば、理想のフォームを早く手に入れられるかもしれないぞと嬉しく思ったことを思い出します。

では、これをビジネスのプロセスに置き換えてみます。

自分の行動が周囲にどのように見えているのかを確認するためには、どうすればよいでしょうか?

上司からの指摘もあるでしょうが、それだけだと客観性に欠け、納得できないこともあるでしょう。

納得感を高めるためには、自分の行動をさまざまな観点から声をもらう、すなわちフィードバックしてもらうことが重要となってきます。

そして改めて思い起こしたのが「360度フィードバック」の効能です。

仕事場面、マネジメント場面でも同じような「嬉しさ」が得られるのではないでしょうか。

ポジティブな賞賛や期待をもらう という「嬉しさ」

事実を知ることができる という「嬉しさ」

今、この時点で気がつけて良かった という「嬉しさ」

など、いろいろな形の嬉しさを得ることができるツールであるということができます。

他者からの声を聞くことは時には怖さを伴うことではありますが、嬉しいことでもあります。

ぜひ積極的に取り入れてみてはどうでしょうか。

◆360度フィードバックを継続しても、行動改善がない人にどう向き合うか?

「360度フィードバック(360度評価)は、継続的に実施するものなのでしょうか?」

初めて導入を検討される会社から質問を受けることが多くあります。

弊社が導入支援させていただいているほとんどの会社は、継続的・定期的に実施されています。

実施頻度としては毎年1回が多いです。

何故、継続して実施されるのでしょうか?

継続実施されている会社からはその理由として、

  • 対象者へのヒヤリングやアンケートにおいて高い満足度や継続して欲しいとの要望が多い
  • 定期的なマネジメントの見直し支援、また人材育成の仕組みとして定着させたい
  • 1回で終わってしまうと中途半端(「結局あの実施は何だったのだろうか・・・」といった人事部に対する不信感も生まれてしまう)

といった声が聞かれます。

そして何よりも、継続実施を決められる大きな理由は、「現場で良い変化が生じているという事実(実感)」があるということが言えるでしょう。

360度フィードバックは「周囲からどう見えているのかをありのまま伝えること」によって対象者の感情を揺り動かすため、行動改善を促しやすい手法です。

一回実施して終わりではなく、2回、3回と継続的に実施を繰り返すことで、改善の進捗状況を自ら確認でき、またリマインドによって再度意識づけが行われるために一層効果が高まります。

もちろん、2回目、3回目の実施においては一層の工夫が必要です。

単に実施して結果を返すだけだと十分な効果は出ないどころか、マンネリ化してしまう恐れもあります。

さて、ここからは本コラムの冒頭タイトルのとおり、360度フィードバックを継続的に実施してもなかなか行動改善に移せない人に対し、人事部としてどう対応していくのかについて書いていきます。

前述のとおり継続的に実施することで、多くの対象者は行動を改善されます。

しかしその一方で、行動改善がほとんどみられない方も少なからずいらっしゃいます。

程度の差こそあれ、多くの会社でもこのような方がいらっしゃるのではないでしょうか?

そのまま放置しておくことは、組織そして会社としても大きなマイナスです。

その対象者の部下は、モチベーションも下がり本来の力を発揮できません。

それどころかメンタル不全や離職にもつながってしまう恐れもあります。

ここからは、ある企業の事例を紹介します。

A社は課長職約300名を対象に4年前から継続して年1回、360度フィードバックを実施しています。

初年度の実施において、部下からの回答結果が著しく低い方が15名いらっしゃいました。

フィードバック研修で自分の課題に気づかせた上で行動改善を促すプログラムを提供し、更に2年目、3年目と実施を繰り返すことで、上記15名のうち約半数の方は改善が見られてきました。

しかし、残り半数(7名)の方は4年経過してもあまり変化は見られませんでした。

それらの方に共通しているのは、部下の話を聞かない一方的な指示命令型マネジメントであるということです。

部下をほめない、尊重しない、時として感情的に振る舞うこともあり、組織の雰囲気は好ましい状態ではありません。

「360度フィードバックによって多くの対象者のマネジメント状況は、以前より良くなってきました。しかし、この7名は厳しい状況のまま変わっていません」「それらの対象者の行動を改善させるために、どうすればよいのでしょうか?」

A社人事部からの相談を受け、7名の方に対して個別面談を行うことにしました。

個別面談は、「外部専門家の客観的な立場から、現状を正しく認識させること(正しく気づかせること)」「行動改善を自主的に起こすように導くこと(アドバイスや動機づけ)」を狙いとしていますが、その際に弊社が大事に考えていることがあります。

「その方は、何故、部下のやる気を低下させるひどいマネジメント行動を取っているのか?」

一方的な指示命令型マネジメントや高圧的なマネジメントを取ってしまう原因は、「若かった時に上司から厳しく指導されたおかげで成長できたという自負」が背景にあることが一般的であり、指導は厳しくて当然という意識を持たれていることにあります。

また、「上司からほめられた経験がないため、ほめ方がわからないし、ほめるのも苦手」といったこともあるでしょう。

とはいえ、一般的な型にはめるような見方をしてしまうことには注意が必要です。

多くの面談を通じて感じることですが、マネジメントスタイルはその方個人の歴史の積み重ねで出来上がっていると言えます。

型にはめてしまうと、個々人の背景や心理的な原因を見過ごしてしまい、適切な解決策を見つけることができません。

面談の進め方についてはここには記しませんが、7人の方との面談を行う中でさまざまな発見がありました。

営業企画課長のBさんは、「初回の360度フィードバック結果によって、部下とのコミュニケーションに問題があることは理解できた。自分でも薄々わかっていたので、それを解消するために、自分の考えをもっと部下に理解してもらおうと、事あるごとに自分の考えを部下に対して熱く発信している。それなのに部下との距離は縮まらない。あれだけ喋っているのに、何故伝わらないのだ・・・」と悶々とされていることがわかりました。

Bさんは「コミュニケーション = 自ら伝えること」だと思い込んでおり、「相手の話を聞くこと」には考えが及んでいないようでした。

Bさんから一方的に口うるさく言われることに部下はうんざりしており、Bさんとの距離もどんどん離れてしまったのです。

Bさんの固定観念が、「“伝えること”と“聞くこと”を両立させる」という本来のコミュニケーションを阻んでいたのです。

また開発課長のCさんは、360度フィードバックの結果から「部下を褒めることが少なく、ダメな部分を指摘ばかりしている」といったことが現れている方でした。

面談の中で掘り下げていくと、Cさんが何故、上記の好ましくない行動を取っているのか、その原因が徐々にわかってきました。

Cさんは新任課長として張り切っていた頃、目を掛けていた部下がいました。Cさんはその部下の育成に熱心に取り組み、褒め、尊重するなどして動機づけ主体のマネジメントを行っていたようです。

しかしその部下は、自分の実力を勘違いして良くない方向に進んでしまい、Cさんを裏切るような行動などを取り始めたとのことでした。その部下に期待していただけに、Cさんは大きなショックを受けました。

それがきっかけで部下に対する関わり方が変わってきてしまったようです。「ほめること」は部下に変な自信をつけさせ、自分の実力を勘違いさせてしまった...。

そう考えたことが、現在の褒めないマネジメントにつながっているようでした。それほど多くはないですが、時々聞く話でもあります。

お二人ともに、ご自身の思い込みは強いものの、根幹には部下とうまくやっていきたいという思いは持たれていることがわかりました。

お二人に対する具体的なアドバイスやその後講じた施策については、ここには記しませんが、A社人事部からは、弊社が個別面談したことでお二人とも以前よりも少しではあるが行動改善が見えてきたという報告を受けています。

皆さんの会社には、360度フィードバックを継続実施しても、好ましくない状態のまま行動改善がみられない方はいらっしゃいませんか?

「また今回も、○○課長は好ましくない状況のままだな...」などとなかば諦めていらっしゃるようなことはないでしょうか?

360度フィードバックだけでは十分に把握できない個人の内面部分にアプローチした施策を講じることで、改善行動が進み始めることも少なくありません。

今回紹介したのは個人面談によるフォロー施策でしたが、360度フィードバックの実施効果を高めるために、さまざまな方法を考え実践しています。

管理職のマネジメント改善を本気で考えている企業にとって、本コラムの活用事例がヒントになればと願っています。

◆「要因」による「行動」、そしてその「結果」

先日、元プロ野球選手であり元監督でもある星野仙一氏がまだ70歳という若さで惜しくも亡くなられました。

星野氏がドラゴンズの青年監督として選手を熱血指導していた姿、試合中の乱闘騒ぎでは監督自らが先頭をきって相手チームに向かっていった姿を、ある年齢層以上の方はよく覚えおられるのではないでしょうか。

ドラゴンズで2回、そしてタイガース、ゴールデンイーグルの監督も経験され、年齢とともに少し柔らかくなっていったように思いますが、やはりドラゴンズ監督時代の星野氏が強烈な印象とともに一番よく記憶に残っています。

星野氏の選手に対する指導方法はとても厳しいもので、時には鉄拳制裁さえも辞さなかったものの、本当は選手やコーチ、裏方にまで気を配り誰よりも心優しい指導者だったとも言われています。

熱くて優しい指導者としてとても人気のある方でした。

少し話は変わりますが、数年前、ある高校野球の監督がこんな発言をしたとマスコミに報じられ、驚いたことがあります。

「試合中に緊張して舞い上がっている選手を落ち着かせるために、頬を叩くことがある。」

確かに叩かれると我に返ることはあるかもしれません。

しかし、手を上げることでしか選手を落ち着かせる方法を知らないとしたら、とても残念なことのように思います。

最近、様々なスポーツにおいて暴力に関する問題が起こっています。

正確にいうと、昔から起こっていたものが最近は世間に出やすくなっているといった方が正確かもしれません。

残念ながら「スポーツで大事なものは根性だ」「指導者は甘やかすことなく厳しくしなければ選手が成長しない」などという風潮があることも確かで、指導の際に手を上げることもあったのではないかと思います。

それが時代の変化とともに、「手を上げることはおかしい」という当たり前の考え方ができるようになり、問題が顕在化するようになったと考えられます。

ではなぜ、選手を指導する際に厳しい言葉で叱責したり、時には手を上げてしまうといったことが起こるのでしょうか。

もちろん指導者は決して選手のことが憎くてやっているわけではないでしょう。

選手の技術や能力を向上させてあげたい、試合に勝たせてやりたいという思いが強すぎるが故に、そして自分が選手だったときに同じような指導を受け自分が鍛えられ成長したという思いがあるが故に、厳しい練習を課し、つい怒鳴ってしまったり厳しいことを言ったり、更には思わず手を上げてしまったりしているというのが実情ではないでしょうか。

ここで少し、人が「行動」するということについて考えてみます。

人が「行動」を起こすとき、当たり前のことですがその行動を起こさせる「要因」があります。

そして、行動することによって起こる「結果」へとつながっていきます。

この「要因」→「行動」→「結果」という流れで考察してみると、前述の指導者の行為は試合で勝たせるという「結果」を出すためには厳しい練習(「行動」)が必要であり、それを強いるために厳しい指導(「要因」)をしているといえます。

しかし、このことを冷静に考えてみると、すべての選手が自発的に「行動」をしているといえるでしょうか。

極端にいうと厳しい指導(「要因」)がなければ「行動」しないという状況に陥っている状態なのかもしれません

一般的に、人は強制されると一時的に行動を起こしますが、強制されなくなると行動しなくなります。

では、自発的に行動させるためには何をすれば良いのでしょうか。

行動分析学において「ABCモデル」というものがあります。

A:要因(Antecedent)

B:行動(Behavior)

C:結果(Consequence)

このABCモデルにおいて、自発的な「行動」に最も影響を与えるのは「要因」ではなく「結果」とされています。

「行動」を起こし、良い「結果」を得ると人は嬉しくなりもう1度その「行動」を起こそうと思うようになります。

例えば、誰かに「これ美味しいよ、ぜひ飲んでみてください」と勧められて、あるジュースを飲んだとします。

それが自分にとって「美味しくない」と感じたら、強制されない限りもう1度そのジュースを飲もうとはしません。

しかし、飲んでみて「これは美味しい」と感じたならば、勧められなくてももう1度そのジュースを飲もうと思うようになります。

人は「要因」よりもポジティブな「結果」によって自発的に「行動」することが多くなるとされています。

では、前述の指導者としてすべきことは何でしょうか。

それは選手にポジティブな「結果」を体験させる、与えることです。

ここでいう「結果」とは試合に勝つという大きなものである必要はありません。

練習をすることで良くなってきたこと、これまで出来なかったことが出来るようになったということを褒めるだけでも選手は嬉しく感じ、これまで以上に練習に熱が入るようになります。

練習を積むことで更に良い「結果」を得られる可能性が高まっていくのです。

これはスポーツに限らず、職場での部下マネジメントにも同じことがいえます。

管理職の皆さんは組織の成果(結果)をあげるために部下に仕事(行動)をさせなければなりません。

仕事をさせることに一生懸命になるあまり、「がんばれ」「結果を出せ」というようなことを言って部下を動かそうとしてしまいがちです。

たいていの部下は上司から言われるとその仕事に取り組まざるを得なくなります。

しかし、これは強制されるから「行動」しているのであって、自発的な「行動」ではありません。

部下が自ら動くようにするための方法はいくつかありますが、シンプルで且つ有効な方法として、部下の行動の結果を「褒める」というやり方をお勧めします。

弊社の提供する360度評価(360度フィードバックバック)を導入いただいた企業でも、個人別の結果を見ると「褒める」という行動をした管理職は、360度評価の結果自体も総じて良いという傾向があります。

部下に仕事を強制的にやらせるのではなく、結果を「褒める」ことで部下のやる気を引き出し、部下の管理職に対する信頼度まで向上させているという結果が多く見られます。

部下が自分のことを信頼してくれるということはとても大切です。

信頼できる相手だからこそ意見や相談ができ、信頼できる上司がいるからこそ仕事に対して前向きに取り組むようになるのです。

弊社は、360度評価(フィードバック)実施後の研修もあわせて行います。

その際にも「褒める」という行動のメリットをお話し、管理職の皆さんに「褒める」という行動をお勧めしています。

ただ、「褒めることはとても大事だということはよく分かります。しかし、何を褒めればいいのか、どうやって褒めればいいのかが分かりません」と言われることが本当に多くあります。

そういったときは次のように説明しています。

「褒める」というのはおだてることでもなければ、大げさに相手を持ち上げることでもありません。

もちろん褒め方にも様々なやり方があり、やみくもに褒めることは控えるべきです。

ただ、もし具体的にどうすれば良いか分からないという理由で部下を褒めることが出来ないのであれば、部下の良い行動に対して『いいね』『ありがとう』、良い考えや意見に対して『面白いね』『自分には思いつかなかったよ』というように感じたことをシンプルに口にすることからはじめてみてください。

それを聞いた部下は「褒められた」「上司は自分のことを見てくれているんだ」と感じ、とても嬉しい気持ちになります。

話を冒頭の星野仙一氏に戻します。

星野氏が亡くなったことを惜しむ声が本当に多く報道されています。

中には青年監督星野の鉄拳制裁を受けたとされる元選手でさえも感謝の言葉を述べています。

もちろん鉄拳制裁という選手に手を挙げる行為は絶対に肯定できません。

ただ、星野氏の死去をここまで惜しむ人がたくさんいるということは、選手たちの行動、そして結果を褒めたりフォローすることをとても大切にしていたからではないかと考えます。

もしかすると鉄拳制裁というマスコミ受けする言葉が独り歩きしてしまっただけで、星野氏は選手を褒めたり、フォローしたりすることで実力を発揮させていたのかもしれません。

◆若手社員を生かすも殺すも・・・、「フィードバック」


『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』という本を読みました。

リクルートワークス研究所の豊田義博氏の著作です。

「前向きなのに頑張らない」「意識は高いが、目標は無難。まじめだけど、気が利かない。」そういった最近の若手社員の状況とその理由の考察、そこへの処方箋が書かれています。

本書の詳細については触れませんが、その中に「若手社員の就業意識と実態に関する調査(2016年 リクルートワークス研究所)」について記してあり、大変興味深かったので本調査を読み込んでみました。

http://www.works-i.com/pdf/171207_shugyouishiki2016.pdf

(大手企業勤務・大卒正社員の就業意識と実態を把握するための、22〜59歳の4大卒正社員1690名へのインターネット調査。)

その一部を抜粋します。

Q:あなた自身の仕事についてあてはまるものをお答えください

※ここでは社会人10年未満で集計しています

※設問には、以下の5段階選択肢で回答します。

〜全くそう思わない・あまりそう思わない・どちらともいえない・ややそう思う・そう思う〜

「ややそう思う」・「そう思う」と回答した人の全体に占める比率

1  多様な知識・技術が必要な仕事である 74.6% 
一連の業務を最初から最後まですべて任されている  60.0%
意義や価値の高い仕事である 59.9%
自分のやり方で仕事を進めることができる 59.9%
仕事の結果・成果の反響や手ごたえがある 53.2%

(値はワークス研究所掲載のデータをSDIコンサルティングにて属性を括って再集計したもの)

若手とはいえ「1.多様な知識・技術が必要」と感じていますが、「2.一連の仕事が任されている」「3.意義や価値の高い仕事である」「4.自分のやり方で仕事を進める」は職種・年次差などによるばらつきが出ていると推測できます。

一方で、「5.仕事の結果・成果の反響や手ごたえ」の比率が最も低いのは気になるところです。

もちろん、若手であるため、経営的に大きな仕事を任せられることは少ないかもしれませんが、仕事の結果・成果(そしてプロセス)の反響や手ごたえを感じることは、その後のビジネスパーソン人生を決めると言っても過言ではありません。

それには、若手本人の努力やがんばりが必要なことはいうまでもありませんが、それ以上に重要なのは上司が仕事の結果や成果の反響や手ごたえを伝え・感じさせること、すなわち「上司からのフィードバック」です。

また、実際に顧客企業で360度評価を実施いただくと、多くの企業で、このフィードバックに関する領域は他の課題系やコミュニケーション系の設問と比較して得点が低めに出ます。

(設問例)

期待を伝えながら部下に仕事を任せ、必要な場面ではきちんとフォローしている

・部下の良い取り組みや行動を積極的にほめ、成果をともに喜んでいる

・部下のミスや未熟さを発見した時は、その理由と一緒に叱ったり改善指示を出すなどの対応を行っている

・部下一人ひとりの特性にあわせて意欲を引き出すような働きかけを行っている

(注:実際は各企業の課題に合わせて設問設計しているので各企業により文言は異なる)

これらの設問の他者(部下が中心)の得点が低いのは、他者の立場から見ると管理職の動きが「伝わってこない」「もっと頑張っていただきたい」というメッセージ・要望であると捉えることができます。

一方で、管理職(ライン長)の皆さんのこの領域(フィードバック)に対する自己認識(自己評価)は実はそれほど低くないことが多いです。むしろ、「自分はまずまずやっている」と思われていることが多いように感じます。

360度評価の結果を返却する管理職研修などの場でも、この「フィードバック」の領域において、自己評価と他者観察の得点差(ギャップ)に意外な顔をする管理職の方々をたくさん見て来ました。

また、自己評価を控えめに回答した(こういう方は結構多いのです)ために自己と他者の得点差はあまり見られなかったものの、実は他者の得点の低さに釈然としない思いを抱き続けられる方も相当数いらっしゃいました。

休憩時間にこの方々にお話を聞いてみると、こんな声が・・・。

「私は実際に伝えていますよ。きちんと面談もしています。どうしてなんだろう・・・」

◆フィードバックが上手な管理職(上司)って何してるの?

多かれ少なかれ、どの管理職も「結果のフィードバック」はしているようですが、面談をしても部下が満足・納得しないケースも多いようです。

どうやらフィードバックの中身・質に違いがあるようですが、フィードバックが上手な(部下からの満足度が高く、部下が育つ)管理職はどんなやり方をしているのでしょうか・・・。

以前、さまざまな職種の管理職の方々から部下育成についてお話を聞いたところ、フィードバックが上手な管理職と下手な管理職に大きな違いを見つけることができました。

フィードバックが上手な管理職           フィードバックが下手な管理職
 結果だけでなく、そこに至る具体的なプロセスやその時の気持ちも伝える  ほめる・叱る内容 結果だけ伝える(例:グッジョブだったね/あれはダメだった/○%達成でよかったね/企画通って良かったね 等)
上司は問いかけ中心、部下が話をすることで、部下は自身の考えを反芻し気づくことも多い 話の主体者 上司が話す(7割以上は上司が話している)
やる気にさせることを大切にする叱るときは「力があるのにもったいない」と伝える 伝え方 部下の言葉を淡々と流してしまう(流すと「承認しない」ととらえられやすい)
頻繁に。面談を重要視している。営業同行、休憩などのすきま時間もうまく使う 頻度 目標面談・評価面談などの公式な面談のみ
褒めるときは人前で叱るときは個別に TPO 特に考えない
目的や進め方、部下の気持ちを強く意識し、準備している 事前準備 あまり目的を意識・準備していない

最下段にも記したように、フィードバックが上手な管理職は、目的を強く意識し部下の気持ちを考え準備を怠りません。一方で、フィードバックが不得手な管理職はそこに投資するパワーがそれほど大きなものではないのです。

逆に考えると、重要性を理解し、しっかりとした準備をし行動を変え、継続することで、レベルを格段にあげることができる可能性もあるということもできます。

弊社でも、360度評価の実施のサポートだけでなく、結果の読み取り、そしてその後の行動計画までを立案する「フィードバック研修」をご提供しております。

その中で大切にしているポイントとして、受講された管理職の皆さんが共通して弱点とされる部分を克服するための「具体的で実践的なやり方」を行動改善のヒントとして提供し、「私も明日からやってみよう!」と自ら感じさせる工夫などがあります。

重要なことは、結果を見て気づくことにとどまらず(これはこれでとても大切なことですが)、現場で行動を変えられるための思考をすることです。


世の中の多くの管理職(上司)がうまくフィードバックができるようになり、ひとりでも多くの若手(部下)が仕事の結果・成果(そしてプロセス)の反響や手ごたえを感じて活躍することを願っています。

弊社は、360度フィードバック(弊社ではこのように呼んでいます)専業会社として、これからも多くの企業をお手伝いできればと思います。

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